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ユニリーバ「美白やめます宣言」にみるマーケティングの人権施策

[最新ニュース] #マーケティング #商品開発 #Blacklivesmatter #人権尊重

Black Lives Matterのムーブメントをきっかけに、人種差別を許容しないことを明らかにし、ダイバーシティ・インクルージョンを積極的に推進する、グローバル企業が増えています。

消費材・化粧品メーカーでは、「包括的な美」「美の多様性」を強調し、自社の商品開発・マーケティングを、より人権を尊重した戦略へ転換しています。

具体的な事例を見てみましょう。

ユニリーバの方針転換

ユニリーバは、Instagramの公式アカウントで、Black Lives Matterのムーブメントへの賛同を表明したところ、あるユーザーから「美白化粧品(Fair and Lovely)の製造を止めるまで、ユニリーバは正義と公平性にコミットしているとは言えません」というコメントが入りました。

他にもボイコットを匂わせるような抗議活動をSNSを通じて受けたことで、スキンケア製品の名前から「色白(フェア/フェアネス)」「美白(ホワイト/ホワイトニング)」「明るい(ライト/ライトニング)」といった表現を削除すると発表しました。(2020年6月25日プレスリリース

その他、米医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン、米食品大手マーズ、仏化粧品大手ロレアルも、自社製品の宣伝方法や商品イメージを変更する措置を発表しました。

「商品のコンセプト」には人権尊重が必要

グローバルな企業が「美白化粧品」から撤退した理由は、美白化粧品のコンセプトが「肌の白い女性ほど美しい」という白人至上主義の価値観に基づき、肌の色の多様性を尊重しない商品だったからです。

主な消費者は、アジア、中東、アフリカ、欧米各国の有色人種の女性で、消費材メーカー・化粧品メーカーの広告・宣伝によって、「白い肌になりたい」と思う女性が増え、肌を「漂白」する化粧品の販売も好調でした。美白化粧品の国際的な市場規模は、2027年までに123億ドルに達すると推定され、将来的にも魅力的なマーケットでした。

しかし、Black Lives Matterがきっかけで、美白化粧品に対するボイコットを呼びかける動きがSNS上で湧き上がり、企業は相次いで方針転換を発表しました。

これからの社会は、偏った価値観を、企業が率先して植え付けるようなマーケティング手法が批判される時代なのです。

企業のマーケティングに求められること

SDGsの視点をマーケティングに取り入れる企業は増えていますが、 SDGsで「誰一人取り残さない」と言われる中で、すべてのジェンダー・障がい・人種・文化・思想・宗教などへ配慮できていますか。

マーケティングにおいても、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った人権方針を持ち、差別の助長や多様性への不寛容といった人権への負の影響の予防・軽減が求められています。

<マーケティングに必要な人権施策(例)>
商品・サービスの企画・開発、広告・宣伝・広報、販売促進:商品のコンセプトやキャッチフレーズ、広告を見聞きした時に、差別・偏見を助長したり、ステレオタイプにつながったりするような表現を使用しない。
ブランディング:より消費者の人権意識を高められるような価値を創造する。
市場調査・分析:人権を配慮した調査項目・評価指標を採用する。
店舗・施設の設計・設置:あらゆる年代・性別・言語、あらゆる障がいに対応した店舗を意識的に設計する。
営業、集客、接客、顧客の情報管理等:プロファイリングや顧客データの管理データベースにおいて、差別的な視点が入らないようにする。
●共通事項:商品・サービスの社会的価値をより向上させるために、担当者や担当部門の主観で判断せず、必ず人権専門家・人権NGO・ライツホルダーの意見を反映し、客観的な評価を重ねる。(つまり、人権デューディジェンスを必ず実施する
出典:筆者作成

SDGsの本質は「人権」です(詳細は、以前の記事をご覧ください。)

SDGsを実践する企業であれば、どの部署でも、どんな業務でも、人権への配慮を主流化する必要があります。そうすることで、バリューチェーンの負の影響を可能な限り減らすことができます。

Social Connection for Human Rights/ 鈴木 真代

参考資料:人権デューディジェンスのためのガイドライン(日本語)
1)国連指導原則報告フレームワーク実施要領(2015)
国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に定められた企業の人権尊重責任に沿って、企業が人権課題に関する報告を行うための、包括的ガイダンスです。企業の人権尊重責任を日常的な業務に統合するための効果的なツールで、一連の簡潔な質問と、質問に回答するための実施要領がまとめられています。
2)日弁連 人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)(2015)
企業及び企業への助言等を行う弁護士が、指導原則に基づき、人権リスクを評価し、負の影響を回避・軽減するための内部統制システムを構築する際の手引きです。取引先(調達先、業務委託先、販売先、融資先、業務提携先、買収相手等)と取引を行う際に、取引先を人権に配慮した適切な活動を行っているか否かを評価し、適切な事業活動に誘導するための手引きです。
3)OECD 責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス(2018)​
OECD多国籍企業行動指針に基づき、事業者の活動が労働者、人権、環境、贈賄、消費者およびコーポレート・ ガバナンスに負の影響をもたらす可能性があることも認識した上で、企業が自らの事業、サプライチェーンおよびその他のビジネス上の関係に関連する負の影響を回避し、それらに対処するため、リスクベースのデュー・ディリジェンスを実施するためのガイドラインです。​​
4) セーブ・ザ・チルドレン「子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン」
子どもの権利の尊重・推進の観点から子どもに影響のある広告やマーケティングについての基本的な考え方を示すとともに、すべての企業が尊重すべき具体的かつ実践的な考え方を提唱しています。すべての事業者や関連団体が、採用する内容を自主的に決定した上で、自社基準や自主規制を作成するため、組織内の体制を検討するために活用できるガイドラインです。

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