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持続可能な開発のための世界経済人会議(wbcsd)、世界をリードする会員企業のCEOに「ビジネスと人権」へのコミットメントを求めるように

[最新ニュース]#wbcsd #CEO #人権 #サステナビリティ

World Business Council for Sustainable Development(wbcsd; 持続可能な開発のための世界経済人会議)は、持続可能な開発を目指す企業約200社のCEO連合体で、世界70ヵ国に地域拠点があります。日本では経団連がパートナーとして機能しており、2020年10月には会員規約を改定し、会員企業に「ビジネスと人権」に対するコミットメントを求めるするようになりました。

本記事では、wbcsdの新しい会員規約「人権に関するCEOガイド」を紹介します。

人権方針の策定&人権DDの実施が必須

1995年設立以来、wbcsdはビジネスセクターが持続可能な社会を構築するために団結していくことを目的とするプラットフォームとして機能してきました。

25周年を迎えた2020年10月、年次総会にて、新しい会員規約が全会一致で承認されました。その内容は以下のとおりです。規約の3番目に、ビジネスと人権に関する取組実施を宣言することが含まれました。

3. Declare support for the UN Guiding Principles on Business and Human Rights by having in place a policy to respect human rights and a human rights due diligence process.(人権方針および人権デューディリジェンスプロセスを確立した上で、国連ビジネスと人権に関する指導原則の支持を宣言すること*)
*筆者にて仮訳、会員規約の一部を抜粋
<出所:wbcsdプレスリリース "A new benchmark for sustainable business leadership through ambition and action"(2020年10月26日)>

「人権に関するCEOガイド」(2020年改訂、第二版)

wbcsdでは、SDG Compass(GRIとUN Global Compactと共同)をはじめ、企業向けのツールを発行していますが、各業界をリードする企業のCEOがより人権課題への取り組みを推進するために、2018年にCEO向けのガイドを発行しています。

2018年に発表された「人権に関するCEOガイド」は日本語に翻訳されたものがあり、2020年10月発表の「人権に関するCEOガイド第2版」は、まだ日本語はありません。(第1版の日本語版は、IGESと日本経済団体連合会(経団連)の共同で翻訳)

ガイドの重要なポイントを要約すると、以下の通りです。各企業のCEOに対し、主に4つのアクションを呼びかけています。(参照:wbcsdウェブサイト内 人権に関するCEOガイド

1. 自社にとって最も重要な人権を把握する

●特に、会社の製品やサービス、運営およびサプライチェーンの影響を受ける人々の意見を聞くことにより、人々へのリスクを特定し、その相対的な深刻度を評価します
●産業(例えば、 電子機器や電気自動車のバッテリー製造におけるコバルトのサ
プライチェーン)や、人々の関心度(例えば、#metoo運動)に応じて、新しい注目の話題を継続的に追跡します
●直面する課題と、 改善のための会社の継続的な取り組みについて、コミュニケーションをとる準備をします
<出所:人権に関するCEOガイド(2018)>

2. トップが率先する

●共通のビジョンを提示するために、研究開発から調達、販売、マーケティングにいたる組織全体の社員に対して、明確で疑う余地のない人権に関するメッセージを送ります-人権にインパクトをもたらしうる慣習があるビジネスパートナーとの取引において、社員が明確な目標を設定できるよう権限を与えます
●社員が人権問題に効果的に対処し、率直に議論するのに必要なパフォーマンス目標、インセンティブ、リソースを提供します
<出所:人権に関するCEOガイド(2018)>

3. ステークホルダーを透明性ある形でエンゲージメントさせる

●社員が自ら意識し、準備をし、進んで行動することによって、自社が市民と社会との関係を大切にしていることを示します
●ステークホルダーの考え方を理解し、自社の決定や活動が彼らの生活に違いをもたらす可能性があることを認識するために、自社のビジネスがインパクトを及ぼしうるステークホルダーの意見に直接耳を傾けます
●投資家、同業者、政府の担当者といったステークホルダーに自社の人権に関するメッセージを共有します
<出所:人権に関するCEOガイド(2018)>

4. コンフォートゾーン(居心地のいい領域)を超えて協力する

●サプライチェーン上のインセンティブを大きく変えるのに必要な影響力を生み出すために、業界の他のCEOの関与を促します
●政府、国際的な非政府組織および市民社会を含めステークホルダーとの対
話とパートナーシップを確立します
●このような解決困難な問題について、根本原因を考え、目立った変化を起こす
力を備えた独自の協力関係を進展させるよう、チームにインセンティブを与え
ます
<出所:人権に関するCEOガイド(2018)>

本ガイドの動画では、各業界のCEOが実際に自分の声で語っています。日本からは、損保ジャパン・二宮会長が登場しています。

なお、2020年10月の第二版の発行に伴い、以下の56社(統計上、計23カ国で事業を展開、世界に約430万人の従業員を持つ事になる)の経営層が世界に向けてアクションを呼びかけました。

そのうち、日本企業としては、富士通・時田 隆仁代表取締役社長、日立製作所・東原 敏昭代表執行役社長兼CEO、野村総合研究所・此本 臣吾代表取締役社長、損保ジャパン・二宮 雅也取締役会長の4名がコミットを示しています。

