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店長候補生◎パレット奮闘記 # 1

「ふぅ…。大体こんなものかな…!」

テーブルを拭き、額の汗を拭いながら店内を眺める。
珈琲と、微かに残るトーストやバニラの香り。
壁には、展示作品を飾るギャラリースペースがある。
今月は「お菓子×動物」をテーマにした作品展。
おいしそうでかわいい作品が数点並んでいる。


ここは、物語の世界にあるカフェ
カフェあめだま物語支店。
ちょうど今日の営業を終えて閉店作業も一段落したところだ。

カフェあめだまのベレー帽とサロンエプロンを取り、ノートを開く。

「よぉし、今日も書くぞー」

と、気合いを入れペンを取る、
金色の長い髪をひとつにまとめた、中性的な容姿のこの人物は、パレット。このお話の主人公である。

日付を書き、どう書こうかなぁ、とイタズラっぽい笑顔でノートに向かっている。

開かれたノートにはパレット奮闘記とタイトルが書いてあった。…なんとも短絡的なネーミングセンスである。

「おーい!パレット!こっちこーい!」

唐突に響く呼び声に
溜息を付き、唇を尖らせる

「なんだよー。折角やる気だったのに…はーい!今行きまーす!」

勢いよくペンを置き声のする方向に迎うと
ノートは風を受けて
ペラペラと最初のページを開いた

そこには
このお店にはじめてパレットが来た日の事が書いてある…


◆◆◆

店長候補生◎パレット奮闘記
# 1 『自分のお店』


「ここが、自分のお店かぁ…!」

キラキラと日の光を浴びて輝く金色の髪を犬のしっぽの様に揺らしながら
喜びで今にも踊り出しそうな気持ちでパレットは扉の前に立っていた。

今日はカフェあめだま物語支店の顔合わせの日、
オープニングスタッフ達とはじめて会うのだからと気合いを入れて
おろしたての靴と、お気に入りの服を用意して迎えた、この日。

はじめて見る「自分のお店」が
想像よりも輝いて見えた物だから
パレットは期待に胸を膨らませながら
扉に手を伸ばす

どんな、人達が居るのだろう
どんな、お店にしよう
ちゃんと挨拶できるのかな
ああ、緊張してきたぞ…

色んな気持ちを胸に納め
扉を開く

「おはようございます!自分はパレットと言います!この店の店長です!皆さんよろしくお願い致します!」

唐突にやって来た緊張に瞼を閉じて早口に挨拶をしたが…返事は無い。

「あれ…?」

と、やや拍子抜けした感じで目を開けると
まだ店内には灯りもついおらず
薄暗い状態だった。

不思議に思い、照明のスイッチを探すパレット。

灯りがつくと
机の木の香りと白い壁が鮮明になる

「時間間違えたかな…オーナーがいるって聞いて居たんだけど…。」

人間の世界にいるオーナーが
オープニングの顔合わせ企画してパレットに連絡してきたはずなのに姿が無い…
どういうことか首を傾げていると
扉が開く

「あった!あった!やっぱりここだね!」
「よかったよぉ、ぼくひとりじゃぜったいつかなかったよ。ありがとうねぇ」

「ぬいぐるみ…?」

そこには
ももいろのうさぎとみずいろのくまのぬいぐるみが立っていた。
別に物語の世界にぬぐるみが居るのは珍しい事ではない
ただ…少なくてもこの二体はオーナーでは無い事だけはわかる
人間の世界で飲食店で働くぬいぐるみはほとんど居ないのだから

