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[小児科医ママが解説] 保湿✕科学的根拠【Vol.2】何を塗ったらいいか。お風呂で気をつけること。

前回は、保湿の効果が論文でどこまで示されているのか、塗る量や回数。そんなことについて書いてきました(記事:【Vol.1】保湿って本当に大事なの?塗る量や回数の目安。


今回はでは具体的には何を塗ったらいいのか。自宅で他にできることとして、お風呂で注意できることはあるか。論文や公式団体の見解をもとに、見ていきます。



赤ちゃんの肌にあっていて、親御さんも使用感が良いと思えば、それでOK。


まず、病院やクリニックでよく処方されるものを大きく分類すると、以下のようになります。

①皮膚の保「湿」
●ヘパリン類似物質:ヒルドイド
●尿素製剤:ケラチナミンコーワ、パスタロン、ウレパール

②皮膚の保「護」
●ワセリン、サンホワイト・プロペト(いずれも精製ワセリン)
●亜鉛華軟膏
●アズノール軟膏


乾燥していてしっかり保湿したい。赤ちゃんに保湿してあげたい。そんなときは、保「護」というよりは保「湿」の効果があるものが望ましいです。

一方で、かゆくてかきむしってしまった傷の部分に、保「湿」剤であるヒルドイドやウレパールなどを塗ると、ヒリヒリするなど刺激感があることがあります。
そんなときは保「護」剤であるワセリンなどが出番になる
こともあります。


また一般的には保「護」剤として知られるワセリンにも、実は抗菌作用や皮膚バリアを改善させる作用があるのでは、という報告もあります。
(J Allergy Clin Immunol 2016:137:1091-102.e1-7.)

上記の分類はあくまで教科書上のものであり、実際は色々な可能性を考えながら、医師が処方しています。


よく市販のローションや保湿剤を使っても良いですか?と聞かれることがあります。
市販のものでも、お子さんの肌にあえば、使って構いません。

尿素成分が入っているほうがいいのか、ローションあるいはクリームタイプがいいのかとか、色々なご相談をいただくことがありますが、ぶっちゃけて言うと「そのときのお子さんのお肌に合うもの & 親御さんが好きな使用感のものならOKです」という結論です。


どの保湿剤が特に優れているかは、特に日本で販売されている馴染みのあるものについては、信頼できる質と量のデータはありません。
尿素やセラミドなどの補助製剤が、どれくらい保湿に有効なのかも、実は強いエビデンスはありません。(Clin Exp Dermatol 2013;38:231-8;quiz8)


どの製剤がいいかにこだわるよりかは、とりあえずなるべく毎日・頻繁に塗り続けることが大事なので、使う人の好み・使用感を大切にしよう、という考えがあります。(Semin Cutan Med Surg 36:104-110)

また、香りが強いものや、特定の食品の成分が含まれたオイル(ココナッツオイルなど)は一般的には推奨されていません。
そうなると、いわゆるベビー用品としてのローションやオイルが無難なチョイスになるかと思います。


なお気温があがって暖かくなってきたら、皮脂や汗の分泌が盛んになるので、ローションタイプをおすすめすることが多いのですが、米国小児科学会もその見解のようです。


ちなみにステロイドが一緒に処方されているお子さんの場合で、保湿剤とステロイド、どっちを先に塗っていいのかという質問をいただくことも多いです。結論「保湿剤とステロイド、どっちから先に塗ってもいいです」


先にステロイド→あとに保湿剤、を推奨している公式見解もあるのですが
National Eczema Association)、実際にはどちらを先に塗っても効果には影響なかったという論文もあります。(Pediatr Dermatol 2016;33:160-4.)

塗りやすい順番で、処方された薬を忘れずに塗れれば、塗る順番は重要ではなさそうです。


風呂は短く・ふくのは優しく。毎日入らなくてもOKかも・・・だけどケースバイケース。


保湿剤のほかに、日常生活で気をつけられることの一つに、お風呂があります。

シャワー浴のイメージが強い海外ですが、もし湯船に使ったとしても「10分未満がおすすめ」というのが米国小児科学会の見解です。

お風呂に浸かること自体がわるいのではなく、つかりすぎると逆に、肌のバリア的に悪影響なんだよ、というニュアンスです。
Avoiding Dry Winter Skin in Babies and Toddlers

また米国小児科学会は、生後1年間のお風呂については「1週間に3回で十分」という見解です。それ以上の頻度で洗うと皮膚が乾燥するから、というのが一つの理由で、シャンプーも1~2週間に1回で良いんだとか。

結構、日本人の感覚からすると、え~少ない!という感じですよね。正直、とくに夏など、高温多湿の日本でこれがどこまで通用するかは微妙なところですが…。


実際にアトピー性皮膚炎のお子さんの場合は、やはり汗や汚れをしっかり落とすという意味でも、しっかりお風呂に入ったほうが良いという報告もあります。(J Allergy Clin Immunol Pract 2020;8:1014-21.)

一方でお風呂の回数には絶対のコンセンサス・エビデンスはないだろう(Ann Allergy Asthma Immunol 2016;117:9-13.)という見解もあり、一概にお風呂は絶対1日1回あるいは週に○回がいい!とは言えません。


ただしお風呂からあがったあとにこすらず、ぱっとするようにしてふき取ることで、皮膚のバリアを守ろうという見解は、複数で一致しています。
(①米国小児科学会 ②Semin Cutan Med Surg 36:104-110など)

また保湿「入浴剤」については有用なエビデンスはありません。
(BMJ 2018; 361:k1332.)


いかがでしょうか。

健診や外来でも「しっかり保湿してくださいね!」と言われる機会が多いと思うのですが、毎日バタバタとした育児の中で保湿するのって、結構面倒だったり・大変だったりしますよね。
もちろん、毎日・できれば1日2回・たっぷり保湿してくだされば、私たち小児科医としてもうれしいです。

でも、保湿できなかったわー。最近そういえば塗るの忘れてたわー。って日は、「保湿の効果って、アトピー性皮膚炎のリスクじゃない子には、はっきり証明されていなかったよね」「ヨーロッパだと最低週2回って書いてあったわ」とか、
自分に都合の良いとこを思い出して、ちょっとラクになるお助けができたら嬉しいです。


外来でも「私がちゃんと保湿していなかった・できていなかったから、この子尼湿疹がでたんでしょうか」とせめられる親御さんをたびたび見ます。そんなせめないで!っていつも思います。

ぶっちゃけ現実は、たとえ保湿していてもアトピー性皮膚炎になる子はなるし、食物アレルギーになる子もいます。人間の体ですからね、そんなもんです。

この回に限らず、私のnoteでは様々な論文などの医学的な根拠をお示しするようにはしていますが、それだけがすべてだとは思っていません。

ただ、親御さんがあふれるネット上の情報などから、納得して科学的に正しい情報にたどりつく・取捨選択する手助けになれば嬉しいです。

(この記事は、2023年1月28日に改訂しました。)

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