<人権に関するCEOガイド第二版にコミットメントした経営者リスト>

Sunny Verghese, Chair of WBCSD, Co-founder and Group CEO, Olam
Björn Rosengren, CEO, ABB Ltd.
José Manuel Entrecanales, Chairman & CEO, Acciona
Peter Oosterveer, CEO, Arcadis
Alfred Stern, CEO, Borealis AG
Bernard Looney, CEO, BP
Vasco de Mello, Chairman & CEO, Brisa
Philip Jansen, CEO, BT
Suphachai Chearavanont, CEO, C.P. Group
David MacLennan, Chairman and CEO, Cargill
Fernando A. González Olivieri, CEO, CEMEX
Richard Lancaster, Chief Executive Officer, CLP Holdings Limited
Dominic Blakemore, Chief Executive Officer, Compass Group
Jean-Bernard Lévy, Chairman and CEO, EDF
Miguel Stilwell de Andrade, Interim CEO and CFO, EDP
Eldas Saetre, President & CEO, Equinor
Claudio Descalzi, CEO, ENI
Keryn James, CEO, ERM
Gilbert Ghostine, CEO, Firmenich
Takahito Tokita, CEO, Fujitsu
Gilles Andrier, Chief Executive Officer, Givaudan
Nadir Godrej, Managing Director, Godrej Industries
Brian Griffith, Chairman of the Board, Griffith Foods
Jorge Mario Velásquez, CEO, Grupo Argos
Toshiaki Higashihara, President & CEO, Hitachi, Ltd.
Sanjiv Puri, Chairman and Managing Director, ITC Ltd.
Steven Cahillane, Chairman & CEO, Kellogg's
Jan Jenisch, CEO, LafargeHolcim
Michael Gelchie, CEO, Louis Dreyfus Company
Andreas Eggenberg, Chairman, Masisa
Florent Menegaux, CEO, Michelin
Brad Smith, President, Microsoft Corporation
Andrea Àlvares, Chief Marketing, Innovation & Sustainability Officer, Natura
Peter Vanacker, President and CEO, Neste Corporation
Magdi Batato, Executive Vice President & Head of Operations, Nestlé
Shingo Konomoto, Chairman, President and CEO, Nomura Research Institute
Vas Narasimhan, Chief Executive Officer, Novartis
Ramon Laguarta, Chairman & CEO, PepsiCo
Marco Tronchetti Provera, Executive Vice Chairman and CEO, Pirelli
Chansin Treenuchagron, President and CEO, PTT
Kongkrapan Intarajang, CEO, PTT Global Chemical
Jacques van den Broek, CEO, Randstad
Roongrote Rangsiyopash, President & CEO, SCG
Alistair Field, Group Chief Executive Officer & Managing Director, Sims Limited
Ilham Kadri, CEO, Solvay
Masaya Futamiya, Director-Chairman, Sompo Japan Insurance Inc.
Claudia Azevedo, CEO, Sonae
Annika Bresky, President and CEO, Stora Enso
Bertrand Camus, CEO, Suez
Dr. Heinz-Jürgen Bertram, CEO, Symrise
João Castello Branco, CEO, The Navigator Company
Patrick Pouyanné, CEO, Total
Alan Jope, CEO, Unilever
Eduardo Bartolomeo, CEO, Vale
Antoine Frérot, CEO, Veolia
Marcelo S. Castelli, Global CEO, Votorantim Cimentos
(出所:wbcsdウェブサイト

まとめ

企業の「ビジネスと人権」の取り組みが高まっている背景には、人権デューデリジェンスの法制化が欧州諸国を中心に進み、PRI(国連責任投資原則)などESG投資を推進する投資家も増え、人権への取組みが進んでいる企業が高く評価される仕組みが出来上がってきた事情があります。人権デューデリジェンス義務化が加速する中、世界で事業を展開する企業にとっては、「人権」は必須のテーマになっています。

この流れの中では、上記CEOガイドに記載されている通り、経営層のコミットメントを外部に示すこと、および組織内での経営層のリードが必須です。

wbcsdのようなCEOイニシアティブを通じて、世界に向けてコミットメントを発信していくことも一つの手段ですし、日本では、まだまだ人権への取り組みが十分ではないため、実際の自社の活動を同業他社に共有し、業界全体で底上げしていく活動も求められています。

ビジネスと人権に関する指導原則を実施することが求められていますが、多大なリソースとバリューチェーンへの影響などが考えらえれます。多くの困難を乗り越えるためには、1社だけではなく、業界全体での「コンフォートゾーンを超えた協力」が前提です。

現状の取組みが完璧にできていない状態でも、どこまで自社が実施しており、今後どんな計画で推進していくのか、そして、それはこの業界でどのような位置付けなのかなど、まずは、自社のスタンスを開示していくことを、株主や投資家、NGO、消費者などのステークホルダーは期待しています。

 Social Connection for Human Rights/ 鈴木 真代

Social Connection for Human Rights(SCHR)
〜Bridge All for Responsible Business〜

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●参考サイト:
wbcsd「人権に関するCEOガイド」(2018年、第一版、日本語版)
wbcsd会員企業リスト
wbcsd website, "CEO Guide to Human Rights"
wbcsd website, "Human rights agenda gains traction as top business executives use their voices to call for action", 28 Oct 2020

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