結果はわかっている、でも抗う自由は奪われてないはずだ

すごく久しぶりに伊坂幸太郎さんの作品を読みました。

伊坂幸太郎さんはぼくを読書の世界に導いてくれた方で個人的にすごく大きくて特別な存在です。はじめて「重力ピエロ」を読んだときの衝撃たるや凄かった。当時の自分はまだ中学1年生だったでしょうか。

テーマはとっても重いのにどこか軽く読めてしまう。この不思議な読書体験は作中で登場するセリフ

「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」

を体現していました。それからというものの伊坂幸太郎作品にずっぷりハマって新作が出れば読んでいたんですが、最近は少しご無沙汰になってしまっていたのでした。

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そして今日、久しぶりに読んだのが、『AX(アックス)』です。

本作は、伊坂さんの『グラスホッパー』『マリアビートル』と続く人気シリーズ、殺し屋シリーズの三作目に当たります。これから読んでも全然問題ないんですが、前の二作を読んでるとより楽しいと言った感じになってます。

スターウォーズのような一見さんはお断りだよってスタンスではないので安心してこの作品からでもオッケーです。

まず、一つ驚きがありました。それは本作が一人の殺し屋を明確に主人公としており、彼の一人称視点から描かれていることです。

今までの作品は、いろんな殺し屋の人たちが出てきて、章ごとに語り手が変わるスタイルでした。そのため、当然今回も移り変わるだろうと思っていたんですがそうではありませんでした。

しかし、それがとてもよかった。

今回は一人称視点として描かれることによって、殺し屋としての側面というよりも一般市民としての日常が多く描かれることになりました。その結果、主人公「兜」が殺し屋と一家族の夫であり父であることを行ったり来たりする生活に悩み苦しみながらも答えを出して行こうとする姿に純粋に胸打たれました。

殺し屋という、ある種常識から逸脱した今後何か道を踏み外さない限り出会うことはないであろう存在を近い存在として感じることができました。

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ツイスターゲームで、「もう無理だ、あの色に足を持って行ったら倒れる…」というあの瞬間。降参を認めるか、たとえ倒れることが避けようのない近い確実な未来だとしても幾ばくかの抵抗をするかで人の価値が問われるのではないでしょうか。

避けがたい運命に抗う人間の精神の力を描く物語がぼくはとても好きです。その抵抗が何も変えることができない虚しいものだとしても、その精神はやっぱりかっこいいです。

そうだ。ぼくはこういう物語が好きだったんだと思い起こされました。そして、伊坂さんの作品はそういう作品が多かったのだと。

変わらずこんな物語が自分の手の届くところにあることに幸福を感じた今日でした。


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なるべく毎日書くと言ったnoteも今日で41日目でした。


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