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故郷を失った少女の見た世界とは ナゴルノ=カラバフ難民100人取材

赤い服のあらゆる不幸を経験した少女は笑顔で語る”おばあちゃん大好き”と。保護者である女性は語る”爆弾は雨のように降り注いだ”と。 白い服を着た優しい少女は”ナースになって病気の人を救いたい”と語る。病気のお父さんや戦争で傷ついた人のために。

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写真中央、元アルメニア軍の調理スタッフで44日間戦争中係争地で働いていた女性、写真左女性の娘の白い服の少女(9)、写真右女性の孫娘の赤い服の少女(6)

初めて彼女達の家に着いた時、真ん中の女性は人懐こい笑顔で筆者と通訳を出迎えてくれた。まず、彼女はおいしいアルメニア コーヒーを小洒落た小さなコーヒーカップに入れてくれた。そんな女性の隣に無邪気な笑顔でニコニコしている、赤い服の少女が居た。赤い服の少女は女性の孫娘だ。赤い服の少女は少しだけ俺に似ている、、、。

赤い少女は筆者のカメラに興味津々でカメラを見て訝しんだり、写真を見てにぱあっと笑っていた。

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カメラを訝しむ赤い服の少女

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カメラに慣れてきて笑っている赤い少女、表情豊かな娘だ。

白い服の少女は真ん中の女性の娘だ。彼女は病気で寝たきりのお父さんの近くでずっと心配そうにしていた。

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病気で寝たきりの男性。女性の夫であり、白い服の少女の父であり、赤い服の少女の祖父

彼は手と心臓の病気のせいで足の感覚がない。そんな彼を心配して付きっきりでいる白い服の少女はとても優しい娘なのだろう。彼は2020年の44日間戦争前は家畜を解体して肉を販売する仕事をしていた。今現在、病気の状態で仕事探しは困難を極める。そんな、厳しい状況にも関わらず彼は筆者に笑顔で接してくれた。

2020年ナゴルノ =カラバフでアルメニアとアゼルバイジャンの2カ国間で44日間戦争が勃発する前はナゴルノ=カラバフのラチン市、、、いや、ラチンはアゼルバイジャン名だ。あえて、アルメニア名のベルゾール市と呼ばせてもらおう。彼女達は戦争前ベルゾール市で暮らしていた。女性はアルメニア軍で兵士のために料理を調理する仕事をしていたた。2020年の44日間戦争でも彼女は戦場で地獄のような経験をしている。しかし、44日間戦争までは彼女達は家に、仕事、全てがあり、ベルゾール市で幸せに暮らしていた。、、、いや、、、笑顔が素敵な赤い服の少女にとってはそうではなかった、、、。そして、前の暮らしでは彼女には一緒に暮らす父親がいた、、、。

Q”子供達にとって戦争前の生活はどうだったんですか?”

”この娘(赤い服の少女)は幸せじゃなかった。”そう赤い服の少女の祖母である女性は答えた。”、、、、えっ?”思わずそう口に出した。そして、彼女の答えに自分の耳を疑った。俺はその質問の答えに”前の生活は良かった”とか”友達がたくさんいて楽しかった”という答えを期待していたからだ。質問を投げかけておいて、帰ってくる答えを予想していたり、内心こういう答えが欲しいと思っていた俺はまだまだ浅はかだ。それにしても、全てを失った戦争前に幸せじゃなかったというこの少女の過去はいったい、、、、。

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44日間戦争まで赤い服の少女は父親とお母さんと暮らしていた。彼女の父親はお母さんをよく殴った。家庭内暴力をする男だった。少女の祖母である女性は語らなかったが、もしかしたら赤い服の少女も実の父親から暴力を振られていたのかもしれない。、、、ニコニコと無邪気に笑う赤い少女は一体両親と過ごした家で何を思い、何を見てきたのか、、、。戦争だけでなく彼女は、、、一体どれだけの悲しみを見たのだろうか、、、。

”私も彼女の父親を知っているわ。学校でも有名な不良だったわ。家庭内暴力も噂になっていたわ、、、。”通訳は彼女の父親の名前と出身地を聞いてそう語った。通訳の学校でも少女の父親は不良で有名だったようだ。授業は受けないが学校に遊びにきていたと語っていた。

赤い服の少女のお母さんは、赤い服の少女の妹を妊娠していた。お母さんが新しい命をその身に宿していようが、父親はお母さんに暴力を振るうのを辞めなかった。結果、父親の暴力によりお母さんは流産した。そして、お母さんは二度と子供の産めない体になった。、、、、無邪気に笑う少女は今まで何を見てきただろうか、、、。自分の妹になるはずだった命を父親が奪ったという事。自分の父親が良識もモラルもない人間だという事、、、。いつか少女がそのことを理解した時、この無邪気な笑顔の少女は何を思うだろうか。

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赤い服の少女と祖母

少女のお母さんは父親と別れることを決めた。大切な娘を守るために。”だから、私も娘とこの娘(孫娘である赤い服の少女)を守ると決めたの。”と少女の祖母である女性は語ってくれた。赤い服の少女のお母さんは現在、清掃の仕事をしている。お母さんが仕事中の間は祖母である彼女が赤い服の少女の面倒を見ている。

