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アルメニアのヤジディ〜ISに囚われた悲劇の少数民族の美しい物語〜

中東、コーカサス、中央アジア、あらゆる文化、民族、歴史、宗教が入り混じるユーラシア大陸中心の文明の交差路。西欧でも、東アジアでも、東南アジアでも無い第3世界。そこで、今まで見たことのない文化、伝統に基づく人々、物語に触れる度に物凄いワクワクした。この世界は想像以上に広く、いろいろな人たちが暮らしていると。もっといろいろな人たちに、文化に会いたいと思った。しかし、皮肉なことにその多様な文化は常に人間達の争いの原因となった。とりわけ、少数民族や宗教などに触れるとこんな文化や人たちもあるのかと胸がときめいた。しかし、人間達は自分とは違う異物の力がない少数の人たちを歴史的に排除してきた。時には数万、数百万もの人々を虐殺した。そんな時、多数のマジョリティ(多数派)達はマイノリティ(少数は)に対し何よりも残酷な顔をした。そして、口にした”あいつらがおかしいから。まともじゃないから悪いと”到底人間の行いとは思えない残酷な行いをしながら。そんな正義の名の下に正当化して行われる、ジェノサイドの話を聞く度にを心から許せないと思った人間の愚かな業を。

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そんな中東の少数民族のヤジディ達の信じる美しい世界創造の神話の一編をここで紹介したい。

世界には最初白真珠とアンファルという鳥が存在していた。真珠は4万年アンファルの背にあった。

神は世界を卵の形に創造し、1日目(日曜日)の天使アザザエルが孔雀天使(タウシーメレク)として現れ、氷に覆われた大地の氷を砕いた。そして孔雀天使は宇宙の創造を代表する存在となり、神との仲介者となった。

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神が次に創造したのは7つの天、大地、太陽、月、そして人類、動物、鳥だった。

神はアンファルの背にあった白真珠を落し割り「大地の下、天国の入り口」及び「太陽、月」の下に置いた。それから神はアダムとエヴと人間とを創造した。(ヤジディ教徒の創世記の物語。ヤジディ教徒の各神官=シャイフにより教えがだいぶ違うために、違う創世記の話を聞いたことがある人もいると思う。、基本シャイフから、シャイフに口で信仰は伝わっているためにだいぶ話にばらつきがあると思われるが、シャイフにより違う話というのも非常に個人的には興味深い。)

この美しい世界創造の物語を聴いてあれ?なんか知ってるけど違うと思った方も多いだろう。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教などの一神教と共通する場所はあれど違う創世記の物語を持ちながらも、孔雀天使を信じるが故に一神教に迫害を受けてきた(筆者は信仰の父アブラハムの物語が好きで、一神教の文化も好きだ。信者ではないけど。だから、決して一神教アンチではない。)個人的にはこんな別の視点からの創世記の物語があるのかとこの話を聞いてワクワクして胸が高鳴った。この美しい創世記の物語を信じ、ターウーシーメレク(孔雀天使)を信仰しているのがヤジディ教徒と呼ばれる人たちである。本来宗教だが、現在はヤジディは民族となった。この話は次回のヤジディに取材した記事に書くことにする。なぜ、民族になったかにも彼らの悲劇の歴史が関わってくるからだ。

みなさんヤジディ教徒をご存知だろうか?2014年IS(かの悪名高きイスラム国)による虐殺により2千人から5千人が殺害され、数千人が捕虜、奴隷、性奴隷として捕らえられた悲劇の一族で在る。

