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『サイバーパンク2077』のラーメンが食べたくて

街にやって来たばかりの駆け出しの夢追い人からアフターライフの伝説となったエリート傭兵まで、ナイトシティを愛する『サイバーパンク2077』ファンであれば「エッジラーメン」なる単語を一度は耳にしたことがあるでしょう。
アニメ『サイバーパンク エッジランナーズ』の配信前日、CDPR公式Twitterアカウントが突如公開した「エッジランナー(傭兵)」と「ラーメン」をかけただけのコールドブラッドな一発ギャグ料理……かと思いきや、普通においしいうえにナイトシティ“らしさ”を感じることのできる、エスニック風ラーメンレシピです。

私も件のツイートに影響されて、材料が色々と足りてないくせに「コーポが勝手に定めたルールなんざクソ喰らえ」と見切り発車で進めた結果、ほぼ別物と言っていいような平たい味のレモンラーメンを作ってしまったことがあります。

AUTOMATONや4Gamerといった大手メディアを差し置いて一番上に表示されてしまった

なのに「エッジラーメン」とWebで検索するとかなり上の方に表示されるので、晒し者感が半端ないです。恥ずかしすぎて人間性下がりそう。

まあそのときは失敗といっても普通においしく食べることができましたし、カスタマイズ性の高さから多民族都市のナイトシティ“らしさ”を感じ取ることもできました。
レシピ通りに再現できずとも、ナイトシティ感のある「イメージフード」としては成功の域に片足を突っ込んでいると言ってもいいでしょう。

しかし、私が真に求めるのはそれっぽい雰囲気の「イメージフード」でなく「ゲーム(内に登場する)飯」そのもの。高給取りのコーポや財布の紐がゆるんだ観光客向きの無難で小綺麗なご当地グルメなんかと違う、Vたち庶民が慣れ親しんだチープでジャンキーなB級グルメです。

現実世界のもので例えるなら、東海地方におけるスガキヤのラーメンでしょうか。特別おいしいわけでもなければまずくもないけども、地元民にとってはソウルフードとも呼べる身近な存在です。
それに相応するナイトシティグルメを口にしない限り、私の胃と心はまだまだ満足できそうにありません。

ラーメン(『サイバーパンク2077』)

天高くそびえ立つ高層ビル群。その間を空飛ぶ車が縫うように走る。ストリートを行き交うは奇抜なファッションに身を包んだ人々。日本語や中国語で書かれたネオンサインとホログラム広告が夜闇を照らす。酸性雨が降りしきる、ハイテクと汚濁の多民族都市。
おそらく『ブレードランナー』や『ニューロマンサー』を知らない人でも、サイバーパンクといえばこんなイメージを漠然と思い浮かべるのではないでしょうか。

レトロフューチャーとフィルムノワールと東洋文化……もといなんちゃってアジアンテイスト。サイバーパンクというジャンルにおいて、この3つは絶対に欠かせない要素であることは、古今東西の共通認識かと思います。

バブル真っ只中の日本が欧米諸国にとって脅威と見なされていた80年代の時代背景を反映してか、もしくは東京や香港の夜景がリドリー・スコットの思い描く近未来世界とそっくりだったからか、それともウィリアム・ギブスンが日本びいきだっただけか……まあそんなことはどうだっていいです。
とにかく、人種のるつぼ感というか勘違いアジア要素の無いサイバーパンク作品なんて、私からすれば薬味もポン酢も無しに食べるカツオのたたきも同然。いくら素材が良くたって、魚特有の生臭さが気になって仕方ありません。

ナイトシティでよく見かけるカプセルホテルのネオンサイン

もちろん、絵に描いたような近未来都市が舞台の『サイバーパンク2077』も例外ではありません。オフィス街の中心にはアラサカやカン・タオといったアジア系企業が支社ビルを構え、歓楽街ではジャパニーズヤクザのタイガークロウズが幅を利かせており、ストリートを歩けば日本語や中国語表記の看板がありふれています。

箱中華(中のグラフィックは焼きそば)を食べるジャッキー

食文化にしてもそうです。屋台を覗けば寿司や肉まんを始めとしたアジア料理のオブジェクトが多数設置されていますし、飲食店で焼き鳥や箱中華を楽しむNPCの姿もよく見かけます。

千葉生まれのTさんによるレッドウッド・マーケットの焼き鳥評

とはいえ、旧合衆国の崩壊や第四次企業戦争を経た2077年の食糧事情は、我々が生きるこの世界と大きく異なります。
市場に流通する食べ物といえば、昆虫性タンパク質由来の代替肉やイミテーション食品が一般的な世界観なので、見た目こそ同じでも味はほぼ別物。それどころか劇中で日本人キャラクターが焼き鳥やハンバーガーを一口食べては苦い顔をして「とても食えたものじゃない」と吐き捨てるシーンがあるほどのメシマズディストピアメトロポリスです。

