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小説「弦月湯からこんにちは」(全15話)

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仕事も、住処も、すべてを失った。拾われた先は、銭湯だった。世界的なツァイトウイルスの流行によって、仕事も住処も失った山口壱子。ある朝、意を決して外に出た壱子が辿り着いたのは、ガウ…
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小説「弦月湯からこんにちは」第15話(最終話)

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これまでのお話

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第15話(最終話)



 10月のある晴れた定休日。いずみさんと暦くんと私の三

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小説「弦月湯からこんにちは」第14話(全15話)

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第14話



 9月になった。弦月湯での暦くんの個展「みんなの愛と生涯」が始まった。ツァイトウイルス

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小説「弦月湯からこんにちは」第13話(全15話)

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第13話



 暦くんの個展が始まる前日、久しぶりに獅子頭の男の夢を見た。そういえば獅子頭の夢を見る頻度が随分と少なくなっ

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小説「弦月湯からこんにちは」第12話(全15話)

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第12話



 弦月湯で個展を開きたい。暦くんがそう言ってきたのは、それからしばらくしてからのことだった。

「ねーちゃんからも承諾得てます。空

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小説「弦月湯からこんにちは」第11話(全15話)

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第11話



「壱子さん、ガリガリ君食べます?」
「……食べる」
「ちょっとひと休みしたほうがいいっすよ。それにしても暑いなあ」
「ちょっと、ここまで終わらせちゃうか

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小説「弦月湯からこんにちは」第10話(全15話)

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第10話



「壱子さん、ねーちゃん、まずは朝飯食いましょう。腹が減っては何とやらです」

 暦くんはそう言うと、ガスをつけて昨日の豚汁を温めはじめた。卵を三つ割って入れる。

「一汁一菜

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小説「弦月湯からこんにちは」第9話(全15話)

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第9話



「彫刻家としてスペインに国費留学していた祖父は、スペイン各地を回るうちにバルセロナでガウディの彫刻に出会いました。サグラダ・ファミリアは勿論なのですが、祖父が特に心惹かれたのがグエル公園でした。自然

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小説「弦月湯からこんにちは」第8話(全15話)

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第8話



 その夜、久しぶりに獅子頭の男の夢を見た。

 驚いたことに、いつもの白い部屋の中ではなかった。子供の頃に遊んだ公園で、獅子頭はブランコを漕いでいた。獅子頭の表情はわからないが、うっすらと微笑んでいるような空気を感じ

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小説「弦月湯からこんにちは」第7話(全15話)

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第7話



 暦くんが、立っている。

 紅茶色の髪をして、少年のような空気を身にまとった暦くんが、目の前にすっくと立っている。

 どういうこと? 現実を飲み込めない。私はマグカップを胸に抱えたまま、後ずさりした。水を飲んだばかりなのに、口がからか

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小説「弦月湯からこんにちは」第6話(全15話)

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第6話



「うちのお風呂、ご存じのとおりガウディへのオマージュで作られているでしょう。それもあって、私、大学はスペイン語科に進んだんです。学生時代にバルセロナに短期留学したこともあって、今もスペイン語の翻訳代行の仕事を続けているんです」

 いずみさんが、自分自身の

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小説「弦月湯からこんにちは」第5話(全15話)

小説「弦月湯からこんにちは」第5話(全15話)



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第5話



 ざしざし、ざし。ざしざし、ざし。鮮やかな緑色のデッキブラシで、花柄のタイルの床を磨き続ける。洗剤のミントの香りが、マスクを通じても感じられる。

「壱子さん、女湯の方はどうですか?」
「あと3割ってとこです」
「了解です、あと7分くらいで終わらせて、水流しちゃいましょう」

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小説「弦月湯からこんにちは」第4話(全15話)

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第4話



 弦月湯から帰ってきて、私はのろのろと片付けを始めた。とは言え、数年前にこんまりさんの本を読んで以来、ミニマリストに憧れるようになったので、もともと物は少ない。紺のパンツスーツが1着。季節を問わずに着られる白いシャツが5枚、カーディガンが2枚、ジーンズを含めたズボンが3本。スカートは昔から苦手で

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小説「弦月湯からこんにちは」第3話(全15話)

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第3話



「おはようございます」

擦りガラスの引き戸をからからと開けると、若い女性の声に迎えられた。てっきり、年配の男性が番台には座っているものと無意識のうちに思いこんでいたら、ベリーショートで丸い眼鏡をかけた小柄な女性が座っていた。驚きを顔に出さないように、番台に向かう。

「おひとり、520円です」
「はい……すみません

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小説「弦月湯からこんにちは」第2話(全15話)

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第2話



 久しぶりに外に出た私は、あてもなくふらふらと歩いた。足がまるで借り物のようだ。この2週間ほど、ずっとテレビの前で座りっぱなしだったから、筋肉も少し落ちたのかもしれない。すれ違う人はいない。普段ならこの時間は、駅に向かう人でいっぱいだったはずなのに。春の名残の葉桜の並木道を通りながら、私は知らない外国の町を歩いているような気がした。

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