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小説「ドルチェ・ヴィータ」(全11話)

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──私の首筋を熱い舌が舐める。くすぐったくて、身悶えする。ざらざらとしたその舌は……ん? ざらざら?  不倫の恋をひとつ清算したばかりの祥穂は、ひょんなことから言葉を話す白猫・…
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小説「ドルチェ・ヴィータ」第11話(最終話)

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第11話(最終話)



 東京タワーに電話してみると、他のお客様にご迷惑をかけなければ……ということだったので、私はAmazonでケージを購入した。平泉さんと相談して

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小説「ドルチェ・ヴィータ」第10話(全11話)

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第10話



「そんなことがあったんですね」
「やせ我慢して、いい女ぶって帰ってきちゃった」

 私は缶ビールを片手にからからと笑う。平泉さんは久しぶりにテーブルの上に乗っている。私が無理を

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小説「ドルチェ・ヴィータ」第9話(全11話)

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第9話



 駅を出ると木枯らしが吹いたので、私は開けていたコートのボタンを慌てて閉める。冬がもうそこまでやって来ているのだ。一年ってなんて早いんだろう、思い返してため息をひとつつく。この一年、いや正確にはこ

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小説「ドルチェ・ヴィータ」第8話(全11話)

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第8話



「祥穂さん? 祥穂さん……?」
「……あ、ごめん、ぼーっとしちゃってた」
「大丈夫ですか?」

 平泉さんが心配そうに、山吹色の大きな瞳で私を見上げる。

「どうして?」
「だって、このところずっと、祥穂さん、ぼうっ

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小説「ドルチェ・ヴィータ」第7話(全11話)

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第7話



 季節は巡って、いつの間にやらすっかり夏になってしまった。今夜は取引先の式場での納涼会だったのだが、若いスタッフさん達の選曲や演出に少し疲れてしまって、地元の駅に着くまでにはくたくたになってしまった。いくら納涼会とは言っても、やっぱり仕

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小説「ドルチェ・ヴィータ」第6話(全11話)

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第6話



 私の額をざらざらとした舌が舐める。熱の気怠さの中でうとうとしていた私は、うっすらと目を開ける。

「祥穂さん、うなされてましたよ。ポカリ飲まないと」
「ありがと」

 ──そうか、夢だったか。何度もリプライズで思い出してしまうなんて、案外私の記憶力も馬鹿に

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小説「ドルチェ・ヴィータ」第5話(全11話)

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第5話



『祥穂さん、こんにちは。今夜もしお時間ありましたら、北三日月町駅前のワインバルに行きませんか?お店のURLはこちらです』

 昼休みにスマホを確認すると、尚司くんからのLINEが入っていた。いつものように地元集合ではあるものの、珍しいことにいつものラーメン屋、天馬家ではない。私

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小説「ドルチェ・ヴィータ」第4話(全11話)

小説「ドルチェ・ヴィータ」第4話(全11話)



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第4話



「祥穂さん、今年花見行きましたか」
「ううん、暇がなくって。尚司くんは?」
「俺も全然。でも仕事で桜だけはたくさん見ました」
「それを人は花見と呼ぶんじゃないの?」
「いやー、違いますよ。花見って言ったらこう、お弁当持って、ビール持って……じゃないですか」
「確かにね」

 駅前のラーメン屋、い

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小説「ドルチェ・ヴィータ」第3話(全11話)

小説「ドルチェ・ヴィータ」第3話(全11話)


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第3話



「ただいま……」

 話し込んですっかり遅くなってしまった。ドアを開けると、いつも出迎えてくれる平泉さんが出てこないので、私は少し寂しい気分になって電気を小さく点ける。平泉さんは、ソファーのクッションの上で丸まって、すやすやと規則正しい寝息を立てていた。私は安心して、ジャケットをハンガーにかける。やがて、気配に気付い

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小説「ドルチェ・ヴィータ」第2話(全11話)

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第2話



 その日の帰りはすっかり遅くなってしまった。私は平泉さんに留守電を吹き込んだ。

「祥穂です、遅くなってごめんなさい。結局長引いちゃいました。ハラペコなので、駅前でラーメン食べて帰ります」

 平泉さんは電話の応対はしないのだが、こうして声でメッセージを残しておくことで安心してくれる。なんだかんだで心配しながら待っていてくれるので、遅

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小説「ドルチェ・ヴィータ」第1話(全11話)

小説「ドルチェ・ヴィータ」第1話(全11話)



あらすじ



第1話



「……さちほさん、起きてくださいな……起きてくださいな、朝ですよ」

 細くて甘い声が私の耳元で囁く。寝返りを打つ。あと五分、五分でいいから。

「駄目ですよ、今朝は定例会議があると言っていたじゃないですか、先週もそんなこと言ってて遅刻したじゃないですか、ほら早く起きましょうよ、祥穂さん」

 私の首筋を熱い舌が舐める。くすぐったくて、身悶えする。ざらざらとし

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