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レコードとCDを巡るあれこれ(#1)~seekerな人に贈るノスタルジック(?)エッセイ~

 私にはSNSはおろかブログというものすら存在しなかった大昔に「ホームページビルダー」でマイホムペを作っていたという黒歴史がある。今読み返してみると、即座に地中深く穴を掘ってブラジルまで逃げたくなるような文章だらけだが、その中でも少しマシなものがこの軽いエッセイ風のもので、古くからの友人からの再録リクエストがあったので、それを真に受けて公開をしてみようと思う。

 書いたのは1998年、まさかCDが配信にほぼ駆逐され、アナログレコードが再びCDの売り上げを上回るなんてことが想像できるはずもない時代だった。しかし自分で言うのも少々おこがましいが、2023年の今にも通用するような記載も若干あるではないか。とりあえず同年代の方は笑いながら、配信世代の方は首を傾げながら読んで頂ければ幸いである。

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(original released on 1998/4/26)
レコードとCDを巡るあれこれ(#1)~seekerな人に贈るノスタルジック(?)エッセイ~

[1] 
 僕が初めて買った洋楽のアルバムは『ザ・ビートルズ・バラード・ベスト20』という企画盤だった。これは、日本とイギリスのみで発売された限定盤で、「イエスタディ」も「レット・イット・ビー」も「ヘイ・ジュード」も「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」まで入っているという、ビートルズ初心者には打ってつけのヤツだった。しかし、このアルバムの重要なポイントは、そういった代表曲が網羅されているということよりも、タイトルの示すが如く1枚のアルバムの中に20曲も入っているということであった。

 その時、僕は中学3年だったから、当然、小遣いはたかが知れていて、2,800円もするアルバムを買うなんてことは大仕事だった。すると、この頭脳の未発達な中学生は何を考えたかというと、1曲あたりの単価を計算したのである。即ち、アルバムの値段を収録曲数で割って、最も曲単価の安いものを買うと、「こりゃあ、お得だわい。」ということになる訳だ。この理論に従うと、『ザ・ビートルズ・バラード・ベスト20』は〔2,800円÷20曲=140円/曲〕となる。ちなみに、対立候補であった『ヘイ・ジュード』は〔2,800円÷10曲=280円/曲〕となり、両者の間には実に2倍もの格差が存在したのである。毎月の小遣いが4,000円の身にとって、前者に心が靡くのは仕方あるまい。

 そんなセコイ計算をする癖は中々とれなかった。高校生になって少しは小遣いが増えると、さすがに好きなアーティストのアルバムは曲単価が高くても買うようになったが、それでも常に頭の中で単価計算はしていた。結局、アルバムがつまらなかくて、なおかつ、曲単価が高かったりした場合には、本当に悔しくなった。一方、つまらなくても曲単価が安いと「まあ、許したろ。」となるのである。

 高校1年の時に買った『クイーン・グレイテスト・ヒッツ』は17曲入りで、「デビューの時から暖かく応援してくれた日本のファンの為に」2,000円の特別価格だった。僕は別にデビューの時から暖かく応援していた訳ではなかったのだが、やっぱり2,000円で買えた。このアルバムの曲単価は〔2,000円÷17曲=118円/曲〕となり、これは僕にとって実に素晴らしいことであった。殆ど缶ジュース1本分のお金で、「ボヘミアン・ラプソディ」やら「ドント・ストップ・ミー・ナウ」やら「セイヴ・ミー」が聞けるのである。僕は大いにワーナー・パイオニアに感謝しつつ、フレディ先生の御声を毎日聞いていた。

 それと、確かこのアルバムはA面28分、B面32分位で、60分カセットに録音出来なかった。今と違って、当時は64分だとか70分だとかいうカセットはなかったので、これを録音するには90分テープしかなく、大層損に感じたのを覚えている。

[2]
 そのうち、僕が浪人時代を経て、大学へ行く頃になるとCDが登場してきた。最初は、レコードと同じ45分10曲とかとかいうものが大半で、しかも3,200円という高値だった。つまり、〔3,200円÷10曲=320円/曲〕ということになり、いくら音がいいとはいえ、未だ完全に貧乏から抜けきっていない僕には中々辛いものだった。

 しかし、74分も入るものに10曲ではもったいない、と誰かが考え始めたのであろう。CDの収録曲数と時間は次第に長くなっていった。70分ではレコードにするのに1枚では入らん、2枚組にするには短すぎる、なんていう心配も、レコード自体が生産されなくなってしまったので雲散霧消した。また、対応するカセットも、次々とタイム・ヴァリエーションが増えていったので、『クイーン・グレイテスト・ヒッツ』のような事態は起こらなくなった。CD自体も安くなり、大概の曲単価は、〔2,500円÷15曲=167円/曲〕なんてものになった。今の新作CDは、12~13曲で55分から60分位、多いやつなら19~20曲で74分なんてのが主流になり、ボブ・ディランみたいに10曲35分なんてのを出そうものなら、手抜きとも見られかねない状況である。

 しかし、最近、僕はどうもCDをプレイヤーに入れて、「43分18秒」とかいうのをみると安心するようになった。収録時間が長いやつは、レコード時代ならボツになったような水準の低い曲をダラダラと放り込んでいたり、「12曲+ボーナストラック6曲収録」などと称して、前の12曲の勢いを削ぐだけのものが大半であるように思う。イーグルスの復活ライヴ盤なんて、どういう細工か79分もあり、「45分に絞りこんだ方がいいのになあ」と思うことしばしばである。

 おまけに、CDはA面B面がないから、例え同じ45分でも、レコードよりメリハリがいるのである。70分もA面B面チェンジのトイレ休憩もないままリスナーに一気に聴かせるには、余程のテンションが必要なのではないだろうか? 結局のところ、アーティストもリスナーもレコード時代の方が幸せだったのかなぁ、などと曲単価理論は何処かへ追いやって、つい郷愁を感じてしまう。

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