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相手を思いやる気持ち。20万円の時計のプレゼント

ーー2021年海の日。
私はいつものように朝起きて、食パンを口にしていた。

そんな私に、突然母がこう言った。

今日、牡蠣を食べに行こうってお父さんが言ってる。

「っげ!!牡蠣を食べに3時間のドライブ!?」
「しかも、それをその日の朝に言う?!」

なんて、心の中でふと思ったのだが、父のやる気がある日ではないと、母を連れて3時間のドライブなんて行けるわけもないので、すぐさま私はうなずき、3人でドライブへ行くこととなった。

私は後部座席に乗り、父の運転に身を任せながら・・・

あぁ、今日は海の日らしい、一日になりそうだなぁと思った。

専業主婦の母

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私の母は生涯、専業主婦としての人生を歩んできた。

自分の20代を子育てに捧げ、私たち3人を育て上げた。そして、今もなお懸命に父を支え続けている。

そんな母は、きっと、これまでの人生、自分よりも私たち、または、父親を優先に生きてきたようにも見える。

母が自分よりも私たちを優先にし、尽くし続けてきてくれたからこそ、私たち3人がそれぞれ自立した道を歩めているんだと思うと、母には感謝の気持ちでいっぱいだ。

しかし、私たちが実家を離れるやいなや、母は肩の荷が降りただけではなく、少し自分の人生の目的を見失ってしまったようにも感じる。

これまで全力で、子育てをしていた分、一人になる時間が長くなったとき、その持て余す時間とエネルギーをどこに向けて良いのか、悩んでしまったのではないだろうか。

でも、きっと今の母は、その悩みを乗り越えたようにも思える。

それは、母が自分の人生をかけて、私に教えてくれたことの一つでもある。

畑作業と生きがい

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我が家には、大きな野菜畑がある。

祖父が生前購入した土地なのだが、祖父が亡くなった後からは、母が農作業を行うようになった。

母が畑作業を行おうと思ったそもそもの理由は、畑に雑草を生やし放題にしていては、他の農家さんに迷惑がかかるからだったらしい。

ただそれだけの理由で、両親二人で草刈りに行ったことをきっかけに、母の農業作業の日々が始まった。

せっかく草を刈ったのだから、野菜を植えてみようじゃないかと、苗を植え、野菜の収穫を行うようになっていった。

今では、そこで収穫できた野菜を産直オンラインで売り、母はパートに出るくらいの収益は得られるようになっている。

専門学校を卒業してから、子育てや家のことに時間を捧げていた母にとって、自分の力で、お金を生み出す仕組みを一から作り出し、それを継続させていることは、きっと、今の母にとっても、大きな生きがいになっていることは間違いない。

しかし、母はそこで得た収益に、一切手をつけようとしない。

きっと、これまで「誰かのために」子を想いパートナーを想い、自分を二の次、三の次として生きてきた癖でもあるのかもしれない。

そんな母を見て、私は「自分で稼いだお金なんだから、自分のために使って欲しいなぁ」と常に願っていた。

阿吽の呼吸とは?

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ーー2021年海の日。
私は旬の牡蠣を目指して、両親とドライブをしていた。
両親は、とても楽しそう。

私が一つ父の良いところとして思うのは、父の車の運転だ。

いくら遠出をしようとも、助手席で母が寝てようとも、全く怒ったり、イライラしたりしない。

きっと、父自身、運転が好きだからなのかもしれないが、やはり、車という狭い空間で、運転という緊張感のある行為を行う時こそ、人間の本性が出るものだと私は感じるからこそ、私は父が運転している姿には、尊敬している。

そんな父の運転についてぼーっと考えている私を後部座席におき、母と父は、くだらない冗談を言い合いながら、目的地まで約3時間のドライブを、とても楽しそうにしていた。

私たちの目的の旬の牡蠣は丸々としていて、立派だった。

お腹いっぱいに牡蠣を食べた私たちは、鳥海山の5号目で、澄んだ空気をいっぱいに吸い、海辺で16体の仏像を探し・・・

なんだか、今朝、ドライブに行こう!と決まったとは、思えないほど、全てが穏やかに進んでいく。

「あぁ、これが両親の阿吽の呼吸というものなのかなぁ」と羨ましくも思った。

20万円の時計のプレゼント

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ーーそんな帰り道。
私たちは夏野菜の収穫物についての話を中心に、ざっくばらんに色々な話をしていた。

すると、突然、父が自慢げにこう言った。

お母さんはね、今年あの畑の収益で
20万円の時計をお父さんに買ってくれたんだ!!

その瞬間、私はとても驚いた。

母にとって、あの畑で得た収益は、毎朝早起きをし、毎年少しずつ改善を繰り返しながら、やっとの思いで得たお金なのである。

そのお金は、父が会社で得るお給料とは比にならないくらい微々たるものなのだ。

それをコツコツと貯め、私が「自分のために使ったら?」と言っても、一切使おうとしなかったそのお金

それを、母がやっと使いたいと思いついたものが
「父へのプレゼント」だったのだ。

きっと、父にとって20万円の時計は、自分のお給料でも買えるもの。
でも、この時計は、20万円という価値では買えない「母の想い」がこもっているのだ。だからこそ、父は唐突に自慢したくなったのかもしれない。

そう思うと、私は胸が熱くなり、静かに後部座席で涙が溢れてきた。


相手を思いやる気持ち。
一生懸命働いて得たお金を使いたいと思う相手がいるということ。
そんな思いは、お金では変えられない、非常に尊い、人間としての幸せだと、私は思う。

生前祖父が購入したあの畑は、亡き祖父が、今こうして、人として大切なことを実の娘である母に教えてくれたのかもしれない。

それは、きっと、母にとって、実の父親からの最大のプレゼントなのかもしれない。

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