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チャーハンをぶちまけた話~ハンバーグを添えて~

 試験週間なのに、なんとなく読み始めてしまった小説を途中で離脱することができず、他の学生が黙々と試験勉強に勤しむ中黙々と読書に勤しむそんな私。

 2時間後。読み切った達成感と共に、試験勉強へのモチベーションも何処かへ発散してしまった私は、そそくさと荷物をまとめ図書館を後にした。

 帰りに最寄りのツタヤで本を物色すること30分。お目当ての新刊が見当たらなかったので帰ろうとしていると、ふと「益田ミリ」さんの文庫本を発見。先日の読書会で、作家さんが絶賛していたのを思い出した。

 読書モードで、本にかけるお金は惜しまないモードに入っていた私は、益田ミリさんの本と、あとクーポン券があったのでせっかくならということで、吉本ばななさんの「キッチン」の2冊を持ってレジに向かった。

 最近あまり人と話していなかったせいで、レジの店員さんにカタコトのような日本語で、レジ袋とブックカバーを断り、店を出た。外は、生きる意志を失うほど灼熱の日光を発するお日様に占拠されている。

 自宅に帰ると、小腹が空いていることに気が付いた。お昼に大盛りの冷やしタンタンメンを学食で平らげたのに、欲張りな胃袋だこと。夏は何もしていないのに汗をかくし、それすなわち腹も減りやすい。だから夏はどうしても食べる量が増えて毎年お腹周りの贅肉に悩まされるのがオチだ。

 溜まった洗濯物を回し、その間に食事の準備をする。とはいっても、ご飯が炊くのを待っていられるほど辛抱強くないので、2か月間冷凍庫に眠っていた冷凍チャーハンと、ベーコンと焼くだけのハンバーグを取り出す。

洗濯機はゴウンゴウンと唸りを挙げて、汗の染みた服たちと戦っている。

 チャーハンを数分フライパンで炒め、平皿に乗せ、空いたフライパンにハンバーグを乗せる。洗い物を減らすために、なるべく一つのフライパンで調理するのが、私の些細なライフハック。

 出来上がったチャーハンと、茶色く焦げ色の着いたハンバーグを平皿に乗せ、洗濯機の上に置いておく。お次はベーコンと卵だ。

 先ほどまでの調理で十分に加熱されたフライパンへ降り立ったベーコンと卵は、勢いよく音を立てながらピチピチはねている。部屋中にチャーハンと焼かれた肉塊たちの香ばしい匂いが広がる。鼻歌を歌いながらフライパンに蓋をしていたその時、事件は起こった。

           ガッシャ―――――ン!!!!!!!

「(´゚д゚`)?!?!?!?!」」」」」」」」

突然の落下音のもとへ、すぐさま視線を向ける。洗濯機のほうには何もない。何もない。「何もない?

「あっっ・・・」

 嫌な予感は的中した。洗濯機の上に置いてあったチャーハンとハンバーグが、洗濯機の麓に無残に横たわっている。その姿は、先ほどまで生きていたイニシャルGの如く、今にも動き出しそうな生々しさを醸し出していた。

 それを見た瞬間、なぜか泣きそうになった私。長い年月を掛けて我が家までたどり着いた食材たちが、まさにいま人間の胃袋に入ろうとした瞬間だったのに・・・。やっと成仏できるところだったのに・・・。私は泣きそうになった。少しでも成仏してほしいと、地面に付着していなかった部分を手でつかみ、貪った。しかし、さっきまでフライパンで焼かれていた食材は、私の生身の肌には熱すぎた。咄嗟に手を引いて、冷静になる。

 取れる分だけお皿に戻し、残ったチャーハンの残骸をキッチンペーパーでふき取る。洗濯機の上に置けるようにタオルで土台を作って、平皿を乗せた。私の心は暗闇だ。そして、またあることを忘れていることに気付く。

「ッッッ・・・・・」

 先ほどフライパンに乗せたベーコンと卵は、フライパンとの接着部が真っ黒に焦げていた。すぐさまIHの電源を切る。

「はあああああああああああああAaaaaaaaa・・・・・・・」

地底人にも届きそうなくらいの深く暗い溜息をついたその時、

         ガッシャ―――――――――ン!!!!!!

「(^ω^)?!?!?!?!?!」」」」」」」」」

 聞き覚えのある落下音。もはや感情のない眼で音源のほうを向く。さっきと何ら変わらない、イニシャルGの如く横たわったチャーハン。今度は冷蔵庫と洗濯機の間の狭いスペースに挟まるような形でチャーハンがへ垂れ込んでいる。

ブワッと涙がこみ上げてきそうな涙腺を必死に引き締め、別室に置いてあったバスタオルを手に持ち全力で噛み千切る。(実際にはもちろん噛み千切れないが)

「なんもうまくいかねええええ!!!」

と、うまくいってないのはほんの数分前からなのに、余計な自己嫌悪に陥る私。

虚無と悟りの間で、タオルでチャーハンをふき取る。世界一無駄な時間を過ごしていると感じる。いや、無駄なだけではない。食べられるはずだったチャーハンとハンバーグ、数枚のキッチンペーパーの分、損すらしているではないか。

フライパンの上で無残にも丸焦げになった目玉焼きとベーコンを無造作に口に押し込み、飲み込む。それと同時に洗濯機が洗濯終了の音楽を鳴らし、洗濯物を干せと脅してくる。

こんな日は、次は10年後とかでいいですよ神様。と心で静かに訴える。



そんな一日。おそらく明日は今日よりいい一日になるだろうと、洗濯機と冷蔵庫の間にしつこく居座る米粒を取り除きながら思った。



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