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愛しい人を愛せない彼女たち

好きな人を
好きになれないもどかしさを
あなたは知っていますか?

愛しい人を
愛せない苦しみを
あなたはわかってくれますか?


***


今日も一人の女性が
わたしの目の前でツーっと一筋の涙を流した


「あっ…… 」


涙があふれたことに気づかなかった女性は
びっくりした様子で目を見開く
慌てて指で目尻を拭うと、恥ずかしそうに下を向いた


心配しないで
その涙
わたしも流したことのある涙だから

恥ずかしいことでも、後ろめたいことでも
なんでもないの

笑顔を送ることで
女性に伝えたかった


アイコンタクトで
どれだけ相手の想いを
正しく汲み取れるのかしら

どれだけわたしの想いを
心に注げるのかしら


白い不織布で覆われた口元
目に前に立ちはだかる薄白く曇ったパーテーション
脇には消毒薬の白ボトル

人々の笑顔を奪う「白」


女性の手を握って「大丈夫」だと
ぬくもりを伝えたい

それさえも叶わない
もどかしさが続く





わたしは本業とは別に
カウンセリングのお仕事もさせてもらっている

少し世の中が落ち着いてきたから
日時限定で対面とzoomでのカウンセリングの募集を出した

あっという間に枠は埋まる
全部、対面希望だった



彼女たちの相談内容は
”愛する人をうまく愛せない”
というもの

好きなの
愛しているの
それは間違いない

だけれども
相手を傷つけてしまう

そんな自分にどうしようもならなくなって
苦しみの渦中に押し込まれている

とても心が窮屈な状態で
わたしのところにやってくる


残念ながらわたしの力だけでは
狭くなってしまっている空間を
ほんの少し、広げることしかできない

それでも
肺にたまった息を吐き出せた嬉しさに
生き苦しさから解放された喜びに
感謝を伝えてくれる


貴女が感謝を伝えるべきは
わたしじゃなくて
パートナーであり
家族なのよ


愛が大きすぎるゆえ
期待に自分の全てを懸ける

見返りを求めすぎるあまり
行き場のなくなった感情を
最終的には愛する相手に
怒りや嫉妬といった負の感情としてぶつけるしかない


それも「愛」だということに
自信持ってほしいの

どれだけ大きな愛か
伝わり切れていないだけ

ほんの少し伝え方を変えるだけで
楽に息が吸えるようになることを
どうか知ってほしい




次に来た女性は20代前半で、ひどく痩せこけていた

女優さんみたいに美しく可愛らしい顔立ちなのに
化粧もせず、よれたTシャツを身に付け
下はスウェットパンツにサンダルという姿

「あら、この前会ったときより元気そうね」

彼女は募集を出すと必ずカウンセリングを申し込んで来てくれる

「うん、元気元気」

前回よりも顔色はよく、笑顔も少し出ていたことに
少し安心した

彼女もパートナーとはここ数か月
まともに会話をしていないという

仕事が忙しく、話を聞いてもらえない
淡々と愚痴を吐き出していく


「いや、ホント愛せないから」


受け入れてもらえない想いは
ふとしたきっかけで暴言となり
意図せずに相手を傷つける

そして諸刃の剣のように、自分自身も傷つけていくの

何もやる気が出ずに
昼間は毎日寝ているという彼女



彼女が救われる方法は簡単
”パートナーと話すこと”
ただそれだけ


でも
そう直接アドバイスをしても
彼女の心には何も響かない

会話することさえも
やり方を忘れてしまっているかのように

愛する人とコミュニケーションを取るという当たり前のことが
日常からすっぽり抜け落ちてしまっている


相手に素直な気持ちを伝える事で
もしも思うような返答が来なかったら
今よりもっと状況が悪くなってしまうのなら

わたしが我慢すればいいだけと

偽りの笑顔を浮かべるようになる


そのまま放っておけば
好きなのに好きでなくなってしまう
愛しているのに愛せなくなってしまう

いずれ取り返しのつかない沼に陥ることになる


そう、わたしのように




限られた時間の中で、必死に彼女たちと向き合い
偽りじゃない、本当の気持ちを掘り起こさないとならない

自分の気持ちに自分で気付くことで
ようやく愛する相手と向き合える準備ができるようになる


わたしが出来る精一杯は
ここまでなの



あなたの身近にいる大切な人に
どうか今一度、ちゃんと目を向けてみて欲しい



彼女たちはあなたに対して
偽りの笑顔を向けて

微笑んでいないかしら 




「愛しい人を愛せない彼女たち」


~END



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恋し続けるために顔晴ることの一つがnote。誰しも恋が出来なくなることなんてないのだから。恋しようとしなくなることがわたしにとっての最大の恐怖。いつも 支えていただき、ありがとうございます♪