「あら!こんにちは」
「だれだろぉ、きみもアルバイト??」

二体は、のんびりとした空気感で
パレットに声をかけた

「自分、ここの店長を任されたパレットって言います!」

「てんちょう?」
「すごいなぁ、えらいひとだ。まだわかいのに」

「いやいや、そんな事はないですよ、あはは…!」

満更じゃない様な照れ笑いをしているとふたりは自己紹介をはじめた

「アルバイトのうさぎのぬいぐるみです。」
「おなじく、くまのぬいぐるみだよ。」

二体はかわいらしく右手をあげた。

その様子をみてパレットは首を傾げて
「えっと…お名前は?」
と、続けた。
名前が分からないと今後困るからである。

「「なまえはまだない」」

「だから!うささんってよんで!よろしく!」
「ぼくはくまさんで、よろしくねぇ」

「名前がない…?」

そんな、夏目漱石の小説みたいな返しが来ると思って居なかった。
調子が狂うなぁ、と思ったけれど。

次の瞬間には
実にメルヘンチックなメンバーだ、
これは、この二体と自分のかわいさで人気店待ったナシだなぁ…等と都合のいい妄想がパレットの頭を支配した。


「あれぇ…なにこれ?」

くまさんがテーブルの上の何かに気が付く、その声で現実に戻り
そこにあったものを手に取る

「これ…?手紙かな?…なになに…」

『パレットさんへ。顔合わせの日なのに不在でごめんなさい。
オーナーのぴこです。
人間界での色々があって、今日本当は店長研修もやる予定だったのだけど。直接は厳しくなってしまいました。
なのでパレットさんにふたつ贈り物をします。』

オーナーからの置き手紙を読み終え
その贈り物とやらを探す。

「贈り物…?それに店長研修?言ってたっけそんなこと…」

本人はすっかり研修の事を忘れていた。
お調子者なのでついつい楽しい事で頭がいっぱいになるタイプなのだ。

普通に考えて見れば
お店をやった事がないのに
最初から店長は出来ない…。

「あれじゃない?!」

うささんが指したのは
まだ、何も飾られて居ないはずのギャラリースペースにあるガマ口のカバンだった。

「カバン???…うわ!」

パレットが手を触れた瞬間に
魔法の光が走る。

ー魔導マテリアルシステム起動シマス。人格覚醒中ー

お店全体を照らす閃光が治まると
ガマ口カバンには顔があった
片目に魔法陣が光っている。
実に、中二病心擽るナイスなデザイン。

「これは…?」

そのカバンに触れようと
パレットは手を伸ばす。

「気安く触んじゃねぇよ!この脳内お花畑ちゃんが!!」

「喋った?!」

ガマ口鞄は予想を遥かに超える口の汚さでパレットを罵った。

「オレサマは、オーナーからお前の指導を任されてやったんだ。今日からよろしくな。」

「え?指導?自分店長ですよね?!」

「ケッ…何言ってやがる、オレサマが認めるまでお前は店長候補生だぜ。ケケケ。」

意地悪く笑うその声に
パレットがさっきまで描いていた自分のお店像が粉々に崩れていく

「店長候補生?!そんな…ていうか指導するのがカバンって、どうして…!」

「おい、へこたれてないでさっさとオレサマを開けろよな!」

さっき気安く触るなと言った口で何を言っているんだろうか、立派なダブルスタンダードじゃないか
大丈夫か…大丈夫なのかこの指導員。
人間の世界だったら裁判で勝つのは自分だぞ…とか不穏な事を思いながらカバンを手に取り開けると

そこには「パレット奮闘記」と書いてあるノートが入っていた。

「パレット奮闘記…?何コレ…」

「お前なぁ、見ただけで分かったら苦労ねぇだろうが。まずは開いてみ!」

言われるままに開くと
またメモがあった。

『店長として気が付いた事を毎日このノートに自由に書いてね!
あと口は悪いけどこのガマ口は根は悪くないから!きっと大丈夫。仲良く一緒に最高だと思えるお店を作ろうね!
素敵な店長になってくれるのを楽しみにしています。
オーナーより
PS、君の奮闘が今から楽しみだよ!!』

グシャ…
思わず、メモを握り潰す。

「そんなの聞いてないよおお!」

虚しく響く、パレットの叫び。


ここから、店長候補生としてのパレットの日常が始まった。

負けるな、パレット。
自分のお店を手に入れるその日まで…

…まぁ、ここから色々あり
カフェあめだま物語支店は無事開店するのだけれど、
それはまた別のおはなし。

つづく

◆◆◆
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