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【前編】かつて美大生だった私が、卒業制作作品『COMPASS』でたどり着いた答え

「世の中は本当に複雑で、コンパスが北を指し示すような明確な答えは、簡単には見つかりません。それでも、自分がどちらの方角を向いているのか、どこに進みたいのかを考えることは大切なのではないでしょうか。」

これは、私が10年以上前に制作した作品群、『COMPASS』の序文に書いた言葉です。

私は東京のとある美術大学でグラフィックデザインを学んでいました。卒業後はデザイン事務所に入り、エディトリアルデザイナーとして勤務。数年間は書籍や雑誌のデザインに携わりましたが、心機一転、退社して社会人学生となり、いまは「栄養士」として働いています。

なので、私の本業は人々の健康増進をサポートする「栄養士」です。

私は、これまでブログやtwitterなどのSNSでの発信は一切行わずに生活してきました。そんな私が、なぜ「note」を始めたのか。

その理由について、私の卒業制作作品を紹介することが最もわかりやすいと判断しました。今回は自己紹介も兼ねて、私の仕事の指針、現在の仕事へのルーツにもつながる作品『COMPASS』を紹介します。

*一番言いたいことは「後編」に全てまとめました。「前編」はそこに至るまでの過程なので、お時間のない方は「後編」をお読み下さい。

まず聞き慣れない「卒業制作」とは何か?

作品紹介の前に、まず「卒業制作とは何か」を説明した方が良いかもしれません。多くの美大生は、大学4年の卒業時に学びの集大成となる “卒業制作” を行います。各種デザイン・映像科や日本画・油絵・彫刻科などのファインアート系学部に所属する人たちは、何らかの表現媒体を選び、作品として形に残すケースが大半です。

もちろん、いわゆる卒論を書く人もいますが、芸術・文化を中心的に学ぶ学科や、大学院生が中心だったと記憶しています(それでも、大学院生も作品と論文の両方を制作していたり、美術大学なので作ることが多いですが)。

とはいえ、キャンバスと絵の具等で表現するのか、文章で表現するかの違いに過ぎません。美術大学に所属する身として、どの学科の人たちも表現者、クリエイターとしての精神を持ち合わせていました。各自が自分なりの世界観を持ち、他者の多様な価値観を許容して、そこから自分なりの新しい発見を得る。互いが互いに切磋琢磨し、リスペクトし合えるような、そうした土壌が大学全体に育まれていたように思います。

そうしたなか、私が卒業制作のテーマに選んだのは「常識や通説は本当に正しいのだろうか?」というものでした。

ずいぶんと抽象的な問いですね。しかし、これを作品にどう落とし込むのかが私の卒業制作の最終目標でした。

「地球温暖化」という、今も続く環境問題。
北極の氷が溶けると、海水面が上昇するのだろうか?

テーマ決定のきっかけは、地球温暖化問題でした。NHKの地上波やBSでも盛んに取り上げられ、ホッキョクグマの生息地がなくなり、溺れてしまう個体もいる、といった感情に訴えかける内容も多かったと記憶しています。

「地球温暖化は地球の破滅的な未来をもたらす可能性がある。石油や石炭などの化石燃料から排出される温室効果ガスが原因となり、極地の氷は溶け出している。いま現在人々が住んでいる土地も、海水面が上昇することで住めなくなる。現に、太平洋の小さな島国ツバルでは水没の危機にさらされている。北極では氷が溶けたためにホッキョクグマの生態系にも影響が出ており、人間の経済活動がヒト以外の他の生態系も脅かしている。地球を救うためにCO2を削減すべきだ」

当時は、アメリカ合衆国元副大統領であるアル・ゴアが『不都合な真実』というドキュメンタリー映画を制作し、地球温暖化が国際問題になっていた時期でした。

この映画もきっかけとなり、アル・ゴアはノーベル平和賞も受賞していましたね。彼の政治家としてのあり方、映画の内容の賛否はさておき、メディアを用いた政策アピールというのはアメリカは巧みだなと感心します。特定の問題を問題だと認識すらしていない人々の興味関心を惹き、感情に訴えかける。一般人の行動変容のきっかけにもなりますね。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
第四次報告書

今も続く環境問題ですが、以下に当時の政策決定に多大な影響を与えたと思われる、IPCC第四次報告書(日本の気象庁が報道向けに発表の結論を引用します。少々長いのですが、地球温暖化の当時の世界的状況が伝わると感じました。

主題 1  気候変化とその影響に関する観測結果
・気候システムの温暖化には疑う余地がなく、大気や海洋の全球平均温度の上昇、雪氷の広範囲にわたる融解、世界平均海面水位の上昇が観測されていることから今や明白である。
・地域的な気候変化により、多くの自然生態系が影響を受けている。

主題 2  変化の原因
・人間活動により、現在の温室効果ガス濃度は産業革命以前の水準を大きく超えている。
・20 世紀半ば以降に観測された全球平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い。

主題 3  予測される気候変化とその影響
・現在の政策を継続した場合、世界の温室効果ガス排出量は今後二、三十年増加し続け、その結果、21 世紀には 20 世紀に観測されたものより大規模な温暖化がもたらされると予測される。
・分野毎の影響やその発現時期、地域的に予想される影響、極端現象の変化に伴う分野毎の影響など、世界の気候システムに多くの変化が引き起こされることが具体的に予測される。

主題 4  適応と緩和のオプション
・気候変化に対する脆弱性を低減させるには、現在より強力な適応策が必要とし、分野毎の具体的な適応策を例示。
・適切な緩和策の実施により、今後数十年にわたり、世界の温室効果ガス排出量の伸びを相殺、削減できる。
・緩和策を推進するための国際的枠組み確立における気候変動枠組条約及び京都議定書の役割 将来的に向けた緩和努力の基礎を築いたと評価された。

主題 5 長期的な展望
・気候変化を考える上で、第3次評価報告書で示された以下の五つの「懸念の理由」がますます強まっている。
1 極地や山岳社会・生態系といった、特異で危機にさらされているシステムへのリスクの増加
2 干ばつ、熱波、洪水など極端な気象現象のリスクの増加
3 地域的・社会的な弱者に大きな影響と脆弱性が表れるという問題
4 地球温暖化の便益は温度がより低い段階で頭打ちになり、地球温暖化の進行に伴い被害が増大し、地球温暖化のコストは時間とともに増加。
5 海面水位上昇、氷床の減少加速など、大規模な変動のリスクの増加
・適応策と緩和策は、どちらか一方では不十分で、互いに補完しあうことで、気候変化のリスクをかなり低減することが可能。
・既存技術及び今後数十年で実用化される技術により温室効果ガス濃度の安定化は可能である。今後 20~30 年間の緩和努力と投資が鍵となる。
(以上)

「後編」に続きます。


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