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日本一の旅館「加賀屋」の社長交代に思う/旅館はどこまでいっても「家業」?

2022年9月30日、当社のサイトに、ある独自記事をアップした。旅館ランキングで何度も日本一に輝いた七尾市和倉温泉の「加賀屋」の小田與之彦社長が辞任し、父の禎彦相談役が22年ぶりに社長に復帰する、という内容だ。

今回の件、現時点で詳しい背景は分かっていない。ただ、先日、同じ石川県の加賀市山代温泉を代表する旅館「瑠璃光」の運営会社が、コロナ禍で助成金を不正受給した引責で萬谷浩幸社長が辞任し、後任に妻の真理氏が就くというニュースと同じ感想を持った。

「やっぱり旅館は家業」

昔、ホテル経営者と会話していて納得したのが「ホテルは事業、旅館は家業」という言葉。ホテルの多くは所有と運営が分離され、オーナーとは別にホテルマネジメントに秀でた人材が運営トップに就く。

一方、旅館はオーナーと運営トップが同じことが多い。一家が臨機応変に切り盛りしていた小さな宿は、やがて少しずつ大きくなるが、依然としてオーナー家が力を持ち過ぎているケースはある。

しかも、郊外の旅館のスタッフは社員寮に住み込みで働く例も多く「大家族的」になりやすい。そのマイナス影響として「一家の長」たるオーナー家が何でも決め、スタッフは従うのみ、という凝り固まった構図が生まれる。

夫が引責辞任、後任に妻

助成金の不正受給の引責辞任で後継社長に妻を選ぶ、というのは、一般企業では社内外の理解を得られないのではないか。仮に同族経営でも、一族以外の出身者をリリーフ社長に登用するなど、反省の色を示したり、改善に先鞭をつけたりするはず。

この点、旅館は仮に規模が大きくなっても、社外から「ああ、〇〇屋ってことは、△△さんのところね」と家業として見られる面もある、その流れで、オーナー家からトップが出て当然、との意識が社内に染みついているのかもしれない。

オーナー家以外に優れた人材がいれば、旅館の社長にしてもいいはず。特に温泉旅館は山あいか海辺の人里離れた場所にある。都市部から何時間もかかる場所に客を呼ぶのは、相当に優れた人にしかできないと思う。

他に候補はいなかった?

加賀屋の社長交代がどんな事情なのか、現状では分からない。ただ、1つ思うのは、この期に及んで相談役が再登板しなければならなかったのか、という疑問だ。

相談役は加賀屋が日本一の旅館になる大立役者で、優れた旅館経営者なのは周知の事実。しかし、80歳を超えた相談役が社長に返り咲く他に選択肢はなかったか。

高齢なのが悪いと言いたいわけではない。ただ、先日の日本電産もそうだが、かつてのトップが社長に復帰すると聞けば「良い人材はいないのか」「長い目で見て大丈夫な組織のか」とネガティブに捉えられる。

一般論として、若い人は経験こそ乏しいが、世の中の「風」を感じる力がある。これからの時代は経験の蓄積も大事だが、新しい変化をどんどん取り入れ、咀嚼して対応する力の必要性が高まるだろう。

その意味で、例えば一時的でも親族以外から新社長を迎え、自身は会長という立場で隣から支える、みたいな選択はできなかったのかなあ、と素人ながら思ってしまった。


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