桜花マーケットのラーメンショップ

そんなナイトシティでもっとも人気の高いアジア飯といえば、やはりヌードル……そう、みんな大好きラーメンでしょう。
街を歩けば「ラーメン」と書かれた日本語のネオンサインが頻繁に登場するだけでなく、リトルチャイナで評判のワンタンメンや舌が痺れるほどうま味成分を大量に入れまくったRAMMMMENが回復アイテムとして使用できたり、最低でも2回はサイドジョブでラーメンショップを訪れたりなど、他のアジア料理に比べて何かと大きな扱いを受けているような気がします。

そしてそのラーメンといえば、エッジラーメンのように彩り鮮やかでエスニック風な見た目のおいしそうなヌードルスープ……ではありません。

ナイトシティの屋台でよく見かけるラーメンのオブジェクト

どろどろに濁りきったこげ茶色のスープ。卵焼きと見間違えるほど固まった中華麺。しいたけ・チャーシュー・フリーズドライのネギといった色あせた具材。
これです。この茶色茶色しいラーメンこそナイトシティ市民にとってのスガキヤラーメンであり、私の胃と心が真に求めていた『サイバーパンク2077』のゲーム飯です。

しかしこのラーメン、地味色のトッピングを差し引いても本当に茶色くて彩りがありません。特に泥水か工業排水か赤錆だらけの水道水のいずれかと見間違うほど汚いスープは見るからにまずそうで、まったく食欲をそそりません。
ポジティブに解釈すれば味噌スープなんでしょうけど、一般的な味噌ラーメンと比較しても明らか彩度が低い。これは米味噌や麦味噌というより八丁味噌――まるでナゴヤシティ名物・味噌煮込みうどんを彷彿とさせます。

……ということは、味噌煮込みうどんのスープにラーメンの麺を入れれば、あのナイトシティ飯を再現できるのでは?

そんなわけで、戸棚に常備しているスガキヤ共和国(東海3県)でおなじみの袋麺を使って早速チャレンジ。

スープは味噌煮込みうどん。麺は本店の味。トッピングはしいたけと刻みネギと切り落としチャーシュー。
ゲームのスクリーンショットを参考にしつつ、これらをどんぶりに盛り付ければ、きっとあのナイトシティ飯を完全再現できるはず……!

……なんだろう。見た目はあのラーメンのはずなのに、何か違くない?

実食

麺を茹でている間は「これは絶対エッジラーメンより完成度高いナイトシティ飯になるぞ!」と信じてやまなかったのですが、その期待はトッピングを載せ終えた瞬間に霧散しました。
ゲームと同じく茶色で統一された地味ーメンのはずなのに、スクリーンショットと比較すると得体の知れないコレジャナイ感に包まれたのです。

何が違う? スープの色が薄い? 麺が多い? チャーシューが薄くて赤い? しいたけが無駄にでかい? フリーズドライの薬味ネギが無くて普通の長ネギを刻んで入れたから?

加工前(左)と加工後(右)

明度や彩度をいじったりフィルターを通せば、なんとなーく“らしさ”は増すのですが、それでも完全再現には程遠いです。特にスープの澄み具合に注目すると、味噌なのに醤油感が否めなくて、あの濁りまくった汚い泥水の足元にも及びません。

見た目だけでなく、味もまたガッカリです。本当に見た目通りというか……「インスタント味噌煮込みうどんの粉末スープにインスタントラーメンのフライ麺が入っただけの食べ物」以外何も思うことはありません。

実はエッジラーメンの失敗を反省してスープに深みを出そうと工夫(干ししいたけの戻し汁をスープに使用+豆味噌を追加投入)したのですが、それらのひと手間を舌で感じることはほとんどできませんでした。注意深くスープを飲めば彼方遠くにしいたけの出汁っぽさがあるような無いような〜という、ものすごく微妙なラインです。
具材が少し違うだけで、普段食べるインスタント味噌煮込みうどんと変わらない……いえ、本店の味の麺が味噌煮込みうどんのスープとまったく合わないのでいつも以下の味です。

見た目も味も微妙でなんともコメントに困るガッカリラーメンが出来上がって、心なしか私の中のシルヴァーハンドも「だから言ったろ? ナイトシティの食文化は半世紀以上も進歩が無えってな」とドヤ顔を浮かべているような気がします。

しかし、この「まずくもなければうまくもない、ただ腹を満たすためだけの食べ物」という感じは、どことなくディストピアっぽさがあります。そういった意味では、ある意味ナイトシティらしい食事なのかもしれません。

それに食文化がジョニーたちの時代からほとんど進歩していないということは、今日のナゴヤシティのローカルフードが海を越え時を超え、2077年のナイトシティのご当地グルメに定着したという可能性も無きにしもあらず……なんて思ってしまうのは私だけでしょうか。妄想の域を出ないとはいえ、スガキヤ共和国民としては得体のしれないロマンを一方的に感じてやみません。

そう考えると、今回のラーメンは「イメージフード」でなく「ゲーム飯」に近いものを作れたように思います。
前回のエッジラーメンもどきと比べると味こそ劣りますが、少なくとも「ゲーム飯を食べる=ゲームの登場人物たちの気分を味わう」という満足感(達成感)は今回の方が断然上です。

……まあ最終的には「やっぱり味噌にはうどんだな」ということで、替え玉(味噌煮込みうどんの方のフライ麺)を茹でたんですけどね。

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