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いつの間にか自分のことを考えてしまうのが良いマーケティングの入門書かもしれない『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』を読んで

たまたま縁があって、2月末くらいまでに「マーケティングの入門書」を読む必要が出てきた。せっかくだから、メモ程度に感想を書き溜めておこうと思う。今回は2冊目。

大学では、一応マーケティングの授業を受けたことはあり、社会人になってからもマーケティングの現場で仕事をしてきた。だから「マーケティングの入門書」というと新人の頃は先輩にお薦めの本を聞き、今は後輩に聞かれることも多くなった。今回は、社会人1年目の時に受けた「新人研修」の際に講師の先輩社員の方に教えていただいた一冊。その先輩とは、その後も何度か一緒にお仕事させていただき、現在は同じ部署で働いている。業界でも一目置かれた存在で、学術的なことから実務まで幅広く詳しい方だが、その方がここまでくだけた内容の本をお薦めできるあたり、あらためてすごいなぁと感じてしまう。(「分かっている人」は、もうちょっと固い本をお薦めしそうな印象なので…)

読んだ本

タイトル:新人OL、つぶれかけの会社をまかされる
著者:佐藤義典
読書時間:120分くらい

感想

主人公である新人OL(とはいっても新卒ではなく中途入社)がつぶれかけたイタリアンレストランを立て直していくというストーリーを読みながら、マーケティングの基礎的な理論を学んでいけるという本。マーケティングに限らず、漫画やストーリーを活用した入門書だと、登場人物のセリフがずっと説明口調(理論の解説)で、全然ストーリー性がなかったり、あっても全く面白くないことが多い印象があるが、この本はストーリーもちゃんとおもしろい。さらに、マーケティングの事例が「レストラン」という誰もが体験したことのあるサービスで語られているので、主人公と一緒に考えながら読み進められるところもこの本のポイントだ。理論ばかりで頭でかっちにならずに、実行の際に重要なポイントが書かれている。例えば、主人公にマーケティングを教えてくれるコンサルタントのセリフでも

「だろ?市場を分析するのもまあ悪くはないけど、マーケティングで重要なのは、こういう『肌感覚』なんだよ」
「そうそう。マーケティングは、こんな『外食市場の動向』とか、広岡商事の会議室内で起きているんじゃないの。真子が、友だちに『どのレストランがいいの?』って聞いて、このレストランに予約をする、その間に起きているんだよ」

といった調子である。(ちょっと『踊る大捜査線』っぽいけど…)
「マーケティングの入門書」を読んで、学びたいと思っている人はその理論を記憶して理解しようとするが、基本的なものだけでも結構多いし、理解しようとすると、いろいろ矛盾してきちゃって学習が進まないことも多いのではないかと思う。この本では、最低限知っておきべき「重要な」理論は5つだけと言っており、バサッと他を切り捨ててしまっているので、入門として学ぶにはとっつきやすそうだ。

最低限知っておきべき「重要な理論」は5つだけです。
1 ベネフィット ― お客様にとっての「価値」
2 セグメンテーションとターゲティング ― お客様を「価値」でくくる
3 強み・差別化 ― 競合との「価値」の差
4 4P ― 「価値」を実現し、対価を受け取る、売り物・売り方・売り場・売り値
5 想い ― 提供する価値を通じて、世の中にどう役に立ちたいのか

もちろんこの5つは主人公がレストランの事例を解決しながら実践していくため、頭に入ってきやすい。
上記のような重要なまとめは、章ごとにストーリーとは別に記載されている。こういった「まとめ・解説」と「ストーリー」の分量が「まとめ・解説」のほうが多くなっていて、ストーリーがあるといいつつ解説が永遠続いている…ような入門書もあるが、この本は「ストーリー > まとめ・解説」といった量になっており、理解を深めるための文章として効果的に「まとめ・解説」使われている。読むのが疲れてしまうようであれば、読み飛ばしてしまっても「マーケティングの入門書」としての効果は期待できると思う。

