マーケティングのインプットとアウトプット マネジメントとデザインの視点

現在SBE-Laboでは、若手のデザイナーの方と共同のプロジェクトを検討しています。まあ、若手という意味では、見方によってはまだまだ僕も若手なんですけどね。
さてこの方はランドスケープ、建築、プロダクトの分野の優秀なデザイナーで、僕と同様にデザイン学科でマーケティングの講義をされています。
色々な意見交換をしているうちに、大変興味深い話を聞きました。この話は、僕も長らく経営学の分野でマーケティングに携わってきましたが、考えたことのない(必然的に経営学分野では聞いたことがない)視点なので、僕の考察も含めて述べたいと思います。

以前も記しましたが、マーケティングという言葉は様々な意味で使われています。多くの場では販売・セールスという意味で使われますし、市場調査のみを指す場合もあります。広告マスコミなどでは、プロモーションを指しています。
これについては、以前マーケティングの定義と併せて述べました。

経営の位置付けから考えると、上から「企業戦略」「事業戦略」があり、その下に「機能別戦略」としての「マーケティング戦略」があります。経営管理の項目についても同様のものが挙げられます。

この考え方からすると、デザインは開発戦略の中に含まれます。その開発方針やコンセプトは、事業戦略に基づくマーケティング戦略からフィードバックされた内容によって規定され、これに従って、開発、つまりデザインが行われます。
この時、コンセプトモデルなどのデザイン研究が含まれるのかといった疑問が出るかもしれません。しかし企業戦略や事業戦略に反するコンセプトモデルを開発することはありません。そもそも事業コンセプトと異なるコンセプトモデルを作ること自体が無意味です。

つまり経営学や企業経営の視点から見た場合、デザインはR&D(Research&Development:研究開発)戦略に基づく行為であることから、そこにマーケティングという機能は含まれないということになります。

ただし、1990年代の後半からデザインマネジメントという新しい概念が誕生し、この考え方は、近年ではトップマネジメントの一部と位置付けられるようになっていることは特記し、あらためて別の機会に記します。

そのため、デザインの世界と関わるようになってから、デザイナーの方が使うマーケティングという言葉に、ずっと違和感を感じていました。
またこれはデザインに限ったことではありませんが、特に特化した分野の方々、例えばデザインだけでなく、財務、生産など、企業経営の大きな柱かもしれませんが、それが企業経営の根幹を成すような表現にも違和感を感じていました。

さて話を戻して、そうは言っても、ここで述べているようなマーケティングを実践しているのは一部の大企業の、トップマネジメントでの話です。しかも世界的な企業でさえ、例えばソニーは2010年代にブランドエクイティと製品戦略の判断ミスから急速に失速しました。またパナソニックも同様の理由から苦境に立たされています。
ましてやマーケティングに十分力を割けない企業や、特に中小企業などでは、マーケティングのノウハウすらありません。

そこで考えるのがデザイナーのマーケティングの視点です。
製品開発などにおいて、デザイナーは社会の方向性やテクニカルロードマップなどを考えながら、過去や現在の様々な事例を基に新たなデザインを考えます。
先に挙げた友人が教えているのは正しくこうしたもので、これを彼はマーケティングのアウトプットとして説明しました。

ただし、これは全てのデザインに当てはまる訳ではありません。デザインのジャンルや受け持つ範囲によって変わるという点は注意する必要があるでしょう。

他の場でも記している通り、実はマーケティングという言葉は様々な意味で使われています。これは中には意図的に言葉の範囲を絞っていると思われるものや、単に‘バズる’(嫌いな言葉ですが)キーワードとして使っているものもあります。また言葉の範囲が広がったことから、ビジネスのあらゆる場で考えなければならなくなったため、限られた範囲の視点や考え方として使われてもいます。そのためでしょうか、それぞれの人のマーケティングという言葉が、僕にはどうにも受け入れ難くなっていました。

しかし今回、友人との話からマーケティングのインプットとアウトプットという表現で分類することで、この矛盾を解消することができました。何故なら彼がマーケティングのインプットの重要性を指摘しており、両者が不可欠という視点を持っていたからです。

加えてマーケティングには、その立場から様々なインプットとアウトプットが存在します。最も大きな視点では、企業のコンセプトなどがこれに当たります。また最も小さな視点では、店頭での顧客一人一人に対する応対などになります。ただし、大きな視点を小さな視点に当てはめることはできますが、小さな視点を大きな視点に当てはめることは困難です。

ちなみに僕がマーケティングの講義を担当する広告デザイン専門学校では最も大きな視点の考え方を、広告やデザインの事例を題材にして話すように努めています。

以前マーケティングの定義について述べましたが、ここではマーケティングを一連のプロセスとして説明しています。そのためマーケティングをインプットとアウトプットとう視点に分けるという発想はありませんでした。しかし職務の範囲や対象の範囲が限られるほど、このマーケティングのインプットとアウトプットという視点は、より解りやすくなります。

自分がどの視点の役割を果たしているかを認識することは大切なことですが、全てを網羅することはできません。
たからこそ、ビジネスでは自分の能力を十分に発揮させられるパートナーが必要になります。そうすることで、より良いインプットとアウトプットが実現できるのではないでしょうか。
また職務の範囲に留まらず、最大公約数の視点を理解することで、最小公倍数の作業を理解することができます。

今後このデザイナーさんとの活動は、事例として随時紹介していこうと思います。

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