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【修論】 1.2 学習科学の発展

以前、日本で書いた修士論文を少しずつわかりやすくリライトしながら公開していきます!と偉そうに言っておいて、予想以上に現在の大学院の勉強が忙しくて全然更新できていないことに気付いた。このままでは一生最後まで公開できないぞ・・・!?と気づいてしまったので、少し妥協したいと思う。

というわけで、リライトせずにそのまま載せていくことにした。(語彙力がない私が書いたとはいえ)一応論文なので、少し読みにくいと思うけどご了承ください。おそらく教育畑の方にはご興味を持って頂ける内容だと思います。反対意見も含めて、ご意見ご感想ありましたらぜひコメントで残してください!では、いきます(ここから高頻度で載せていきますね!)

1.2 学習科学の発展


「人はいかに学ぶのか」についての研究は、1950 年代後半に生まれた、人間の認知過程の解明を目指す「認知科学(Cognitive Science)」という学問が誕生するまで、全くと言っていいほど注意が払われてこなかったとソーヤー(Sawyer)は述べている(2009)。むしろ、 人間の「意識」とは哲学や神学の領域であると考えられており、科学的に捉えようとする試みは行われてこなかったとされている。

しかし、認知科学の誕生以来、人類学・言語学・哲学・発達心理学・コンピュータサイエンス・神経科学・その他心理学の諸分野を含む様々な視点から「人の知」に関する研究が続けられてきた。その中で、特に「教育」という視点から人の学びをより良くしていくために生まれた学問分野が「学習科学(The Learning Sciences)」である。学習科学は、最初の国際会議が 1991 年に開催され、2002 年に国際学習科学会(The International Society of the Learning Sciences)として発足した、まだ歴史の浅い学会である。
学習科学とは、「教えること」と「学ぶこと」について科学的に研究する新しい学問であるが、ここにおける「教える」「学ぶ」ことには、学校の教室で行われるものだけではなく、学校外の社会(家庭・職場・地域・仲間同士のコミュニティなど)において生じるものも含まれている。
 
また、学習科学は、「知識は社会的に構成されるもの」という考え方を基盤として「世の中の学びをよりよいものへの変容させる」ことに研究の焦点を当てている研究領域であり(益川 2015)、人の学習過程を明らかにし、学習理論の構築と理論に基づく実践的な検討を繰り返して、質の高い学習を導き出そうとしている(Bransford et al., 2000 など)。この「学習」に関する科学的研究はこの 50 年のあいだに急速に進み、「教育」のあり方についても多くの示唆を与えてきた。学習科学は、カリキュラム、教授法、教育評価などに関して、数多くの先行研究によって判明した科学的根拠をもとに、従来のものとは一線を画す新しいアプローチを提案している(Bransford, Brown and Cocking, 2000)。こうして認知科学の進化とともに、様々な研究結果がそれまで当たり前とされてきた常識をいくつも覆していくこととなった。例えば、以下のことである。
 
・教授的アプローチでは、学習に「転移」が生じないこと。
➢    学習における「深い概念的理解(deeper conceptual understanding)」の重要性。
・深い概念理解は適切な教授法だけでなく、学習者自身の学びの活動が深く結びついてい ること。
➢    「主体的」な学びの重要性。
・教授設計は、学習者が学習内容に関心を持ち、それを吟味する活動を重視する学習環境 の中でデザインされると効果的であること。
➢    教師が学習目標を持ち、授業デザインを行う重要性。
・深い概念的理解は個々の学習者の先行知識の上に成り立つものであること(構成主義)。
➢    学習者が持つ先行知識や信念をあらかじめ分析し、適切な教授内容を設計するこ との必要性。
・学習者自身が理解の程度を分析し、更に何をどのように学ぶべきか、について意識的に なることによって、効果的に深い概念的理解が得られること。
➢    学習者自身の振り返りとメタ認知能力の重要性。
・知識をスキーマとして関連付けることで、抽象度の高い活用方法を可能にすること(構 造化)。
➢    体系化された知識の重要性。

これらの事実が判明した 1990 年頃から、多くの研究者たちが研究室を出て、実際の教室の中で認知過程についての仮説を確かめる研究、デザイン研究(Design based Research) に取り組み始めた。これが、次第に「学習科学」というひとつの学問として発展していくことになる。

本論文では、この学習科学の「人は主体的に、対話を通して賢くなり続ける力を持っている」という考え方に基づき、生徒の「主体的・対話的で深い学び」に有効な授業デザインを、実際の学校現場で実現するために必要な要素・解決されなければならない課題を明らかにするために、教員・生徒らを対象に、仮説設定、研究デザイン、考察を行っていく。第 2 章以降の本論文の構成を説明する。第2章では、現代の社会情勢における変化について述べたあと、それに伴い必要となる力を整理している。また、その社会的変化の結果、学校教育に課せられた新たな教育目標、役割とは何なのかをまとめる。併せて、学習科学・認知科学の分野における先行研究を基に、「人の学び」についての学習理論を紹介する。続けてこれらの理論を基に、理想的とされる学習目標、授業デザイン、評価のあり方についても提案する。第 3 章では、研究対象となる笹塚中学校についての概要と、デザイン研究
の方法やスケジュールをまとめる。第 4 章では、笹塚中学校の社会科教員の授業実践を追い、そこで起きる事象や変化、そして社会科教員を取り巻く環境について、時系列に沿った7つのフェーズに分けて詳細に述べていく。特に、生徒の反応や変化、他教員との関わりなどの外部要因との関連性についても丁寧に記述していく。第5章では、1 年半の研究成果をまとめるため、主に社会科教員の変化について「学習観」と「学習環境」の2つの視点で分析を行い、授業デザインについては、知識構成型ジグソー法の実践経験と多くの対話を基盤に創られた信頼のおけるデザイン原則に即して分析を行う。そして最後の第 6 章で全体を考察する。

※↑と論文では書きましたが、第3章以降の公立中学校との共同研究部分は、教師や生徒らの詳細な情報が含まれるため、公開する予定はいまのところありません。

引用文献:
R.K.ソーヤー(2018) 「学習科学ハンドブック 基礎/方法論 第1巻」 北大路書房

Bransford, J, D., Brown A., L., , and Cocking, R. (2000) “How people Learn -
  Brain, Mind, Experience,andSchool“NationalAcademyPress.= ジョン・ブ
  ランスフォード, アン・ ブラウン, ロドニー・クッキング(2002)『授業を
  変える-認知科学のさらなる挑戦-』, 米国学術研究推進会議編著, 森敏
  昭・秋田喜代美監訳,21世紀の認知心理学を創る会訳, 北大路書房

益川弘如(2015)「学習科学からの視点-新たな学びと評価への挑戦-」放送メ
  ディア研究


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