個人的に気になった点

ベネフィットでニーズとウォンツをまとめちゃう!
他の本を読んだ時のメモで「ニーズ」と「ウォンツ」の話をした。書かれている内容と、大学で学んだ記憶が異なるような気がして(大学で学んだ記憶と同じことを言っているWebの記事もあった)少し混乱してしまった。おそらく明確な正解を求めることが間違っているのだろうが、どうしても日本の教育を受けたきた身からすると「正解はなんなんだぁ~!」とすっきりしない。おそらく「マーケティングの入門書」を読むような人たちの中にも同じような気持ちになる人も少なくないと思う。ただ、この本では下記のようにそのもやもやをバッサリ切ってしまっている。

ベネフィットとは、この「お客様が買っているもの」や「お客様にとっての価値」のこと。平たく言えば「ニーズ」(お客様が求めるもの)です。ニーズとウォンツは違う、などというご意見もあるでしょうが、両者は明確に区分しにくいもの。要は「価値」なので、本書では「ベネフィット、価値、ニーズ」を同義語として扱います。

そうか。もうそれでいいなら、迷うまい。もしかしたら学術的には思い切った発言なのかもしれないけど、こういう思い切りが入門書には必要な気がする。

いつの間にか自分のことを考えてしまうのが良いマーケティングの入門書かもしれない
今回改めて読んだが、前にも書いた通り、この本は私が新卒の時に先輩に薦められた本で、その時に一度読んでいる。さらに学習やその後の実務経験で、この本に出てくるマーケティング理論は知識として頭には入っている(はずだ)。でも、その「使い方」といわれると恥ずかしながら自信がない。考える時のフレームワークとして利用するときはあっても、ただ考え方の枠に当てはめているだけのような気がする。自分が関わっているサービスの価値はなんなのか、もちろん表面上の答えはすぐに出てくるし、なんとなくそれっぽい理論と結び付けて説明はできるが、自信満々でこたえられるほどではない。きっと私と同じ思いをしている人はたくさんいると思うが、この本ではそういった理論の「使い方」「やり方」についても具体的な方法が書かれている。例えば、「ベネフィット・価値」を考える際には

1つは「使い方」を考えること。価値は使い方に現れるからです。使い方とは、「Time」(時間)、「Place」(場所)、「Occasion」(状況)のTPOから考えます。

と書かれており、ストーリーの中では主人公のOLが「表参道のイタリアンレストラン」がどのように使われるか。(他のレストランと使われ方がどう違うのか)を考えながら、お客様にとっての「ベネフィット・価値」とは何なのかを考えていくことになる。

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また、「強み・差別化」についても具体的な考え方が載っている。「強み・差別化」は、実務のシーンでも考えるのがとても難しいポイントだと思う。「そんなのないんじゃないか?今もそこそこ売れているし、なんとかなっているし…」と考えるのを放棄したり、競合と丸被りしているポイントを「強み」としてしまうこともある。何から考えてよいかわからないのだ。この本では次のようにある。

企業の強み・差別化方法は多くあるように見えて、ざっくりと考えると実はこの3つだけなのです。私は次のように呼んでいます。
1 手軽軸 ― 競合より早い、安い、便利、で差別化
2 商品軸 ― 競合より高品質、新技術、で差別化
3 密着軸 ― 競合より顧客の「個別」ニーズに対応した密着感、で差別化

もちろんこの3つですべてが説明できるわけではないが、まずこの3つに分類したうえで、考えていくとうまくいきそうだ。また、この本ではこの後にこの3つの中で強みをどう作っていくかについても具体的に書かれている。

この本の上記の部分を読んでいる時、この本のストーリーとは別に私は、自分が今、行ったり、関わっている事業や会社のことを自然と考えていた。「ちゃんと価値を理解した戦略になっているのか」「強みを発揮できる戦術を実行できているのか」ということが頭の中をぐるぐるまわっていた。
普通の小説とは違い、「マーケティングの入門書」としてのストーリーは、物語に没頭させることではなく、いつの間にか自分のことを考えてしまうのが正しい形なのかもしれない。

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