「ill」(悪い、病気の)であることはかっこいいという、HIPHOPの価値観が好きだ。

HIPHOPにハマってるからその話をまたするけど(自分の中でnoteは日記みたいに率直に書く場所で、ブログは読者に奉仕する感じで書く場所にしてる)、まだファン歴短いからにわか感あるかもしれないけど、何がそんなにいいかというと、「ill」であることはかっこいいという価値観がその一つだ。

ill
主な意味:病気で、気分が悪くて、吐き気を催して、(…の)病気になって、悪い、不徳な、邪悪な、すぐれない、都合の悪い、不吉な
引用元:http://ejje.weblio.jp/content/ill weblio英和辞典

調べてみるとillというのはsickよりも重い病気に対して使われるらしい。そしてHIPHOPにおいて、illという言葉は強い肯定的なニュアンスを持つ。

「illであること」に特にこだわりがある有名どころ(というかレジェンド)の一つには、"BUDDHA BRAND"がいる。その有名な曲の「人間発電所」にはこれでもかというくらい、「ill」やその関連語が使われている。

関連:「人間発電所」はyoutubeにもあります

少し引用すると、まずリリックの一行目から、「病んでる BUDDHA COMIN' AT YA 天下一 ILLER」とある。すでに「ill」のニュアンスを持つ言葉が二回も登場している。

そして次のバースの冒頭では、「粋な男のおでまし ILLで一番いかす M.C THAT'S ME (ME) いかれてる いっちゃってる 異ノーマル 普通じゃない ナミ外れてる!」と歌われる。
「illであること」と同時に、「普通・人と同じ」であることはダサいという価値観がある。これも好きだ。

「普通」「人と同じ」であることはディスの対象になり、かっこ悪いことだとされている。例としては、「お前のラップ普通じゃねぇ?」と言うと、強い否定のニュアンスになる。要は糞ダサいってこと。

みんなが人と同じになりたがってるときに、気配や個性を消そうとしているときに、「俺は人とは違う 糞ダサい連中とはレベルが違う 最高にillな自分のスタイルやっていくだけ」って歌われたらめちゃくちゃかっこいいと思った。

発想が逆なんだよな。日本人は悪名を避けてクリーンを装って実情は腐敗しているという状態に陥りがちだけど、ラッパーは明け透けな「悪者」として登場してそれをやり続けて本物になっていく。「クリーンな世界」の罵詈雑言を逆用して推進力にしていく。

もともと、B-BOYファッションのルーツは囚人服にあるしね。「俺にはHIPHOP以外何もねえ」というのはよくある話。「悪い」「欠如している」ことは見せつけるべきこと、かっこいいことなんだ。

「強い」とされている人間が「俺は強いんだ!」というより、「弱い」とされている人間がそれでも胸を張ることのほうがかっこいい。

ラッパーが追求しているのは「自分なりの答え」であり、他人からよく見られるための「模範の答え」じゃない。


でも、何が何でもDISればいいって訳じゃない。「偽物」は嫌われる。

ただ、HIPHOPでも何が何でも相手や嫌いなものをDISればいいって訳じゃない。むしろDISが多い文化だからこそ、「誰を・何を・どんなふうにDISるか」ということが厳しい目で見られている。常に試されている。

説得力がない・焦点のぼやけたDISをしているMC(ラッパー)は、「Wack MC」と言われます。要は、「この下手くそ!」とか「お前は偽物だ!」というニュアンス。

HIPHOPでは、「fake」とか「イミテーション」という言葉も、強い否定のニュアンスを持ちます。他には「セルアウト」(売れ筋狙い)も強い否定のニュアンスがあります。

こういう偽物をDISるという特徴を持っている昔の名曲(クラシック)には、キングギドラの「公開処刑」があります。

関連:「公開処刑」も、youtubeにあります

他のジャンルの音楽とHIPHOPの違いには、楽曲が単独して存在しているのではなく、シーンとの関わりも含めて存立していることがよくあるということ。つまり、同時代の別のラッパーの曲を引用したり、DISるということがよくあります。あるいは、シーンが抱えている問題や、時代が抱えている問題についてもよく語られます。


今回はこのあたりで。まだフリースタイルも今のシーンの音源もクラシックも聴き始めたばっかだけど、この世界楽しい。


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