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楽曲の詩世界を描いた短編小説をまとめております。
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短編小説「夜空に星を投げた」

短編小説「夜空に星を投げた」

 (子どもの頃、母さんがよく話していた。
「死んじゃった人はみんな、星になって僕たちを見守ってるんだ」
って)

 近くの高校に入学し、2年生になって3ヶ月が過ぎようとしている。
 1年生の頃がとても楽しかったので、まもなく進級を迎える僕はその時が近づくにつれ、抱く不安も大きくなっていった。
 いざその時が来てみれば、1年生の時に同じクラスで仲良くしていた友達も何人かいた。
 安心した。
 きっと

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短編小説「決別」

短編小説「決別」

 電車の窓越しに見える見慣れた風景が、過去になったはずの感情を思い出させる。
 初めて会った日から今まで、何1つ変わらなかった。
「変えられなかった」というのが正しいか。
別れの時が近づいてきている。

 1つ上の彼女に対する憧れを、ただの憧れのまま終わらせたくない。
 そう思い、勇気を出して1歩を踏み出した。
 それに対して彼女は、同じ1歩をこちらに踏み出してくれた。
 大層な物言いだが、わかり

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短編小説「新世界」

短編小説「新世界」

 ふと目が覚めた。
 雲の上。
 空から地上を見下ろしている。
 初めての感覚だ。
「目が覚めたね」
 声が聞こえた方を向くと、1人の男がこちらを見ている。
 上下黒のスーツに黒のネクタイ、白のワイシャツ。
「あなたは?」
 頭に浮かんだ疑問をそのまま声に出す。
「僕かい。僕は夢の世界の案内人さ」
 彼はにこやかに答える。
 そうか。
 僕は今、夢の中にいるのか。

 彼に着いて、僕は夢の世界を渡

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短編小説「薔薇の棘と傷」

短編小説「薔薇の棘と傷」

 貴女は全て忘れてしまったのか。
 それとも覚えていて何も言わないのか。
 少なくとも、僕の中ではまだ終わってない。 
 終わらせることができていないんだ。

 始まりは確か、大学に入って2ヶ月くらい経った頃だったろうか。
 学校の授業が終わり、友人と帰路につく午後。
 蝉の声が耳に入るようになった、夏の始まりを感じる日だった。
 暖かさから暑さに変わりゆく日差しを受けながら、緩やかでありながらも

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短編小説「Dead End」

短編小説「Dead End」

 足元の悪い道を、息を切らしながら歩いて目的地へ向かう。
 周りには木々が生い茂り、行く手を阻む。
 止めてくれているのだろうか。
 だとしたら、君達が最初で最後だ。
 私は、私の「物語」を終わらせに来た。

 学生時代から、想いを寄せた女性には悉く相手にされなかった。
 もしくは、既に私は必要なくなっていた。
 しかし、私の周りの人間は私が手に入れられなかった「愛」というものを掴み、育み、慈しん

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短編小説「睡蓮」

短編小説「睡蓮」

 僕が大学生の時に働いていたアルバイト先で、初めて出会った時から僕はあなたに惹かれ、想いを寄せていた。
 そして、抱いたこの想いが今度こそ、形になってほしいと願っていた。
 しかしながら、もう既に僕があなたにとっても特別な存在であろうと、近づく余地なんてなかった。
 当然だろう。
 その透き通るような美しさと汚れを感じることのない性格に、僕と同じように価値を感じる男がいるのは理解できた。
 その日

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