年のはじめに考える 経営戦略がなぜ難しいのか

2022年は新型コロナウイルスの影響に加えて、ウクライナ侵攻など、様々な問題から多くの企業に影響を与えました。
終盤には海外からの観光客が解禁されましたが、普段の生活も含めて、今年も厳しい状況が続くことが予測されますが、こうした状況だからこそ、「戦略」が必要となります。

しかし日本は世界的にも戦略がとても苦手な国であり、そこが日本や日本企業の弱点の1つだと言われています。

古い歴史の話をしてもなかなか実際の戦略には繋がりにくいと思いますので、今回はあらためて、なぜ戦略が難しい( 適切に理解されていない)のかを考えます。

・「戦略」になっていないランチェスター戦略
中小企業の経営者の方と話をしていると、「ランチェスター戦略」という言葉を聞くことがあります。しかし具体的な内容を聞いていると、どうしても「戦略」には思えません。
これは当然のことで、日本では経営分野で「ランチェスター戦略」として知られていますが、元々は「ランチェスターの法則」と呼ばれるもので、軍事戦闘の数理モデルです。
ランチェスター戦略の内容の詳細は割愛しますが、簡単に言うと「強者(数の有利)と弱者(数の不利)の戦い方」を述べたものです。

さて、ここで問題となるのが、ランチェスターの法則で述べられている方法が、実は作戦や戦術レベルであるという点です。

様々な場で「戦略・作戦・戦術」について述べていますが、特に戦略についてはなかなか理解が難しいようです。
経営戦略であれば、まずは企業のビジョン(どのような企業にしたいのか)を実現するための道筋を考えます。この筋道を実現していくプロセスの中で、どのような(市場)競争を行っていくのかを選択する必要があります。
ランチェスターの法則はこの選択のための方法論ですから、「戦略」と捉えるべきではありません。
しかし日本では戦略の概念が適切に理解されていないことが多いため、どうしてもこのような方法論やテクニックを「戦略」と勘違いしてしまうことが多いようです。

・企業のビジョンと戦略
それでは企業のビジョンとはどういったものなのでしょうか。
この場合、ビジョンとは「将来像」ですから、簡単に言えばその会社をどのようにしたいのかという視点です。20世紀、特にバブル期までの日本企業のほとんどは「会社を大きくする」というのが一般的なビジョンでした。しかしバブル崩壊以降、厳しい経営環境の中で、「どうやって生き残るか」という視点が一般的になりました。

会社を大きくするという視点であれば、例えば5年後や10年後という時間軸の中で、社員数や店舗数といった目標か中心でした。
しかし生き残るという視点に変わってからは、短期的な目標が中心になってしまい、本来の意味のビジョンを設定することが難しくなりました。

・今考えるべきビジョン
さて、現代のように社会の価値観が大きく変化、多様化している時代には、上述のような「○○年後」のビジョンでは変化に対応することができなくなりました。そのため、社会の変化を見越したうえで、「○○年後まで」という期限を設ける必要があります。
言い替えれば、それぞれの企業や事業が、社会の変化や市場の動向に合わせて適応できるビジョンを持つ必要があります。
また自社の特徴を活かし、差別化を図るため、製品やサービスの内容、組織などを明確にして、どの市場をターゲットにし、どのような便益(製品やサービスが顧客にもたらす効用)を提供するのかを明らかにして、企業の有り様を明確にする必要があります。

・ビジョンを形作るもの:理念・ミッション・パーパス
今求められるビジョンは、20世紀のような考え方では、企業や事業を成り立たせることができません。
顧客、ひいては社会のどんな問題を解決するための事業を行うのかという「ミッション」を明確にしなければなりません。そしてそのミッションは、経営者のどのような思い(志)が元になっているのかという「パーパス」を示すことで、企業の内外の共感と合意を得る必要があります。そしてこれらを実現するための基本方針や守るべき規範が「理念」となります。

端的に言うなら、これらは全て「目的」です。

しかし日本ではこうした内容が表面的な「社会貢献」と取り違えられています。
2000年代に入り、世界的に大企業の不正や隠蔽が明らかになったことから、コーポレートガバナンスやCSRが重視されるようになりました。欧米ではこのような概念は歴史的過程から、かなり以前から理解されていました。しかし日本では新しい概念として導入され、また適切に学ぶことがなかったことから、公共の福祉や自然環境問題などと結びついてしまったのです。

それでは本来の意味はどのようなものなのでしょうか。

それは「誰に」「何を」提供するのか、そのために「どのような」企業になる必要があるのか。「なぜ」そうしたいのか、そのために守るべきことは何か。
つまり企業の「目的」、実現する「方法」と「姿勢」です。

経営戦略とは、なりたい自分になるために必要なプロセスです。だからこそ、適切なビジョンが不可欠なのです。

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