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逆らえない運命

『秒速5センチメートル』を初めて観たのは、大学1年生のときでした。

あまりにも有名な作品ですよね。それまで『ほしのこえ』、『雲のむこう、約束の場所』とSFをテーマに描いていた新海誠監督が、初めて手掛けた日常作品だそうです。

近年大ヒットを遂げた『君の名は。』に然り、新海監督は物語の中で男女を引き裂くことで「愛の形」を模索し続けているように思えるのですが、本作でも主人公とヒロインは、離れて暮らすことを強いられます。

距離や時空、登場人物が背負った宿命と、監督の描く作品たちにはすべて「逆らえない運命」のようなものが根底にある気がしてなりません。

鑑賞当時19才だった私は、プライベートで色々あったこともあり、主人公の気持ちに共感しながらこの映画を観ました。今思えば若く幼かった、色々と思い出して恥ずかしくなります。

序盤、栃木へ引っ越したヒロイン・明里に会うために、主人公・貴樹が夜中の電車を乗り継いでいくシーンがあるのですが、雪のせいで電車が止まってしまいます。

時間だけがいたずらに過ぎていき、待たせる方は罪悪感を、待つ方は不安を感じる非常にもどかしい場面でした。携帯電話ひとつで繋がれてしまう現代では、もはや皆無の悩みかもしれませんね。最終的には会えたふたりですが、簡単に連絡を取れなかったぶん、再会の感動はひとしおでした。

また、貴樹が初めて降りた駅のホームで、立ち食いそばを食べているサラリーマンを一瞥したシーンも印象的です。初めて訪れる街ってとても新鮮で、新しい世界へ来たような気分になりますが、生活をしている人を見ると、ここにも普通の日常があるのだと気づかされます。そんな妙な気分を、サラリーマンへの一瞥で表現している...そんな気がしました。

そして何よりも素晴らしいのは、映像美術の美しさです。空や光の描き方はもちろん、電車や改札、コンビニや自転車置き場など、生活の片隅にある何でもないようなものを、劇中では美しく描いています。

主人公とヒロインは、出会った日から互いを深く思いやっていました。

しかし、「この恋がすべて」と信じていた気持ちは、別々の道を歩むことによって自然と薄れ、また別の誰かへの愛へと変わっていきます。そんな仕方のない現実を、『秒速5センチメートル』はじっくりと見せてくれました。

理想的なハッピーエンドで幕を閉じた『君の名は。』とは異なり、『秒速5センチメートル』のラストは容赦が無く、決して万人受けではありません。

美しく変化していく劇中の四季と、交わることのないふたりの運命。切ない終わり方は、誰もが持つ忘れられない恋の思い出をチクリと思い起こさせます。愚かで真っ直ぐで、恋に恋していたような青春時代。こんな終わり方もあるよね、と大人になった今なら納得できる、そんなラブストーリーでした。

『秒速5センチメートル』に然り、それ以前の過去作に然り、新海監督の作品は必ずしも幸せな結末を迎えていません。『君の名は。』以降は大衆ウケを意識して、無理にハッピーエンドにしているのかな...なんて考えたこともありますが、最近の作品は希望があって良いなと思います。

会社員時代、帰宅後ひたすらアニメ映画の制作に没頭し、6時に起きて出社していたという新海監督。

彼をそこまで没頭させた映画作りは、作品の根底にあるテーマと同じく、監督にとって「逆らえない運命」のひとつだったのではないでしょうか。

一鑑賞者として、そんなことを思うのです。


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中国吉林省出身 日本育ち | 英米文学部卒 | 編集ライターや翻訳の仕事をしています。

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