太陽に向かって祈ったり、何より孔雀天使を信仰していたりする独特の文化を持つ人々で本で読んだ彼らの独特の美しい信仰や生活を見るのが一つの憧れだった。そして、クルド語(世界最大の国を持たない悲劇の民族クルド人の言語。)の方言クルマンジー語を話す人が多い。ある意味クルド人と言えるかもしれない。クルド人はヤジディーをクルド人だと認識しており、そう言い張る。しかしヤジディの人々は、クルド政府の裏切りやイスラム教スンニ派のクルド人の迫害により苦しんだ歴史が多く、ヤジディ自身は自分たちはクルド人ではなくヤジディという民族だというアイデンティティを持っている(クルド人がトルコ、シリアやイランでトルコ人やアラブ人に山岳に住むトルコ人とか、クルド系アラブ人と言われて言語や文化を禁止されたり、迫害を受けた悲劇の歴史と根本的には同じことをしていると筆者は思った。彼らに悪意はないだろうが。人間の、マジョリティの業であると言わざる得ない。)

ヤジディ達のほとんどはイラクに住んでいるがアルメニアにも多くのヤジディが住んでいる。そして、ここアルメニアには世界で唯一イラク以外でヤジディ教徒の寺院がある国だ。

アルメニアではイラクのクルディスタン自治区から来ていたクルド人の留学生に出会ったし、いくつものヤジディの村が存在した。アルメニア人はクルド人やヤジディと関係がかなりいいようだ。悲しみの歴史を持つ民族同士分かり合える部分があるのだろうか。

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アルメニアにある世界最大のヤジディの寺院、ジアラット寺院がある長閑なアクナリッチ村。ヤジディとアルメニア人が共に暮らしている村だ。

ほのぼのしたアクナリッチの村を歩いていると急に現実離れした白真珠のようなヤジディ人教徒の寺院が現れる。美しい。門は太陽のマーク。興味深いことに太陽のマークはクルド人達にとっても象徴的なものだ。

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現在クルド人のほとんどはムスリムであるが、ヤジディ教徒達はムスリムに改宗する前はクルド人はみんなヤジディ教徒だったと信じている。ジアラット(ヤジディ教徒の)寺院に足を踏み入れると人は誰もいなく、別の世界に足を踏み入れたかのような、美しくも神秘的な静寂に包まれていた。たくさん信仰心の強いヤジディの方がいると思っていたんだけどな、、。そんな、寺院の中に美しい円のオブジェの下に翼を広げた神秘的な銅像が見えた。

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やっと見ることができた!!長年の夢ターウーシーメレク(ヤジディの信仰する孔雀天使)。なんて神々しくて美しいことか✨。そして、仏教や南アジアの宗教みたいなオリエンタル味を感じる。神秘的だ。これがターウーシーメレクか✨

ヤジディ教徒達は義務ではないが1日に3回太陽に向かって祈る。現地で話したヤジディによると太陽は神として認識されているということだ。そして、釣った魚や一部の葉物の野菜(レタス)などを食べない。そして、この美しいターウーシーメレク(孔雀天使)を崇拝している。

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お城のような寺院の木の扉にも美しいターウーシーメレク(孔雀天使)が描かれている。

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寺院の中にも黄金の美しいターウーシーメレクを表す孔雀像が崇拝されており、御供物が置いてある。寺院内部も白く美しい、神秘的な静寂に包まれ異界にいるかのような気持ちになる。

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この美しいターウーシーメレク(孔雀天使)を崇拝していることがヤジディ教徒の人たちが過激なムスリムの人々から迫害を受ける理由の一つだ。そして、この美しいターウーシーメレク故にイスラム国はヤジディの女性を性奴隷とすることを正当化させた。(正当化など決して許されていいはずがない、この世で最も残虐で恥ずべき行為だと言わざる得ないが。)。一説によるとターウーシーメレク(孔雀天使)の特徴が一神教であるキリスト教やイスラム教の堕天使ルシファーの特徴に一致するためにヤジディ教徒は悪魔崇拝として一部のムスリムから忌み嫌われているし、一部のクリスチャンから不気味に思われている。

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城のような寺院の後ろにあったもう一つの礼拝堂。

寺院の後ろのもう一つの礼拝堂の中には孔雀の剥製が飾られていた。孔雀天使というから孔雀を神格化したものを創造していたが、孔雀自体が特別な存在なようだ。

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孔雀と太陽を信仰して、一神教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)と共通の物語を一部持ち、ある種同じ神を信仰している。非常に興味深い。

