拝啓ジュール・ヴェルヌ様
拝啓ジュール・ヴェルヌ様。
最近、私の娘たちへの読み聞かせ本として、
またしても、あなたの本を使わせてもらいました。
我が家ではあなたの『海底2万マイル』『地底旅行』『神秘の島』が人気です。
おかげで私も、あなたの作品をいろいろ、読み直しています。
やはり、、、面白いです。あなたは知らない時代の話をしてしまいますが、ウィリアム・ギブスンとかグレッグ・イーガンとかも面白いのですが、
私にとってはSF文学といえば、やはり、あなたが屹立しております。
何をおいても、
科学というものに対する強い信頼と、科学を通じて見えてくる「大自然」なるものへの畏敬、
そういうあなたのポジティビズムは、なるほど科学やテクノロジーが失敗してきた事例も幾度も見てきたものの、結局、技術革新こそが、世界をより快適なものに変えてきたし、貧困や飢餓も少しずつ統計的には減らすことに成功してきている昨今、なおさら、手放さしてはいけない希望の種子と思います。
ただし、ひとつ、残念なことがあります。
あなたは、『海底2万マイル』と『神秘の島』の主人公格のキャラクター、ネモ船長に、強烈な反戦主義を代表させました。
そして、それでいうと、実は私は「戦争が嫌いだから列強の軍艦を沈めてやる」というテロリスト的な発想に走りがちな『海底2万マイル』のネモ船長は好きになれないのですが、
そういったテロ思想を捨てて太平洋の島にひきこもり、コツコツと人類を飢餓や貧困から救うためのバイオ技術を研究しているネモ船長の方は、とても好きです。
私はネモ船長のような天才科学者ではありませんが、可能な限り、この時期のネモ船長のように、人類の悪を嘆いて自分自身が傲慢な悪に染まることもなく、また、この世が暴力だらけだからといって自分も暴力の連鎖に入り込むこともなく、静かに世界の片隅にひきこもりながら、ただただ、世界の少しでも改善するテクノロジー進歩を辛抱強く応援する人でありたい、、、そう思うのでした。
ただ、、、先ほど私が「ひとつ、残念なことがあります」といったのは、、、潜水艦や加工肉など、ネモ船長が空想SF小説の中で生み出していたさまざまな技術は、その後みごとに現実の世界でも実用化されましたが、「人類の進歩の向こうに見えてくるはずの、戦争のない世界」というネモ船長の理想だけは、なんと、21世紀になっても、現実の世界ではまだまだそこへの到達の道筋すら見えない、という状況だということです。