サムネ01-

祝・復刊!キルケゴールの『反復』を読もう!!

みなさん、2/6に起こった大事件をご存じでしょうか…!!
なんと……………!!!
ついに…………………!!!!

キルケゴールの『反復』が復刊しました~~~~!!!!!!
やった~~!!ありがとう岩波文庫~~~!!!!大好き!!!

私は6年前に『反復』を読んでからというもの、この素晴らしい本がもっとたくさんの人に届いてほしい、ていうか新刊を買いたいという思いを募らせ、岩波文庫に念を送り続けていたのでマジでうれしかったです。とりあえず3冊買いました。

というわけで今回は復刊を記念して『反復』のオススメポイントをご紹介していきますよ~~!!!!


オススメポイント① 愛の理想が高すぎてこじらせた男の苦悩が最高

『反復』は実存主義の先駆として知られるキルケゴールが書いた恋愛小説風の哲学書で、「反復は可能か?」という問いをめぐって二つのエピソードが取り上げられています。そのうちの一つがとある詩人気質の青年の不幸な恋愛物語なんですが、これがもう~~~~~~~~~最高なんですよ~~~~~!!!

特筆すべきは、キルケゴールの詩人的才能をいかんなく発揮して描かれる青年の愛と苦悩!!青年が初恋の感激に打ち震える様子や、恋人を愛するがゆえに自らの不誠実に苦しむ姿、苦悶しながら失った愛の復活(反復)を待ち望むが美しく描き出されていて、ほんと、まじで、最高なんですよ。

たとえば、このシーンを見てください。

(…)青年は深い、熱烈な、美しい、謙虚な恋に落ちていた。(…)彼の恋は健康であった、純粋だった、汚れていなかった。彼は愛すべき率直さをもって、わたしのところへやってきたのは、差し向かいで自分自身と声を出して語ることのできる心の置けない相手がほしかったからだということ、とりわけ、一日じゅう彼女につきまとっていては彼女にうるさがられはしないかと心配だったからだということを、わたしにうちあけた。彼はすでに幾度も彼女の住居まで出かけてみたが、しいて自分を抑えて引き返してきたのであった。(p.15-16)

これは恋する青年が、その友人であり本書の仮名著者(※1)であるコンスタンティン・コンスタンティウスの元を訪れる場面なのですが、見てくださいよこの青年から溢れでる恋の喜びを! 愛の歓喜に打ち震えていてもたってもいられないけど、だからといって彼女にベッタリしてたら迷惑だから、親友のコンスタンティンさん、どうか僕の話し相手になってくれませんか?と全身から幸せオーラを発しながらやってくる純粋で美しい青年、愛さずにはいられないでしょ。

そんな青年が抱える苦悩もまた、不幸な愛の果てに失踪した青年がコンスタンティンに送った手紙の中に鮮明に描き出されています。こちらのセリフを見てください。

ぼくの忘れがたい恩人、しいたげられたヨブよ! ぼくもあなたの社会(なかま)に加わってよいでしょうか、あなたの声を聞くことを許してくれますか。ぼくを退けないでください、ぼくはいつわってあなたの炉のほとりに立つのではありません、よしぼくがただあなたとともに泣きぬれることしかできないとしても、ぼくの涙は空涙ではありません。喜べるものは、たとえ彼を心から喜ばすものは枯れみずからのうちに住む喜びであるにしても、その喜びを求め、それにあずかろうとするように、悩める者は悩みを求めます。…(p.141)

ここで青年は、神の試練を受けて全てを失ったヨブの苦しみの中に、自身の孤独な苦しみの慰めを見出そうとしています。「ぼくを退けないでください」と共に苦しむ仲間を得ようと懇願し、ただ泣きぬれることしかできないほど打ちひしがれ苦しんでいる哀れな青年…………やはり愛さずにはいられませんね。

このほかにも、『反復』には心を打つ描写がたくさんあるので、純粋で不幸な青年の切実な感情を体感したい人はぜひ買って読んでください。コンスタンティンの青年への共感や人生へのアイロニカルな悲しみも見どころです。

※1 キルケゴールは多くの著作を仮名(ペンネーム)で出版していますが、実はこの仮名にはそれぞれキャラクター設定があり、キルケゴール本人とは関係のない一人の人間だというテイになっています。めっちゃくちゃややこしい著作スタイルですけど、個性豊かな仮名著者はキャラとしてすごい魅力的なんですよ!!!私はこの仮名たちがほんとに好きなんですけど、ここ語るとマジで終わらなくなるので割愛します。

オススメポイント② 哲学書っぽくないけど、キルケゴールの思想のエッセンスが詰まっている

『反復』は青年の不幸な恋物語を中心に話が進むので、全体としては恋愛小説風になっており、キルケゴールの著作の中でもかなり読みやすい部類に入ります。にもかかわらず、キルケゴール思想で重要な概念もしっかり登場していて、哲学的に思想を深めていくこともできるのが『反復』のいいところ!

