【いってんもの・一点物】




「一点物は出会いだから。」 

その日、1番の青空


悩んだ瞬間に,即決へと変わる言葉が、
僕の背中を蹴っ飛ばす。


これは,年末年始を使って,沖縄のやちむんの工房さんを回っていた時の事だ。



「やちむん」とは、琉球ガラスと共に、沖縄の伝統的な食器で、「焼き物」が「やちむん」となり、そう呼ばれている。昔ながらの柄を描いたり、沖縄の美しい海を1つの陶器に表現したりする。


手作業,手作りなので、形やサイズそれぞれに個性が出るのも魅力の一つで、一度それらに心を奪われると、もう好奇心は止められない。



先の言葉に、押された私は、迷う事なくそれを手に取っていた。


「青」になる釉薬(ゆうやく)が変化して波の様に重なる。まるで海そのもの。


美しい陶器達がところ狭しと並ぶ中で、一際大きなそれは、洗面台の器だ。一際大きいからこそ、その表情は広大で,深淵。まさに「海」を手にしているかの様な感覚。


初めから,洗面台の器を探しにきていたら、事前にサイズや取付手段を検討した上で,いろいろな選択肢を考えたのかも知れない。


そこに,直感の出会いはない。


しかし、今、ただ目の前にそれが、ある。


今手を離したら、2度と手に取る事はできないかも知れない、唯一無二の「一点物」だ。



【一期一会】


インストラクターさんは、この時期の潮の満ち引きを計算に入れてルートを計算する。


汽水域に生息するマングローブの森。


汽水域とは、河港。海と川の交わる所で、真水と塩水が混じる所。

潮が引けは、手足の様に伸びた根が姿を表すが、潮が満ちると、葉も半分潜って、頭だけ出してる感じに。


その森の姿は、水位によってだいぶ違う。





「これを見せたかったのです。」


と,最後にカヤックがたどり着いたのは、
水の引いた、マングローブの森に現れた、
一本の水の路。

ここをカヤックでゆっくり進んでいく。

マングローブの森・現れた一本の水路



この自然を守る為に、水の上を進むことしか許されない、歩いてこの地を踏むことの出来ない聖域を、僕たちはゆっくりと進んでいく。


「私は海が好きだ。水が好きだ。」


私の様に,自分で海好きを語る物は多いし、それで良い。

でも、この人は、それを人から、言われる人だ。


「あの子は海が好きだからね。」

と。


海を愛して、自然を愛して、地形や仕組みを把握して、その起こりを知って、畏れを持って接する者。



そんな人が、別れ際にぜひ行ってほしいと教えてくれた古宇利島の「さーたー家」さん。

「さーたー」は砂糖。

つまり、黒糖工場だ。


黒糖作りに飛び入り参加で体験させてもらう。


全て手作業で行われる工程は、一見単純だが根気のいる作業。


無心に手を動かし続ける息子に工場長さんが、

「黒糖作りは楽しいだろう。」と何度も言う。


「それを愛してるんだな」と心から思った。


「船のお姉さんが教えてくれなかったらここには来れなかったね。」


と黒糖を食べながら、何度も言う息子。

「一期一会。」だ。

船(カヤック)のお姉さんが「出来立てのまだ温かい黒糖は,サクサクしてて美味しいですよ。」と言っていた。


さーたー家さんのお姉さんが、「あの子は海も山も好きな子でね。ここもたまに、手伝いに来てくれるのよ。」と言っていた。


「一期一会」が無ければ,決して口にする事はなかった温かい黒糖。


そして、その日の黒糖は、


息子も手伝った「一点物」。




【選ぶ覚悟】


人は,決めてから考えるのか?
考えてから決めるのか?

ほとんどの場合、考えたって,やってみないと本当の「結果」は分からないし、その「結果」だって、時と共に見方は変わる。

一点物は,誰のものなのだろうか、一つしかないそれは,出会って目の前にいる間だけ選ぶチャンスがそこにある。

旅はそんな事を教えてくれる。



陸に上がって。


後輩からの珍しい電話。
彼はいつも律儀だから、電話がかかって来てたら掛け直す。


「家族の為に,待遇のいい会社を選ぼうと思います。」

と、始めた新たなる会社選び。


思い付いたから書いてみる単語。

「期間限定」
「大人の買い物」
「衝動買い」
「プライスレス」


「一点物」を類似ワードに置き換えようとした時。
どれも少しニュアンスが違う。


また、「いってんもの」と平仮名にかえると。
「言ってるもの。」みたいになり、

さらに横須賀の言葉で言うと、

「いってんじゃん」

意味は「言ったよね」

さらに、崩すと、、、、

「いってんべーよー」

とかになる。

何を言ってるか聞き取れないから、多分こんな感じと、地元の私も思う時もある。

そう言う喋りを聞くと、この人は育った土地を愛しているんだなって、思ったりする。


黒糖を作りながら「楽しいだろ」と言うその言葉を思い出して涙が出た。



選択して来た東京は、死ぬほど選択肢があって、
選択をやめていた、地元には進む一本の道がある。


その後輩の地元には「亀戸餃子」があって美味しいと言うので、今度行ってみたい。

そこでは、餃子2枚。何も言わずに出てくると。

「ご馳走様」の言葉をきくまで続く。


東京にも路はある。

マングローブの森の路の様に。


悩んで、選んで、ふむアクセルを。
その未来は,過去になるまで見えない現在。


それでも、あなたの選んだ路がみえてくる。

そんな、それぞれの「一点物」の生き方だ。






新年も明けまして、今年は1月7日が初日だったので、のんびりお休みをいただき、また新年のご挨拶も大変遅れてしまいました。

このブログをもって私のこれからの「日々精進」の思いとさせて頂きます。

本年もどうぞ宜しくお願い致します。

うるま陶器さんの一点物


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