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美容室の指名料 20210927

上京して5年経つが決まった一件の美容室に通い続けている。 
(こんな事を言うと悪いが)特別気に入っているという訳ではない。

程よく近所にあり、比較的手頃な金額である。
それでいて必要最低限のコミュニケーションだけで用を済ませてもらえる。
この店に通うのはそれが理由だ。

"程よく"近所というのが実はとても重要で。
大体歩いて20分くらいのところにある。
東京であればもっと近くに美容室くらいあるでしょうという指摘はごもっともである。
しかし、これが徒歩5分だった場合どうだろう。
生活圏とただ被りしてしまう。
万が一、美容師が自分の顔を覚えていて、目撃されたり、あるいは遭遇などしてしまった場合。
俺は二度とその美容室に行けなくなってしまう。

読んでいるあなた方の大半は訳が分からないだろう。
とにかく俺は"店の人"に顔が割れるのが嫌なのだ。

同じ理由で近所の店で酒を飲む事もしない。
店主が「ああ、こないだの」だなんて言った日には、笑顔で「そうです!」と返し、二度とその店には近づかない事を誓う。
何故だか自分の存在を認識されていると居心地が悪い。
会話しなくてはならないのかと、勝手にプレッシャーを感じてしまう。

美容室であれば尚更顔を覚えられる事が多い。
新規の客であればひとまず話しかける様、マニュアルにでも書いてあるのであろう。
そうなればひとまず返答はする。
そして、昼間だろうがなんだろうがとても眠たい男を演じ始める。
そうすると、向こうもこちらへは最低限の言葉しか投げかけてこなくなるのだ。
半年も通うと恐らく向こうの顧客リストには「無口」などといった情報が共有されるのだろう。
初めて俺の髪を切る美容師も最低限の事以外話しかけてこなくなる。

そうなればこっちの物である。
程よく近所で、手頃で、最低限の会話で用を済ませられる環境が出来上がる。
それだけが理由で5年間同じ美容室に通っている。

休職に入ってからというものの、髪を伸ばしっぱなしで過ごしてきた。
髪が長い男というのはどうも社会人から嫌がられるらしい。
嫌な奴になりきりたく、髭と同様に髪を切らずにいた。
だがしかし、長い髪は当たり前に邪魔になる。
左右どちらに前髪を流そうとも視界を遮ってくる。
太っていてそれでいて顔の半分が髪の毛で覆われている。
これでは差し詰め場違いなBUMP OF CHICKENである。
奴は何のパートを担当しているのか?とファンの間では議論が巻き起こる事だろう。
最初のうちはそれも含めて自分なりの社会への反抗だと楽しんでいたのだが、とうとう鬱陶しさが勝つ日が来た。
今朝、目が覚めて衝動的に美容室の予約を済ませた。

ホットペッパービューティーなるページにリクルートのIDでログインする。
(リクルートという企業の節操の無さに恐怖を覚える、彼等は何人もの学生の人生を狂わせた事だろう。)
時間帯を指定すると、次のページでスタイリストを指名して下さいとの表示が現れる。
いや、指名も何もないんだけどなあ、と思いつつスタイリストの一覧を眺めているとそれぞれに指名料の記載がある。
こちらはスタイリストの指名など微塵も希望していないのにそれを強制され、挙句金まで取られるというのか!?と少し狼狽える。
1番安い指名料が500円。
ケチと言われようが、理不尽な徴収に屈する訳にはいかない。
それに500円あれば昼飯くらいは済ませられる。
ブラウザバックして時間帯を変えるとスタイリストの指名はできませんがよろしいでしょうか?との表示。
いや、だから最初からそれで良いんだって、とこちら。
なんとか指名料を払わない形で予約が完了した。

俺としては想定通りの金額で、黙ったまま髪を切ってもらえれば誰であっても構わないというのが本音だ。
こんな事を言ってしまっては美容師の方に失礼かも知れないが。
そういう客なので許して欲しい。
大体その美容師にしか形作れない髪型があったとして、それは俺がすべきものではない。
素体がこれではどんなお洒落な髪型もあまり意味を成さない。
それとも何か?こないだのお話の続きをしましょうと指名料を払うのだろうか。
まあ、共感はしないが理解はできる。
ともかくこの指名料と自分との間にある溝がとてもモヤモヤしてこんな文章を書いてしまった。

しかし、頭がどの方向を向いていても髪が視界に入ってこない。
社会人はやっぱこれでしょ。

今日はここまで。

Beck / Devil's Haircut

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