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マリオネットの冒険 〜自由の目覚め


日が沈んでも、照明はさらに明るく輝いてショーウィンドウを照らした。外の夜道は薄暗く、ショーウィンドウのガラスは鏡のように光を反射して、通行人の姿は見えづらくなった。
マリオネットは、光のある限り思考を続けてしまう生き物だった。なおもマリオネットの思考は止まらず、ガラスに映る自分の姿と周りの売り物を見比べた。
なぜ自分は注目を失ったのか。答えを得るためには周りの事物との違いを知る必要と願望がある。いや、「見る」というだけでは足りない。少なくとも、今のまま両腕を吊るされて壁に寄りかかったまま眺めるだけは駄目だ。もっと近くから観察しなければならない。あるいは、今の自分には触れることさえ許される。なぜなら、皆の注目を集めた舞台の上とは違って、夜のパッサージュにはもう自分の動きを見届ける者はいないから。
意思の自由だ。もう彼はそれを手にしていた。しかしマリオネットは〈真実の自由〉を求めた。意思のままに手を動かせ、足で歩け、ナイフを降りかざせ。そして自分は、この小さなショーウィンドウの隅々まで駆け巡るのだ、〈自由の演者〉の姿で。
マリオネットはそう言い聞かせて、右手を動かし左手の糸を断ち切り、左手のナイフを使って残された糸も断ち切った。剣闘士のポーズは崩れて両腕は重みにまかせてぶらりと下がり、糸に頼らずに自分の手足を動かす方法を模索した。小さな体に不釣合いのナイフは思っていたより重く、二つのナイフを持った体を支えるには足は随分細いように感じられた。しかしその新鮮な感覚にもすぐに慣れた。マリオネットは自由の重みの感覚を全身で噛み締めた。

マリオネットは冒険を始めた。
自由の重みの感覚を全身で噛み締めながら。

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