【やりたいことの見つけ方】27歳の塩職人が完全天日塩作りに魅せられたきっかけ(田野屋銀象・後編)| SAYULOG meets JAPAN #006 高知編
まず、伝えたいのは、今回の動画は特に、これからの進路に悩む学生さんや若い人たちだけでなく、子供や大人、自分のやりたいことがわからない人にもぜひ観ていただきたいということ。
この記事をご覧いただいている読者の方々の年齢や職業、環境はおそらく様々だと思う。けれど、前回と今回の田野屋銀象さんの動画(前後編)を観終わった後、誰もがきっとご自身の中で感じる何かがあるはずだと私は信じている。
そして、その「感じた何か」は、ちょっぴりやさしい気持ちになれたり、前向きになれるような、自分の心に響くものなのではないかと。
◆完全天日塩職人、田野屋銀象(前編)
完全天日塩の製塩ハウスへお邪魔して、塩作りに使う海水の取水から塩作りの工程までをレポ!
田野屋銀象(たのやぎんぞう Ginzo Tanoya)氏、27歳。完全天日塩のオーダーメイドや、塩の作り分けの第一人者として世界中の一流シェフ達からもリスペクトされている田野屋塩二郎(たのやえんじろう Enjiro Tanoya)氏を師匠にもつ彼は、独立し、高知県土佐市の海岸沿いでいままさに自身の製塩ハウスを始めたところである。
「やりたいことの見つけ方」って難しい
最近話題のベストセラーに「やりたいことの見つけ方」という書籍がある。昔と比べて、人の生き方も多様化し、世の中に選択肢が溢れすぎていたり、それとは引き換えにどうしても人の顔色を伺ってしまったり、みんなと同じ道を選ぶ安心感を手放せなかったり、そもそも自分にやりたいことがなくて焦ってしまったり。
この本が売れに売れている、ということは、それだけ今の日本には「やりたいことをどうやって見つけたらいいのかわからない」ともがいている人たちが多いということだ。
こうした書籍を読めばおそらく、あなたにとっての「やりたいこと」を見つけるための何らかのヒントも載っているだろう。
でも、「やりたいことの見つけ方」って、本当にそうだろうか。
本で学ぶ以外にも、何かヒントになることはあるのではないだろうか。
自分のやりたいことなんてよくわからない、でも、何か些細なきっかけが、後の「やりたいこと」へ導いてくれるかもしれない。
今回の記事&YouTube動画は、高知県出身のあるひとり男性が「やりたいこと」と出会ったきっかけにまつわるストーリーである。
ただ、好きなことと実直に向き合う
私が今回、田野屋銀象さん(以下:銀象さん)の取材で感じたことは、彼は嘘偽りなく、本当に塩作りを愛しているんだということ。
手前味噌な話で恐縮だが、銀象さんと同じ年くらいの頃の私は、会社員をしながらミュージシャンをしていた。音楽で食べて行くのは難しかったので、自身のバンド活動をしながら、時折、音楽の仕事もしながら、平日日中はシステムエンジニアやWebディレクターとして会社員をしていた。
その頃の私は、音楽が大好きだった。
けれど、同時に、思うような音楽を生み出せない、思ったように歌で表現できないジレンマに、大好きな音楽を嫌いになった時期もあった。
好きだけど嫌い、嫌いだけど好き、といったように。
でも、銀象さんからはそういったことが全く感じられない。むしろ、塩が好きで好きで仕方ない、といった感情が溢れすぎている。真っ直ぐ塩と向き合い、またその塩もそれがわかっているようで、塩に懐かれ(ているように私には見えてしかたなかった)、その姿はまさに塩と相思相愛。
これだけ好きなことをただただ好きと突き進める人って、そうなかなか出会えない。この世の中に「好きなことをしている人」というカテゴリには、多くの人が存在しているだろう。けれど、本当に好きなことをし続けてると嫌いになる瞬間もある、っていう話は、私だけの話でなく、そこそこよく耳にする話である。
撮影中に「これ建てるの、結構お金かかるんですよね(笑)」なんて言いながら、「でも、絶対にここで塩作りをしたい、って思って」とはにかんだ笑みを浮かべる銀象さんは、塩職人もとい、塩王子である。お塩にとっては、毎日毎日数ヶ月間、愛情をたっぷりかけて育ててくれるこんな職人さんに「おいしいお塩にしてもらえる」なんて、この上ない幸せなのではないだろうか。
高知にはこんなに素晴らしい若者がいるのですか。
高知県さん、どうなってるんですか。
高知県の株が私の中で急上昇し続けている。
人生は毎日が選択の連続
この「SAYULOG meets JAPAN」では、撮影中に8割型は現場で尋ねていることがある。
「なぜ、あなたはそれをやろうと思ったのですか」
「きっかけは何だったんですか」
この質問は、正直、この企画のためだけではない。
むしろ、私自身が個人的にこのトピックにとてつもなく興味がある。
なぜこの人は、人生において、いまこの場所で、これをやっているんだろう。人生には日々、朝ごはんは何を食べようとか、今日はどんな服を着ようとか、そういった一見どうでもよく見えるようなことから、人生のビッグイベントと呼ばれるようなことまで、数え切れないほどのいくつもの些細な出会いと選択が溢れている。その中で、なぜ、この選択に行き着いたのだろう。私の頭の構造は、シンプルに、そういうことに惹かれるようにできているらしい。
また、私がそれをYouTubeやSNSで発信することで、私だけがその情報を独り占めすることなく、同じように迷ったり悩んだり行き詰まったりしている人たちの、何かの気づきやきっかけになればうれしいと思い、この企画を始めたのだ。
なぜ、塩職人に?
