オンリーワンじゃなくて、ナンバーワンになりたい #2〈終〉

あなたには

好きだと
言ってもらったことがない

名前を
呼んでもらったことがない

手を
繋いでもらったことがない

嘘を
ついてもらったこともない



知り合って数ヶ月経っても
何も進まない関係だったから

あなたのことを
ちゃんとわかっているわと
伝えるために聞いた


「ねぇ、本命がいるんでしょう?」

「あぁ、いるよ」


ごまかすことも慌てることもなく
単なるいつものベッド上の会話でしかなかった


「でも、まちがいなく俺の中でナンバーワンだから」


そう言って
抱きしめられる

その言葉が嘘じゃないと信頼できるのが
また不思議な感覚だった


「それって、どういうこと? 」


あなたの恋愛価値観に
興味が湧いたのがこの時だった


「わたしはナンバーワンじゃなくて、誰かのオンリーワンになりたいのよ」

「ナンバーワンじゃダメなの? 」


お互い不思議そうに首を傾げた

あなたの中の好きって気持ちは
どこにあるのかしら

あなたの中の愛したいって想いは
誰に向いているのかしら

あなたのオンリーワンを
悲しませたくないって感覚は

存在しないのかしら


一度だけ深く目を閉じると
感謝の笑顔であなたに伝えた


「オンリーワンじゃないなら、もう会わない」



それなのに、
誰のオンリーワンにもなれなかったわたしは
今あなたの隣にいる


「水族館、行こうか」


矛盾しているじゃない


「ペンギンが見たいわ」

「ペンギンはいないだろうな」


どれだけ好きだと伝えても
一生懸命に愛そうとしても
たくさんの夜を重ねても

ぽっかり空いたまま完成しない
パズルのワンピースが全く見つからないの

心埋まることのない未完の愛

これが
現代イマドキの恋愛なのかしら


「はい、水族館到着」


何度も来ている水族館ねってことは
あなたの車操作でよくわかってしまう

狭いエレベーターの中まで魚がいっぱい
怪しいライトで不気味に光っている

先にパンプスを脱いでさっさと部屋に入ると
広いベッドに腰掛けて、魚が泳ぐ天井を見上げる


「ロッシーに会いたかったわ」

「それ、動物園だから」


あなたは腕時計を外し、上着を脱ぎながら
スマホをベッドの脇に置いた

こんなことなら
動物園に連れて行って欲しかった

パンダが見たいって
言えればよかった

でもそれを伝える資格は
わたしにはないの

だってオンリーワンじゃないのだから


長い間、触れ合ってこなかったあなたと
今さら手を繋いで
ゆっくりと唇を重ねる


「好きじゃないのに、どうしてキスができるの」


疑問なのか、嫌味なのか、
自分への問いかけなのか、

尖った曖昧な言葉しか
吐き出せない自分が嫌だった


「好きだよ」


好きが嘘じゃないって
知ってるの

肌が触れる感覚が徐々に思い出されて

違うあなたと重なって
身体だけが求めはじめていく


「好きって言って」


あなたは何も言わない


「ねぇ、好きってちゃんと言って」


叫び声に近い要求も
あなたは決して聞き入れない

ただ乱暴に服を脱がされていくだけ


「お願いだから好きって言ってよぉ…  」


声にならない声で
シャツを破けんばかりに引っ張り上げても
あなたの心には
言葉も想いも届くはずがないの

だって
あなたに言ってもらいたい言葉じゃないから

だって
あなたのオンリーワンになりたいわけじゃないから

あなただってそうでしょう?

わたしのオンリーワンになりたいわけじゃないって
知ってるの


首筋から背中へと
口付けが進んでいく


「ねぇ、痛いってば」

「少しだけ、我慢して」


頭を撫でられながらも
自分自身で枕に顔を押し付けた

後ろからなんて
あなたにしては珍しい

お互いに顔を見ないほうが
好都合ってことなのかしら

矛盾に耐えきれず
涙があふれてくる


どうしてこんなことになってしまうの?

どうして真っ直ぐに愛せないの?

本当にわたしはオンリーワンになりたいの?


何かを吐き出すかのように
熱くなっていく体と呼吸が
その頂点を迎えた時

確信してしまったの

腕で顔を覆い
荒くなった息を整え
仰向けに横たわるあなたを見つめながら

最後の問いかけをした


「籍、入れたんでしょう? 」

「あぁ、そうだよ」


あなたは声を絞り出すようにして
何かを吐き出した

それが愛情なのか
ただの欲望なのか

オンリーワンなのか
ナンバーワンなのか

当たり前に間違っていることとか
好きじゃないとか、悪いとか、
悲しいとか、虚しいとか、

全部全部偽善めいた

自分が醜く思えて
しかたがないの

大切にするべきオンリーワン同士が
手中に収まる世界に夢中になりすぎるあまり

どうしてそこまでお互い
無関心になりきれるのかしら

干渉し合わないことが愛
自由な時間を過ごすことが愛
各々で欲を満たし合うのが愛

それが今の愛の形というのなら

わたしはわたしが
憎くて、情けなくて
惨めさに耐えきれなくなってしまう

そんな
オンリーワンになんてなりたくない

矛盾を解消する方法は
存在しないことを知った

だから

心のパズルは
永遠に未完成でまちがいはないの

どのパズルにも当てはまることのない
特別ナンバーワン1ワンピース


「残念ね。わたし、結婚した男とは二度と会わないってポリシーだけは貫きたいの」


何かがスッキリと
吐き出されたようだった


そっか

わたしは
オンリーワンじゃなくて


ナンバーワンになりたいのね



「オンリーワンじゃなくて、ナンバーワンになりたい」

~END


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