見出し画像

カノン

雨 降り始めた夜の11時
曇りガラスを開けずに見た月は
僕に今残った全部の歴史を
今さら摘み直させるんだ
暗闇に飽き飽きした僕は外の声に
ただじっと耳をすまして聞いてみたんだ

神様がいた窓越しの大きな光は
地平線の彼方から伸びる銀河鉄道の線路を
大きな楕円の螺旋状に連ねていた

汽笛を鳴らして何処かへ 連れられて行く君を
追いかけずにただ僕はじっと寝転ぶ夜だ
昔 願った僕の幸福主義を 踏みにじる夜を
知らないフリして 今更涙したんだ

化けて出てこいって願った夏の音
雨が打ち消して泣き寝入りした日の暮れ
何も語らずに降りてしまうのか
明けては忘れ繰り返した川の音
風が打ち消して蹲ったかの夢
煙の中の宙を進んだ

窓を開けて
焦れったい飛ばしたい焦りを遠くへ
すっとさっと放り出したい夜に
踊りたい叶えたい遊びをこの手に
ぎゅっとそっとしまい込みたいんだ

車窓からはるか遠くに見える景色は
夜の曇りガラス越しに見る月明かりに照らされた靄よりもずっと綺麗で
雨に煌めいた街のネオン色の靄は銀河鉄道が行き着く終着駅までの僕のほんの気休めになったみたいだ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?