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みじかいお話たち

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短編小説集。多ジャンル。主に即興小説で書いたものを収録。他に200字ノベルや詩もあります。
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#超短編

ゆいとケーキ(200字ノベル)

ゆいとケーキ(200字ノベル)

沢山のケーキが並べらたショーウィンドウを前に、ゆいはお鼻を潰すほどどれにしようか思案中。その中で飛びっきりのケーキを見つけた。
「パパあれがいい!」
「どれどれ?」
父親はゆいの指さすケーキを見てしばし言葉を失った。
「…ゆいにはちょっと早い」
「何でー!あれがいいー!」
駄々こねゆいが指差す先にはメレンゲドールの花嫁さん。父親は苦笑いした。

いつかこのケーキを買う日も来るのか、と思いながら

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何時ぞやの桜(200字ノベル)

何時ぞやの桜(200字ノベル)

「枯木に花を咲かせましょう」

そう唄ったは何時ぞやの翁。
彼が皺だらけの手を振るう度に、桃色花弁が樹を彩る。
あれは何時ぞやの幻か。
可憐な花は刹那の命。
貴方の為に差し出した命。

目を覚ますと少年は通学途中だったと思い出す。
目の前に広がる河川敷は、毎朝電車から見える景色。
どこか、懐かしい。

「枯木に花を咲かせましょうか」

ついと出た台詞と共に、切なさが胸を締め付けた。

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鼻歌(200字ノベル)

鼻歌(200字ノベル)

今日も愉快な鼻歌が浴室から聞こえてくる。

同棲もせずに結婚してから初めて暮らし始めた私たち。不安がなかったかと言えば嘘になるが、優しい時間が流れるこの空間が大好きだ。
カチャカチャと鳴る私の食器洗いのリズムを、彼の鼻歌に合わせるのが密かにブーム中。

「あなたも浴室で一緒に歌っちゃう?」
そう聞いたらお腹の中から、ポコポコと可愛らしい返事が聞こえた。
#小説

親父と薔薇(200字ノベル)

親父と薔薇(200字ノベル)

ただいま、と定年退職してきた親父が帰宅した。
「似合わないもん持ってるな」
「煩い」
白い薔薇の花束とプレゼントを抱えている格好は、昔気質の親父に似合わない。
「俺に似合うと思ったんだとよ。多分俺の仕事着をイメージしたんだろ」
料理長として手腕を奮っていた親父。俺はソファでスマホを弄る。
「なるほどね」
俺は画面を親父に見せた。
「花言葉だってよ」

俺はその日初めて号泣する親父を見た。

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紫色の聖夜(200字ノベル)

紫色の聖夜(200字ノベル)

伝説では紫の星を聖夜に見つけると願いが一つ叶うという。

少年は屋根に登り夜空を見上げた。
しかしどんなに目を凝らしても紫の星は見つからない。
諦めて屋根を下りるとローズマリーが足元に咲いていた。
これも紫か、と少年が一つ手に取ると花の中央に小さな少女が眠っていた。
おどろいた少年はそのまま花ごと少女を家に連れて行った。
そして少年は小さな少女と幸せに暮らす。

もう誰もいない世界で、ひっそりと。

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