そもそもタイトルになっている「反復」は、「信仰において反復がはじまる」(『不安の概念』,岩波文庫,p.29)と言われるほどに、キルケゴールの考える宗教的な生き方(実存)と密接にかかわっています。さらに『反復』の序盤(p.7-12)で語られる「反復」と「想起」の対比は、キルケゴールの別の著作『哲学的断片』でも真理と人間の関係という側面から再び考察されています。他にも、試練、詩人、例外者といったキーワードが随所に出てくるので、キルケゴール思想がどんなものか、大体の雰囲気を掴むことが出来ます。

恋愛小説を気軽に楽しみつつ、「おや?」と思ったところはじっくり読んで思考を巡らせることの出来るという、まさに一石二鳥な一冊! 専門用語が少ない上に具体例が豊富なので「難しい単語がたくさん出てきて全然ついていけない~!」ということもあまりない親切設計です。(ストーリー構成だけはやや複雑ですが、この記事の最後でその辺は説明するので大丈夫!)

オススメポイント③ キルケゴールの婚約破棄事件の謎を垣間見れる

キルケゴールが自ら申し出た婚約を何故かたった一年で破棄してしまった大事件については、みなさんも倫理の資料集や教科書なんかで読んだことがあるのではないでしょうか。『反復』は、そんな謎多き婚約破棄事件の真相を婚約者・レギーネに向けてこっそり伝えるために書かれた本でもあるので、青年の恋物語を通して、キルケゴールの生涯随一の大事件の謎に触れることが出来ます。(とはいえ、フィクションを混ぜて結局真相を隠してしまっているあたりに、キルケゴールのめんどくささが表れてはいるのですが)(でも、そんなところが好き!!!!)

巻末の訳者あとがきでも婚約破棄事件が丁寧に解説されているので、「キルケゴールの思想より生涯に興味があるんだよな~」という方も十分お楽しみいただけます。解説には、初学者にはアクセスしにくいキルケゴールの日記から多く引用されているのもありがたいですね。

オススメポイント④ コンスタンティンと青年の関係性がヤバイ

これは一部のオタク向けのオススメポイントなのですが、著者コンスタンティンと悩める青年の不思議な関係性もかなり見どころです。

コンスタンティンは観察者として青年の恋の行く末を冷静に観察するんですけど、一方で青年に深く同情したり彼を苦しめている恋人の存在に憤ったりしていて、なんやかんや友人を大切に思っているところがすごく魅力的なんですよね。青年の方も、唯一の相談相手であるコンスタンティンに自身の思いや悩みを打ち明ける一方で、自分が苦しむ姿を前にあまりにも冷静なコンスタンティンに対して激しい感情をぶつけることもあって、これがまた良いんですよ。というわけで、こちらのセリフを見てください。

あなたの冷静さはまことに恐るべきものです。それを思っただけで、ぼくの血はわきたちます。それなのに、ぼくはあなたから離れることができません。ふしぎな力であなたはぼくをあなたに縛り付けておられるのです。あなたと話していると、なんともいえない心のやわらぎと快さを感じるのです。(…)ですから、心のなかを吐き出して、たまっているものを洗いざらいさらけ出してしまうと、それで心は慰められはするのですが、すると不意に、あなたの平然とした顔つきが見えてきて、(…)今度はたまらなく不安になるのです。(p.119-120)
悲しいかな! 悩める者は自分の悩みに少し嫉妬深いものです。彼は自分の秘密を打ち明ける相手にもその悩みの重さと意味をしみじみ感じてほしいと思うものです。あなたはこの期待を裏切りはなさらないでしょう、(…)しかし次の瞬間には(…)あらゆることに通じておられるその優越性に面して、ぼくは絶望に陥ってしまいます。もしぼくがあらゆる人間の上に君臨する独裁者であったら、そしたら、お気の毒なことですが、ぼくはあなたをぼくひとりだけのものにするように、あなたを僕と一緒に檻の中に閉じ込めてしまうことでしょう。(p.121)

