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デンマークのまちづくりと心地よさ

デンマークが好きだ。コンパクトな街(国)のサイズ。隅々まで美しいデザインが行き届いている公共スペース。穏やかでとっても自然体な人たち。環境に対する意識と、それを実際に実行しているところ。

久しぶりにデンマークを訪れて、改めてその魅力にとりつかれた。

デンマークという国の心地よさは、アーティスト・デザイナーの自由度を認めつつ、それを公共空間にバランスよく取り入れていることだと思う。公的機関がアート・デザイン(建築)が人々に与えるポジティブ・ネガティブな影響をよく理解して、うまく予算を配分したり、計画に取り入れているのだろう。

例えば、最近コペンハーゲンにできた火力発電所、兼ゴミ焼却所、兼スキー場(!)という複合施設。

国際的な建築デザイン会社のBjarke Ingels Group(BIG)が首都コペンハーゲンに建設中の火力発電所は、ごみ焼却炉と緑の壁、そしてスキー場が一体化したおしゃれな複合施設だ。ごみ焼却炉として年間40万トンのごみを燃やし、16万世帯に熱湯を、6万世帯以上に電気を届ける。現在の老朽化した施設と比べて24%多くのエネルギーを生み出す一方で、年間10万トンのCO2を削減する性能がある。

これだけでもユニークなんだけど、さらに、

環境先進国の北欧デンマークらしく、廃棄物を処理した際に発生する熱を回収し利用するサーマルリサイクルを採用している。この技術によって、ごみ焼却から排出されるものは、二酸化炭素と水蒸気のみで、ろ過技術も加わって、コペンハーゲン中心部よりも空気がきれいに保たれる

ゴミ処理施設を兼ねているのに、他の場所よりも空気がきれいに保たれるってすごいことだ。

実際に、火力発電所は市内中心部からバスで15分くらいのところにあって、近年開発されてきた土地だそう。中心部からはそんなに離れていない。施設のすぐ横には住宅や大学の研究所(どれもこれも建築が秀逸)が広がっている。

圧巻なのはその外観。

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巨大なんだけど、圧迫感がさほどないのは敷地の周りに余裕をもたせているからだろう。匂いや音もまったくない。

ゴミ処理施設というと、街から遠く離れたところに建てられるのが常で人々も避けるイメージがあるけど、この施設は建物がモダンでオープンで、嫌な感じがない。そして極めつけが、屋上部分でグラススキーやトレッキングができる建物の屋根部分(笑)。

発電所の入り口ではスノボ、スキー用品が借りられるようにもなっているし、持ち込みもOK。ちゃんとリフトで上まで行けるようになっていて、屋上から下まで滑ることも、下のなだらかなところ(写真で緑に見えるところ)でトリックをやったりもできる。

私が行った時には、小学生の男の子がひとりで屋上から滑っていて、下の方ではティーンエイジャーの若者数人がトリックを練習していた。そして仕事終わりと思われる中年の男性がスーツ姿で数人滑りに来ていた。

発電所の隣にクラブハウスみたいな建物があって、そこにはスキー用品店とカフェバーも併設されている。バーではオキ丸のカールスバーグやクラフトビール、軽食もあって、内装もゆったり素敵な空間。

デンマーク人の友人は「デンマークにはスキーができる山がないから隣のスウェーデンに行かないとスキーができないの。だからじゃないかなあ」と言っていたけど、公共の建物、しかもゴミ処理施設を、本気で人が集まる場所になるように考え抜かれていることには感銘を受けた。

デンマークの都市計画では、今でこそ「質の高い生活環境をつくる」という方針が貫かれているけど、有名な都市計画家のヤン・ゲールさんが1960年代に始めたときにはすんなりとは行かなかったらしい。コペンハーゲン市も車を中心とする街のつくり方をしていて、大きな高速道路が中心部に建設される計画もあったという。人々が都市でどのように暮らしているのか、その人数や動き方のデータを緻密に分析し、自治体に共有することによって、徐々にまちづくりのあり方が変わっていったそうだ。(ヤン・ゲールさんのインタビューはこちら

「人」によりそったまちづくりという点に加えて、デンマーク(もしくは北欧)がユニークなのはデザイン性を十分に取り入れているところだろう。デザイン性の高い建築物や都市設計を実現するためには、計画段階では追加的な予算も必要になるだろうけれど、単につくりが美しいだけではなく、長期的な施設の運営や環境面からみてサステナブルであるということが付加価値として認識されている(自治体にも、市民にも)

この意識こそが、おそらく公共空間の包括的な「デザイン」(いわゆるデザイン思考も含む)を具体的に生かしていくためには不可欠なんだろうなと思う。建築や都市計画だけでなく「社会のありよう」そのものに人々の意識が向いているという土壌があって、さらに自治体やヤン・ゲールさんにようなリサーチャー、建築家が中心となって社会としてのコンセンサスを築いている。その積み重ねが、この気持ちいいと感じる街づくり、社会づくりなの要素なのかなあと思った。

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