「君は、学び続けなさい」とA部長は言ってくれた
会社勤めをしていると、年に1、2度、人事評価の面談が行われる。管理職であれば、部下を評価しつつ、自分も上位の役職者から評価される。
評価される立場で受ける面談では、あまり印象に残る言葉をもらった記憶がない。悔しい思いをしたことは数えきれないほどだし、たまには褒めてもらったこともある。でも内容は、あまり日が経たないうちに頭から消えていく。
そんな中、ひとつだけはっきりと覚えているひと言がある。もう10年以上前のことだ。
当時の職場では、年に一度部長面談が行われることになっていた。私の部署は、物静かなA部長が率いていた。何を話せばいいか特に思い浮かばないまま、面談に臨むことになった。
そのときのメインの話がどんなものだったかは、まったく記憶に残っていない。でも、もう面談が締めに入るという頃にA部長が突然、「君は、学び続けなさい」と口にした。「僕は普段こんなことは言わないんだけどね、君は、そうした方がいい」と。そのことは、声音や表情も含めて含め今でもはっきり覚えている。
評価面談に限らず、職場でそんなことを言われたのは、後にも先にもその一度だけだ。もしかしたらA部長が誰かにそんな話をしたのも、その一度だけだったかもしれない。
A部長は物静かな雰囲気を漂わせつつ、職場内外のことを自らの立場からよく見渡していたのだと思う。それで、私が仕事の進め方などで前例踏襲ではないことをチョコチョコ試行錯誤していたことも知っていたのだろう。
当時、私は資格試験などの学びは全くしていなかったが、自分なりの工夫や楽しみを仕事の中に多少でも織り込もうとしていた。実を結ばなかったことも多かったが、「決められたことを決められた通りにやっていればいい」という風潮に染まるのが嫌だった。その様子を見てのA部長の言葉だったのだと思う。
もうひとつ、いま思い返すと、そんな私の様子を見てA部長は「こいつはこの組織で程よく周囲に合わせてうまくやっていける奴じゃないな」と感じ取ったのではないかという気がする。その後私が職場を変えていることからも、それは正しい見方だったと言える。
「君は、学び続けなさい」
この言葉の真意が、当時の私にはよくわからなかった。でも、心に残った。そして、仕事において自分なりの試行錯誤を常に行うこと、新しいことに取り組んでみる姿勢を保つことを、その後も続けてきた。それらをベースとして、今は遅まきながら中小企業診断士などの資格に挑むようになった。「自律的な暮らし」を目指すという方向性に、学びの焦点が絞れてきたのだろう。
発言に込めた思いをA部長に確かめることは、今はもうできない。でもその言葉は私の中で根を下ろし、ひとつの指針になっている。