経営課題の分類 誰がやるのか、どんな根拠でやるのか

企業の問題を扱ったり戦略を立てるとき、最初に注意することがあります。それはその問題や案件が、マネジメントや経営戦略のどの分類のものかを見定めることです。

多くの経営課題は、様々な問題にたいして横断的に関わっていることが少なくありません。特に中小・零細企業では経営者の方が全ての作業を行わなければならないことも多く、実は何の問題なのかが明確ではないことも少なくありません。
そこで今回は経営課題をマネジメントと経営戦略の分類から、僕が見た実例を例にして考えてみたいと思います。

1.経営課題の分類
さて実例を考える前に、まずはマネジメントと経営戦略の分類について考えたいと思います。

・マネジメントの分類
①トップマネジメント
②生産管理
③財務管理
④マーケティング管理
⑤人事・労務・労使関係
⑥組織管理
⑦情報管理

経営学の講義では、マネジメントを上記の7つに分けて説明しています。これはそれほど新しい考え方ではありませんし、他にも様々な視点があります。しかし実際の企業を見る時でも、僕はまずこれらのどの分野の課題であるかを見きわめます。

・経営戦略の分類
①企業戦略(全社戦略)
②事業戦略
③機能分野別戦略
 ⑴人事戦略
 ⑵財務戦略
 ⑶製造戦略
 ⑷マーケティング戦略
 ⑸研究開発戦略
 ⑹情報システム戦略
 ⑺その他

経営戦略についても講義ではマネジメントと同様に上記の分類について説明します。こちらも新しい考え方ではありませんが、やはりマネジメントと同様に基礎として考え、実際の企業戦略を考えるうえでも、この分類に従って考えます。

2.なぜ分類するのか
先にも記したように、企業の経営課題はこれらの分類に(その他の視点も含めて)横断的に関わっていることがほとんどです。しかも中小・零細企業では、経営者の方が全ての問題に直接関わらなければならないため、どこから手を付けてよいか解らないといったことが多いです。そのため実際に加行経営の支援を行う時も、相談内容がどの分野に関わる課題なのかを明確にしなければ、解決することができません。特に中小・零細企業では、この中からすぐに手を付けられる部分を見つけることが必要になります。

中小・零細企業の話をしていますが、これは大企業でも同じです。
例えば自動車業界では、190年代には、将来的な低公害車開発も含め、ガソリン、ディーゼル、ハイブリッド、充電式、燃料電池、天然ガスなど様々な動力が存在していましたが、世界中を見ても全ての動力を開発する能力(技術的、財務的など)を有する企業はありませんでした。燃料電池にしても、植物燃料を基盤として考えるヨーロッパと石油を基盤として考えるアメリカでは考え方が異なり、日本企業のこの2つに分かれました。
つまりマネジメントや戦略の分類から、自社の経営資源戦略と競争優位を考えて、電気自動車時代の市場とそれまでの製品戦略を考え、現在に至っています。

話が大きくなったので、身近な問題に戻しましょう。
実際の経営課題を考えるときはもっと切実な問題に直面します。中小・零細企業や個人店舗などでは、財務戦略などはほとんど不可能です。財務戦略が不可能ということは新たな技術や優秀な人材の確保、大規模なプロモーションといった資金を必要とする手は打てません。また仮に潤沢な資金があったとしても、やみくもに投入しても結果は得られませんから、やはり他の視点から考えます。

例えば飲食店の支援を行ったときは、ランチと夜の営業を分け、メニュー開発から行います。メニュー開発は一見マーケティング分野に見えますが、実はそれ以上に大きな問題があります。
例えば夜の営業が中心の飲食店の場合、昼間はスタッフに限りがあることが多く、多店舗を経営していても、応援の人員はあまり期待できませんから、まず人事の問題が立ちはだかります。加えて回転率を上げるためには、生産の問題を考えなければなりません。これらを考えたうえで市場の要求に応えられる価格を設定したメニューを開発するのはそれなりに難しい作業です。
実際に僕が大きな成果を出した店舗でも、まずランチ「営業」のマネジメントの後、メニュー開発を行いました。

またとある建材メーカーの営業部でマーケティングの講義の依頼を受けたことがあります。このとき営業部長はブランディングを考えていたようですが、まず営業部内で行ったチーム全員での分析から、情報管理・情報伝達に問題があると指摘し、商品学習の方法(人事分野)から提案を行い、情報管理、チームビルディング(組織分野)の改善を行いました。

これらの例のように、当事者の方が考えている問題を分析し、マネジメントや経営戦略の内容に分類したとき、実際の問題はそれまで考えていたものと異なることがほとんどです。

ではなぜ分類するのでしょうか。

第1の理由は5W2Hを明確にするためです。
いつ、だれが、どこで、何を、なぜ、どうやって、いくらで行うのかを明確にすることで、本来るべきことが見えてきます。
第2の理由はどの理論に従って行うかを明確にするためです。
問題の源泉が間違ったままだと、問題が起こった原因も間違えてしまいます。経営者の方からはよく品質や効率についての相談を受けますが、このとき実は教育や情報伝達、管理体制が不十分であることがよく見られます。しかし経営者の方からは真っ先に人材についての不満が出されることが多々あります。
これらの2つが明確になっていないと、どれほど資金を投入して、開発やブランディングを進めても、一向に効果はあがりません。

最後にこれについて、僕の失敗を1つ紹介したいと思います。
時々、「財務で全て解決」とか「教育で全てが変わる」「マーケティングが全て解決する」といった表現を聞きます。人によって違いますが、これには勿論、それぞれのビジネスの中心を伝えるための表現(コピー)として言葉にされる方もおられますし、そうでない方もおられます。
僕はこうした表現があまり好きではありません。実際にお会いしても、説明したような自社の事業を解りやすく説明する「コピー」でない方が少なくないからです。

少し前になりますが、ブランディングを得意とする企業の経営者の方が、僕を中心とする勉強会に参加して下さりました。この方から経営資源について質問を受けたとき、うまく答えることができませんでした。
(経営資源、コアコンピタンスと競争優位については、別の機会に記します。)この方の質問は、あらゆるものを経営資源と考えているが、それとマネジメントの分類はどう考えるのかというものでした。こうした質問を久しく受けていなかったことと、この方が広い視点を持っていることから、質問の意図をはかりかねたためです。

この時の質問はステークホルダーについての質問だったと記憶しているので、この視点から述べたいと思います。
特に中小・零細企業では、例えばあらゆる部門が顧客対応を行わなければなりません。しかし顧客対応であれば、CRM(Customer Relationship Management)の範囲として考える必要があります。取引関係であれば産業組織の理論で考えます。従業員であればHRM(human Resource Management)や組織の理論から考えます。全ての人の満足を実現することは当然なのですが、それぞれ適用する理論と組織が異なります。

このときは、質問の意図を深読みしすぎてしまいましたが、実はそれほど難しい話ではありませんでした。

これはマネジメントだけの考え方ではありません。まずは問題を分類することが必要になります。


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