おばあちゃんにくっついて赤い服の少女はニコニコ楽しそうだ。今一緒に少女と住んでいる家族はみんな優しそうだ。生活は決して豊かではないかもしれないし、戦争で全てを失ったのはとても不幸なことだ。それでも、赤い服の少女がおばあちゃんの元で幸せそうで本当に良かったなと思った。たくさん悲しい経験をした少女、彼女の今見ている世界が美しい世界であることを心から願う。

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赤い服の少女の祖母である彼女は2020年44日間戦争時、ナゴルノ=カラバフの戦場でアルメニア軍のために仕事をしていた。

2020年アルメニアとアゼルバイジャンによるナゴルノ=カラバフでの44日間戦争。少女達の保護者であり、軍で働く彼女以外の家族は、9月27日戦争が始まった日にアルメニア本土、ゴリスへ逃れた。一方、彼女はアルメニア軍で働く職員として11月末までナゴルノ=カラバフのベルゾール市(ラチン市)に滞在していた。

Q”44日間戦争中のベルゾール市で生活はどうでしたか?”

”爆弾は雨のように降り注いだ、、、、そこでの生活は地獄だった。3階建ての兵士のビルに残り兵士達に食事を作っていたわ。300人分の食事を一人で作らなきゃいけなかったから、昼は休む暇がないくらい忙しかったわ。、、、でも夜は眠れないのよ、、、爆撃の音が聞こえて眠れなかった、、、。”そう彼女は神妙な面持ちで語る。余りにも過酷な環境である。

”あの日アゼルバイジャンは私が居た兵士のビルの3階を爆撃したわ。3階部分は破壊されたけど、私は一回に居たから無事だったわ、、。とても怖かったわ。あまりの衝撃にしばらく動けなかった、、。たくさんのドローンや爆撃を見たわ。トラウマになっているの、、、思い出したくも無い、、。誰も戦争を見ないことを願うわ、、、、。今なら平和にどれだけ価値があるかわかるわ。”そう彼女は語る。

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彼女達が現在暮らすハルタシェン村

今現在彼女達はゴリスから少し離れたハルタシェン村に住んでいる。赤い服の少女のお母さんはゴリスで清掃員の仕事をしているが、他の人は仕事がない。病気で足の感覚がない女性の旦那さんは特に仕事を探すのが大変だろう。ゴリスで暮らす難民にはパスタやオイル等、生活物資の支援がNGOからあると女性は語っていたしかし、その支援はそハルタシェン村までは届かないと女性は嘆いていた。ナゴルノ=カラバフの未承認国家アルツァフ共和国の支援で牛を一頭買い、その牛でなんとか飢えを凌いでいると彼女は語る。

Q”何が今の生活と前の生活で一番変わりました?”

”今は安心して暮らすことすらできないわ。この家(賃貸)に住めるのは12月末まで、その後住む家は決まってないわ、、いつ出て行けと言われるかもわからないから安心できないわ、、アルツァフ共和国(ナゴルノ=カラバフの未承認国家)にあった家を失ったのが一番辛いわ、、。人生のすべてを賭けてきた家。全てを失くしたわ、、、。”そう彼女は悲しそうな表情で語ってくれた。ナゴルノ=カラバフ難民で賃貸に住んでいる人たちで家を出て行けと言われている人は少なくない。中には44日間戦争から1年ほどで賃貸を追い出され何度も引っ越している人も少なくない。家を買うか出ていくか選べと理不尽な条件を提示され、追い出される人達もいる。彼らがせめて安心して暮らせることを願うばかりだ。

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軍で働いていた女性の娘である白い服の少女

”昔のベルゾール市での生活が好き。たくさん友達がいたの”そう笑って白い少女は語ってくれた。

Q”将来の夢は何?”

”看護師になりたい。看護師になってたくさん人を助けたいの。”白い服の少女は夢を語ってくれた。それは、戦争で傷ついたり、亡くなった人をたくさん見てきたからか、大好きなお父さんが病気で寝たきりだからだろうか。白い服の少女は取材中もベッドで寝たきりの病気のお父さんに付きっきりで何か話しかけていた。なんて優しい子なのだろうかと筆者は彼女の夢に感動していた。この少女の優しさはこの世界の希望の光であり、きっとその優しい光はこの暗くて残酷な世界を明るく照らしてくれるのだろうと思った。

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Q”将来の夢は何?”将来の夢の質問を赤い服の少女にも投げかけた。

”わかんない。”そう、あっけらかんと赤い服の少女は答えた。そうだよな。まだ小さいからわからないよな。でも、まだ君には考える時間がたくさんある。そう筆者が考えていると。少し間を置いて赤い服の少女は大きな声で叫んだ。

”おばあちゃんが大好き!!”少女はそう無邪気な笑顔で叫んだ。その少女の言葉に筆者の涙腺は完全に崩壊していた。これから先辛い思いをしたり、悲しい目にあってもその無邪気な笑顔を忘れないで欲しい。私なんてどうせ、、そう思うこともたくさんあるかもしれない、、でもこの世界や君の周りの家族、たくさんの人が君が笑って暮らせる未来を望んでいる。、、いや、そんな平和で優しい世界で、君は幸せに笑顔で暮らすべきなんだ。君や子供達の笑顔を守るのがこの世界に住む全ての大人の義務なのだから。

筆者はその少女達の記憶からこの世界の悲しみと絶望を垣間見た。しかし、同時にそんな絶望に屈しない彼女達の笑顔や優しさからこの世界の希望と美しさを垣間見ることができた。これからも無邪気な笑顔で幸せに暮らして欲しい。

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