迫害の原因にもなった。美しい物語だが、一神教の物語に興味がある筆者にとっては別の視点から見る神の創造の物語として、とても面白い。

白真珠やらアンファルやら幻想的で美しい響き。初めて聞いた時その美しい世界観にワクワクした。これだから世界にある色々な文化、宗教というやつは面白い。

寺院の中にはヤジディとアルメニア の友好記念碑もある。

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友好記念碑に刻まれている、1915年は第二次アルメニア人虐殺があった年だ(この第二次アルメニア人虐殺では150万人もの罪なきアルメニア 人がオスマン帝国のトルコ人やクルド人に虐殺されたと言われている。アルメニア 人がトルコ人を恐れるようになった原因となった出来事)。100年後の2015年にIS(イスラム国)にヤジディが虐殺された事が友好の象徴となっている。友好の象徴が悲劇だとは、あまりにも悲しすぎる話だ。悲しい目に遭い、誰よりも過酷な歴史を持つアルメニア人とヤジディだからこそ分かり合えるものもあるのだろうか。(後にアルメニア内部のヤジディに対するアルメニア人の本音とアルメニアに住むヤジディの思いに触れることになるがそれはまた別の話なので、別の記事に書くことにする。)。余談だが、アルメニア 人とクルド人のハーフの女性に出会ったことがある。目がぱっちりしていて、鼻がスラット高いとても、とても美しい女性であった。クルド人とアルメニア人の悲劇について後に詳しく知ることとなり、彼女の美しさは奇跡なんだ、そう思った。(読んでくださってる方からしたら本当にどうでもいい余談にも余談だが、彼女の美しさは筆者がアルメニア人やクルド人、ヤジディ、中東の民族問題に興味を持つ一つの大きなきっかけとなった、筆者にとって思い出深いエピソードだった。美しくクールな彼女と話したり、一緒にご飯を食べたり、挨拶をしたりするといつも何か爽やかな風が心を吹き抜けるような気持ちになった、甘酸っぱい思い出である。)

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2015年のIS(イスラム国)によるヤジディ虐殺でISに捕らえられ奴隷にされたが、逃げ出し,世界にヤジディ虐殺の悲惨さを伝え続けているヤジディの女性ナーディーヤ・ムラドさんの銅像もある。余談だが彼女の自著「THE LAST GIRLーイスラム国に囚われ、戦い続ける女性の物語」にはISの残忍さや恐ろしさ、ヤジディの人たちが体験したあらゆる残酷な地獄が書き連ねられているが、筆者が一番印象に残っていたのはISが来る前のナーディーヤさん達ヤジディの人たちの美しくも幻想的で長閑な生活の描写だった。彼女達の本来の暮らしがとても幻想的に美しく描かれており、その描写を見てヤジディの人たちの暮らしを見てみたいなとずっと思っていた。そんな美しい生活が破壊され、彼女達を待ち受けるあまりに残酷な出来事を読み、最初の美しい描写を読んできて、あの美しい日々を知っているからこそ胸が張り裂けるよう気持ちになった。

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まだまだ語りたいことはアララト山のようにあるが、とてつもない長文になりそうなのでこの辺で自重しよう。ただ、ずっと一目拝みたかったターウーシーメレク(孔雀天使)を拝め、ヤジディの信仰に触れられ素晴らしい時間だった。

しかし、残念なのはこの寺院は本当に美しいのだが人が誰もいなかったことだ。ヤジディ教徒の方々にお会いしたかったのに、、、。そんな思いを諦めきれない筆者は知人のアルメニア人を通してヤジディの方と対話することになり、クルド人関連の書籍に世界で唯一イラク以外にあるヤジディの寺院である、ジアラット寺院、以外の世界で2番目のヤジディ寺院に日本人で初(多分)訪れることになる。またその記事は別の機会に書きたいと思います。

今後も世界のマイノリティ(少数民族、少数宗教、宗派)を訪ねる記事も時間があれば書いていきたいと思います。

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