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離婚式 8

 肌がちくちくする。
 他人の目って、針のようなもの。
 それを知らない女なんて、寂しい人生だと思う。視線を集めた数だけ女冥利と見映えはあがるものだってば。
 けど何か違うと思っていた。
 これは羨望でもなくて、ましてラヴでもない。
 敵意とすれば薄味だし、興味としては執拗過ぎる。
 監視、そう監視の目であればしっくりする。
 さりげない動作で、ふと視線を背後に飛ばしてみる。
 どうしたの?と、佐伯は訝しむ表情をしている。
 先月に無事に離婚式を終えたばかりだけど、今が一番に危ない時期だと思う。この前後は調査員が身辺を洗っているもん。だってさあ、ワタシのときもレポートがメール添付で送られて来て、それで返戻金査定が上がったもの。
「なんか見られてる気がするんだけど」
 その言葉に軽く苦笑しただけで「自意識過剰か、気のせいだよ」と無責任な言葉でゆって済まそうとすんのよ。
 まあ、それでこの縁が消えてもそれはそれでいい。夢なんて見てられるほど乙女ではいられない社会だ。
「結構、バック攻めてきてるからじゃん」
 そう。翠のブラキャミに新芽色のヨガウェアのトップ。その背中はざっくりとV字にあいてる。さすがに夜気はまだ冷たいけれど、冬場の生足と比べたらどおってことない。
「そろそろ来月には、ここのナイトプールが開くわね」
 カクテルグラスがかつん、と硬質な音を立てる。
「勘弁して欲しいね。そんな場所は居づらくて」
「大丈夫よ、女友達といくから」
「男抜きで?」
「ええ、りょうは男嫌いなの。むしろね」
 と耳元で囁いてやった。悔しいので、驚く顔が見たいのよ。
「ワタシに惚れてんの。そっちの趣味なのよ」と。
 はっ、いい表情。それで帳消し。

 流石にトップを増やして、タクシーを止めた。
 紺のカーディガンを肩にかけたまま、乗り込もうとした。
「寧々、ちょっと待って」と耳に優しい声がした。
 背後から柑橘系の香りが小走りに届いてきた。
「あら、りょうなの、嫌ぁだ。見てたの?」
 ワタシは先にリアシートに収まって、隣を彼女に空けるためお尻で移動した。
「そう。見ちゃった。今のが彼氏?」
「そうかも、もしかしてATMかも?」
 と肩をぶつけ合って笑った。
 当たり前のように彼女はワタシの住所を告げる。
「泊まっていくの?」
「そぅね。私としてはそうしたいわ。寧々のうちでまた何か作ってあげる」
「やった。今日はちょっとお酒入っているけど。まだ大丈夫」
 すっとお尻の下にりょうが手を潜らせてきたので、ちょっと腰を浮かせてあげた。深いところに届くように。

 


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