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「倒して勝つ」

彼らは強い口調でこう言った。

僕は過去に2度ほどタイトル防衛戦を前にしたボクシング日本王者を取材したことがある。

角海老宝石ボクシングジムの大橋健典選手と、ワタナボクシングジム所属の久我勇作選手だ。

彼らの特徴は、2人とも、ハードパンチャーであるということ。踏み込みが早く、一発で倒せるパンチを持った魅力的なボクサーだ。

そして奇しくも、彼らは、同じ言葉を使った。

ただ「勝つ」のではなく、「倒して勝つ」という言葉。彼らからは、王者としての立場を守るのではなく、倒して次へ、倒して世界へという前向きなパワーを感じた。力強くKO勝ちを宣言する姿に頼もしさを感じていた。

だが、結果はTKO負け。

2人ともだ。

多くのファンと同様に、リングサイドのカメラマン席から、「一発当たれば」と形勢逆転を期待していたが、その願いは最後まで叶わなかった。距離を制され、的確なパンチを被弾し続けて、心と身体を削り取られていってしまった結果は、偶然か、それとも必然か。

再起の拠り所となるモノ

そんな非情で厳しい世界に身を置く彼らだが、一度負けたくらいで挫けてしまうほど、ヤワな男ではない。引退するには若すぎる彼らは、少し休んで、再び再起へ動き出した。


再起するボクサーを見るたびにいつも思う。

地位や名誉を失い、顔や身体を破壊され、プライドを切り裂かれても、再び立ち上がることができるのは、なぜだろうか。

そんなことを考えていた時に、ふと思いだしたことがある。

「俺のパンチが当たれば、誰でも倒せる」

確か、彼らは取材中、そんなことを言っていなかったか。彼らは、相手がたとえ、モンスターと言われるあの井上尚弥選手だろうとも、同じことを言うはずだ。

あるアスリートは「夢を語るのも、目標に向かって努力するのも、最後は自分次第」と言っていた。周囲の応援が力になるのは間違いないが、最終的には、「倒せるはず」「勝てるはず」という自分を信じる力が自らを奮い立たせるのだろう。

彼らは、ハードパンチャーであるがゆえに破れ、ハードパンチャーであるが故に、再び起き上がった。つまり、自分の武器に絶対の自信を持っていることが彼らの再起への拠り所なのだ。

彼らの生き様は、大きな武器を身につけることの重要性を僕たちに教えてくれている気がしてならない。

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せがわたいすけ(瀬川 泰祐)/久喜市議会議員・スポーツライター・編集者ほか
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