色々な意味のマーケティング マーケティングの本質とは

僕が担当するマーケティングなの講義で、特にこの5年ほど、最初に必ずする質問があります。
それは「マーケティングとは何でしょう?」という質問です。

特に今の、スマホネイティブの学生さんたちは、インターネットを通じて様々な言葉に接していますから、マーケティングという言葉を知らないという学生さんはいません。
僕の質問に対して、学生さんからは「調査すること」とか「たくさん売れるようにする」といった答えが返ってきます。
他には、いかにも最近の答えだと感じるのは、「たくさんの人に見てもらう」というこたえでしょうか。

さて、なぜこのような質問をするのかというと、マーケティング自体やマーケティングの中の様々な用語が、僕が考えていた以上に色々な意味で使われていると感じたからです。
そのため、学生さんに先入観がないうちに、マーケティングの定義を説明する前の段階で、この質問をするようになりました。

そこで今回は、あらためて「マーケティング」やマーケティングの「用語」がどのような意味で使われているのかを考えたうえで、適切な意味を理解する必要性についても考えたいと思います。

・事例1 狭い意味で使われるマーケティング
僕が最初に「マーケティング」という言葉に違和感を感じたのは、7、8年前だったでしょうか。
そのときはグラフィックデザイナーの方、マスコミ出身の方と仕事をしていました。マスコミ出身の方が、「マーケティングのプロと学者さんのコンビ」と言ったことでした。
このときは知りませんでしたが、広告業界では「プロモーション」を「マーケティング」と読んでおり、後にそれがかなり広く浸透していることに驚きました。

確かに1950年代、最盛期のアメリカで広告の役割が急激に高まり、大きな役割を果たすようになります。日本でも同様に、インターネットが普及する以前、特にバブル期までは、販売促進の手段として広告が大きな役割を果たします。テレビ業界などはこうした広告に対する巨額の投資によって成長し、大手広告代理店は、ある意味では自社のために、プロモーションの手法を「マーケティング」という表現で広めました。
このことは知ってはいましたが、デザインの世界と接するようになり、これほど広く浸透していることに驚きました。

もう1つ、同じような事例を挙げましょう。
これもデザインとの関わりで、プロダクトデザイナーの方と話していたときのことです。やはり同じような、違和感をかんじたのですが、この方はマーケティングの科目でいうと、「消費者テスト論」や「製品テスト論」で説明する内容を「マーケティング」と表現していました。

僕からすると、デザイナーの方の「どう作るか」という話の前に、企業として「何を作るか」という、広い視点でのマーケティングがあるわけですが、残念ながら理解して頂くのが困難でした。

・事例2 言葉の置き換え
先日、仕事を手伝ってくれている方に、今手掛けているブランディングについて報告しました。するとその方から、僕はブランディングの実務経験がないだろうという気遣いから、アドバイスを頂きました。

しかしここでも違和感を感じました。

これも広告、デザイン業に関わる話なのですが、「ブランディング」を「プロモーション」の意味で使っているということに気づきました。
もちろんブランディングにプロモーションは不可欠です。しかしブランディングとはブランドエクイティを確立する作業で、このための戦略の一部にプロモーションがあります。
そのため、この方の言う「ブランディング」は、僕から見るとやはり「プロモーション」でしかありません。

これと同様のことを、CIでもよく感じます。企業のマネジメント全体から見たとき、CIを実現するツールの1つがVIなので、CIの本質は、例えばマッキンゼーの7Sで言われる、ソフト面の構築を指します。しかし多くの場合、CI=VIになっていることに驚きました。

ここで挙げた例は、僕が体験したほんの1部の例だと思いますが、おそらく様々な側面で、これらのような事例があることでしょう。

実際に、本来の意味でのマーケティング部門を持っているのは、ほんの一握りの企業だけです。さらに言えば、マーケティング全体に関わっているのは、そうした企業の中でも、ほんの一部の人だけかと思います。

マーケティングはとても広い視点を持っています。仕事をしていて、マーケティングに関わっていないという人は、皆無と言ってもよいかもしれません。しかし実務面ではそれぞれの人が、目の前で直接関わる‘一部’の部分をマーケティングと呼び、多くの場合、それがマーケティングの全体のように捉えていることが多いようです。

しかし企業の大小に関わらず、全ての企業にとって、マーケティングは不可欠です。
そうなると特に中小企業では、経営者自身や、社員全員でマーケティングを考えなければなりません。このとき、狭い意味や特定の作業を指す「マーケティング」では、顧客満足を実現し、新たな市場を獲得することは困難です。

今僕がマーケティングを説明するときの表現、「‘誰の’ ‘どんな’笑顔が見たいのか、そのために‘何が’できるのかを考えて実現すること」という言葉は、実はこうした経験から出たものです。

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