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『結婚式、準備しますよ』

「そろそろ打合せ行くで。準備はどや?」優斗が聞いてくる。あたしは「んー大丈夫」と答えて、少しの荷物をまとめて2人で部屋を出る。

今日は挙式前の最後の打合せだ。優斗は準備万端に資料を整えているようだった。マメというか細かいというか、あたしの出る幕はドレス選びぐらいのもんだった。後は全て彼が話を進めていた。こんなとこでもデキる男である必要はないけど、安心して彼の背中を頼りに見つめていた。

挙式会場は何と東京湾クルーズのレストラン船。「どうせならジャズやりたい」という要望を突き詰めた結果、いろいろなワガママを聞いてくれるこの場所に決まったのだ。

担当のプランナー・常盤さんもいい人だった。いろんな私たちのワガママをふむふむと聞きながら、それが出来る環境を提案してくれる。決して契約をせがむわけではなく、寄り添うようにいろんな提案をしてくれた。自然な話のやりとりの中であたしたちは信頼して彼女に任せることにしたのだ。

日の出埠頭に併設された建物の一角が、ウェディング専門の窓口だ。訪れると、「篠崎さん、桜子さん、お待ちしてました!」と黒いパンツスーツ姿の常盤さんが笑顔で迎えてくれる。

優斗は常盤さんとてきぱきと打合せを進めていく。時々「これで行こうと思うけど、いいかな?」「いいですか桜子さん?」と問いが入るが、あたしは「良きに計らえ」「常盤さんオッケーです」と相槌を入れる。優斗の選択だ、まず失敗はあるまいし、たとえ失敗してもそれは黙って彼に任せたあたしの責任でもあるのだから。

「桜子さんは幸せです。こんなに協力的なご主人はあまりいませんよ」と常盤さんが笑う。「こういうの彼の方が向いてると思うんで、助かりますけどね」とあたし。「会場装花のイメージとか、スクラッチブック作って見せてくれる新郎さんは篠崎さん以外に数えるほどしかいないですよ」常盤さんは笑う。優斗は少し困ったように笑う。

優斗が常盤さんとあれこれ打合せを進めているが、どれも最終確認というあんばいでにこやかだ。あたしはそのやりとりを傍らで聞きながら、きちんと彼があたしの形のない要望を汲んで式の段取りをしているのだとわかった。

「でも桜子さんも篠崎さんもジャズのライブしちゃうって楽しいでしょうね。桜子さん、私も昔はトランペットを触ってた時期があるんですよ」そう常盤さんが笑う。「え、そうなんですか?」とあたしは少し驚いた。「もうやめちゃいましたけど、続けてたらこういう舞台もあったのかな?って」と常盤さんは小さく笑った。

「ジャズライブ中心のクルーズ、余計な余興は入れずにあとは東京湾の景色を楽しもう!っておふたりのコンセプト聞いた時から、必ず担当させていただきたいと思ってました。何にしてもお式を一番そばで見られるから。今だから言いますけど、私にとっても素敵で楽しみなお式なんです!」と常盤さん。

「じゃあ、一緒に楽しんでください!」と優斗は笑って右手を差し出す。常盤さんも手を差し出し、二人は握手した。「もちろんです!」常盤さんの嬉しそうな声が、記憶に残る。

最期の打合せも順調に終わった。隣で見ていて、優斗はあたしが想像する以上にいろんな事を考えてまとめ上げてくれてたのだと気づく。あたしが言うのも何だが、優斗は本当に頼りになるやつだ。

さあ、挙式はいよいよ一週間後。とにかく、晴れるといいな。


いっちょ覚悟を決めて、楽しもうか!

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