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韓国ドラマ『ミセン』に昭和の企業戦士を重ねる      

このドラマは冒頭、
ラストシーンから始まる。
それがラストシーンとわかるのは、
最終回まで見終わった時だ。

その「冒頭のラストシーン」とそれに続く第一話があまりにかけ離れていて、少し戸惑いながら物語は始まる。
主人公チャン・グレを
今では韓国若手実力派俳優のイム・シワンが演じている。
スリリングなラストシーンはイム・シワンそのものだが、
その後描かれる日常は、
冴えない毎日を送るぽっちゃりとした青年チャン・グレだ。

ラストシーンのチャン・グレ イムシワン
冴えない毎日を送るチャン・グレ  


チャン・グレは子供の頃から囲碁の天才と評され、プロの棋士を目指していた。
しかし父親の死をきっかけに挫折。
アルバイト掛け持ち生活を送っていた彼は、母親のツテで総合商社にコネ入社できてしまう。
コネ入社の契約社員に社内の人々は辛辣だ。
容赦なく高卒、コネ入社、契約社員という言葉を浴びせかけ、
仕事や待遇もあからさまな差別を受ける。
2014年に韓国で放映されたドラマなので、これが今の韓国社会のリアルなのかはわからないが、そうだとすればかなり厳しい。

そんな中、チャン・グレは囲碁に打ち込んでいた時に学んだ教訓や作戦、相手との駆け引きを思い出し、
他の社員が思いもつかないような意見や決断でいくつものピンチを乗り越える。
彼のことを軽く見ていた社内の人間も、彼に一目置くようになる。

このドラマの面白いところは、
そうした彼の行動が時には失敗に終わることがあるところだろう。
いつもいつもうまくいけば、
見ている方は油断して飽きてしまう。
しかしこのドラマはうまく行かないことの方が多いくらいだ。
そこが痛快ドラマにはない現実的な要素で、見るものを飽きさせない。
約90分ドラマで20話まであるというのに、
最後まで引き込まれていくのは、
こういうある意味期待を裏切るような結末のせいだろう。

上司のオ・サンシクは
初めの頃こそチャン・グレに冷たく当たっていたが、
次第に彼に信頼を寄せ、
なんとか契約期間2年の満了後に社員登用への道を切り開いてやろうと奔走する。
そうした焦りが仇となり、
自身も身を滅ぼしていくことになるのだが。。。

学歴社会、雇用形態、男女差別、セクハラ、パワハラ、長時間労働そして汚職事件。
いまだに日本でも横行する理不尽なサラリーマン生活と韓国の現代社会がリンクする。
その猛烈な働きぶりは、
昭和の日本の企業戦士を彷彿とさせる。
とても面白いドラマだった。

ちなみにラストシーンはチャン・グレが、
会社を追われた上司のオ・サンシクが始めた会社で働き、
詐欺を働いた商売相手を海外まで追いかけて追い詰めるシーン。
最後まで諦めない彼の棋士としてのスタイルが描かれていたシーンだった。

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