今回、銀象さんに聞いてみた。
「なぜ、塩職人になったんですか?」と。
完全天日塩作りの環境は「日本一過酷な職場」という称号を与えられ、取材されたことがあるほどに厳しい。夏のビニールハウスは70℃を超える室温で、彼ら塩職人の体感温度は100℃を超えるという。その上、365日、日照時間の長い夏の時期は、朝は6時前から夜は18時半頃まで、毎日欠かすことなく1〜2時間おきに塩を混ぜ、触ってやらなければならない。
まさに「手塩にかけて育てる*」とはこのこと。
*自ら面倒を見ること、の例えであって、たまたま「手塩」を使っていますが「手塩にかけて育てる」の由来は塩作りとは関係ないそうです。でも、銀象さんの塩作りはまさに「手塩にかけて」という言葉がピッタリなんだよなぁ。
塩は生き物。少しでも手を抜いてしまえば状態が悪くなってしまう。
お世辞にも決して楽な仕事とは言えない完全天日塩職人。
それなのに、銀象さんはなぜこの道に進んだのか。
ラブストーリーは突然に
銀象さんには姉がいる。銀象さんが高校生の頃、銀象さんのお姉さんは地元のおみやげ屋さんで働いていたらしいのだが、ちょうどそこに自身の商品である塩をおろしていた、銀象さんの師匠・田野屋塩二郎さんが、お姉さんを塩職人にスカウトしたそう。
塩をおろすため、おみやげ屋さんに顔を出していた師匠曰く、「シャイで内向的な彼女の性格は、塩と向き合い会話する塩職人に向いている」というのだ。その後、銀象さんの姉は師匠・塩二郎さんの下に一番弟子として弟子入りし、いまでは塩二郎さんの塩の管理を任され、塩二郎さんの塩を触ることを許された唯一のお弟子さんだという。人生何が起こるか本当にわからない。
銀象さんが完全天日塩作りの現場と関わるきっかけになったのは、彼が高校生の夏休みのこと。
「夏休みだし、アルバイトしたいなぁ・・・」
そんな、どこにでもよくある理由で、夏休みの間、当時お姉さんが弟子入りしていた塩二郎さんの下でアルバイトをさせてもらうことに。高校生の銀象さんはその夏、塩二郎さんの「完全天日塩作りの世界」と恋に落ちてしまった。
夏休みが終わればもちろん、学校が始まる。銀象さんはまた高校生活に戻るが、この夏に味わった塩作りの楽しさが忘れられず、その後、長期休暇の度に、また師匠の下でアルバイトをさせてもらい、塩作りと触れていくこととなる。
この後、動画では、高校卒業から大学へ進学される話に及ぶのだが、私が興味を惹かれたのは、当時の銀象さんが高校卒業と同時にすぐ弟子入りをせず、「一度外の世界を見てみたい」と大学進学を決めてから、その後に塩作りの世界へ弟子入りしたところだ。
「やりたいこと」がなんとなく見えると、すぐにそれをやろうとしたがる人もいる。私自身がまさにそういう人間なのだが(たぶんちょっとせっかちなのかもしれない)、「思い立ったら即行動」タイプの人間、である。
高校卒業と同時に塩作りを始める選択もできたであろうに、ここで銀象さんの思いが「外の世界を見てみたい」となったところで、そのままこの道に進んでいたら得られなかった経験や、その後の将来に大きく関わる「パートナー」とも出会えなかったであろう。
そうした落ち着いた決断が功を奏した部分も大きいのではないだろうか、と私は個人的に感じた。「即行動」が得意な私は、成功もしてきたが、同時にそれ以上に失敗も重ねてきた。それゆえに、そうした落ち着いた決断をしながら、着々と導かれるように、塩作りへとご自身の道を切り拓かれた銀象さんを心から尊敬している。
師匠による姉のスカウト、夏休みのアルバイト、大学進学、というこれらの一見偶然に見える必然の点と点が、動画後半のある人の登場にかけて線として繋がっていくので、記事はこの辺で。
こういう素敵なお話が聞けるから、YouTuberは楽しい。
こういう人たちと出会えるから、私はいまの仕事が楽しい。
銀象さんにとっての塩作りは、私にとっての動画作りと同じなのかもしれない。
◆完全天日塩職人、田野屋銀象(後編)はこちら
【追記】動画をご覧になった銀象さんが改めて教えてくれた「なぜ塩作りを?」の答え
(追記 2021/03/28 0:13)
後編を観終えてくださった銀象さんからご連絡がありました。
そこには「なぜ塩作りを?」について、銀象さんからの素敵な答えが書かれており、その内容に感動のため息。
(感動しすぎると人ってため息がもれるんですね。何なんでしょう、この感覚・・・すごい!)
「これは私だけが知っているのはもったいない、みなさんともぜひシェアさせていただきたい」と、ご本人の承諾を得た上で、以下公開させていただきます。
「なぜ塩作りを?」という質問に対しての答えですが、
改めて答えさせていただきたいです。
僕の中で辿り着いた答えは「塩に選ばれたから」です。
最初はただただ好きという気持ちだけで突っ走っていただけです。
ただ自分のやりたいと確信したことに対して、自分の全てを注ぐ。
リスクをおそれない。
ということを続けてきただけで、それが苦にならない。
狂おしい程楽しくて仕方がない程惹きつけられたことが
僕の塩作りをする理由、「塩に選ばれた」ということだと思います。
「好きなことを仕事にする」ってなぜか反対されがちですが、
まず好きだからやってみる。
一歩踏み込んでみる。
というのは、もっと当たり前のことになって欲しいです。
(田野屋銀象さんよりいただいたメッセージから一部抜粋)
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