悩みを分かち持ってもらうことを望みながらも、悩める自分を冷静に観察されていることへの不安を感じてしまうという相反する感情。そして、自らの慰めのために自分と同じようにコンスタンティンにも苦しんでほしいと願わずには言われないほどの、苦悩の孤独。青年からコンスタンティンに送られてくる手紙は、こういうデカい感情がじゃんじゃん出てくるので本当にオススメです。

ちなみに、コンスタンティンと青年はそれぞれが苦悩における分別(理性)と感情の役割を担っており、『人生行路の諸段階』の「汝責めありや、責めなしや?」ではこの二人の要素が統一された人物が現れます。つまり、コンスタンティンと青年君は実際は二人で一つで、キルケゴールにありがちな精神の分裂を二人の人格の関係性という形で表現しているってこと~~!?(オタクリーディング) 

いや~~~最高ですね。これは読まずにいられない。今すぐポチろう。税込み990円。詳細は下のページから。


キルケゴール研究者もそうでない人も「『反復』はいいぞ…」と言うほどの名作、復刊して手に取りやすい今こそ、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか? 短くて読みやすいので!ぜひ!!!読んでください!!!お願いします!!!!!



おまけ:忙しい人のための『反復』飛ばし読みガイド

さて皆さん、無事『反復』を手に入れましたか?

上で長々と紹介したように、恋愛小説、哲学書、伝記という様々な側面から楽しめる『反復』ですが、唯一の難点は構成が複雑なこと。青年の恋物語とコンスタンティンのベルリン旅行記という二つのエピソードを行ったり来たりする上に、オチも謎なので(これは仕様ですが)、初見はちょっと混乱するかもしれません。というか、ベルリン旅行記で中だるみして挫折してしまうことが予想されます。それは困る。その辺はおまけで、本編はもっと読みやすくて最高なんだ。

というわけで、構成を把握できるように目次を作成しました!!飛ばし読みの参考にしてください!!
(え?飛ばして読んでもいいの?と思った人、良いんです。その理由についてはコチラの記事をご覧ください)

『反復』目次
p.7-12 プロローグ
:問題提起「反復は可能か?」、追憶の恋と反復の恋 
p.12-40 青年の不幸な恋(回想編):追憶の恋が不幸だという例。コンスタンティンと青年の出会い~青年の失踪まで
p.40-47 幕間:その他の反復の実例
p.47-54 コンスタンティンのベルリン旅行①:反復が可能か確かめるため前回と同じ宿に泊まってみるの段
p.54-83 コンスタンティンのベルリン旅行(回想編):劇場での思い出、および笑劇や喜劇役者に関する論考【中だるみポイント】
p.83-99 コンスタンティンのベルリン旅行②:思い出を頼りに劇場に行ってみたけど反復できなかった!この世に反復なんてないんだ~!
p.100-118 青年の不幸な恋①反復の本編スタート(実際タイトルもここにある)。コンスタンティンの元に青年から手紙が届き、コンスタンティンは青年について考える。
p.119-173 青年の不幸な恋②:青年から届いた手紙1~6。私のお気に入りは1,3通目です。
p.174-181 青年の不幸な恋③:6通目以降しばらく間が空き、青年の元恋人が再婚した後、7通目が届く。コンスタンティンは青年の手紙にあきれる。
p.182-186 青年の不幸な恋④:7通目の手紙。「ぼくは再びぼく自身です!」と青年は反復を喜ぶ手紙で、この物語は終わる。
p.189-202 エピローグ:この本の真の読者(=レギーネ)へのメッセージ

忙しい人はコンスタンティンのベルリン旅行パートをスキップするのがおすすめです。この話はもともと青年の恋物語を補強するために語られているいわば補足的なものなので、飛ばしてもあんまり問題ありません。特に、劇場の楽しかった思い出を語るパートは割と脱線しているので、興味なければスキップ推奨です。いうてもしかすると何かのヒントかもしれませんが…いずれにしても上級者向けなので後で読めばいいと思います。

とにかく、途中で挫折せずに119p目まで来てほしい。そのあとは手紙なので、苦しみを熱烈に歌い上げる美しい文章が続いてアッという間に読めます。私はこのパートの全てが大好きなので本当に読んでくださいお願いします


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