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離婚式 32

 女の首を絞めた。
 それが愉しいらしく、軽く伸びをして寧々はもっと首を差し出した。妖にして艶な雌の顔をして、接吻を求めた。
 それに嫉妬をした。
 女の肉体は窒息の苦痛さえ、快感に変換してしまう。
 この造り物の肉体とは、違う。
 痛みしか生まないこの肉体とは、違う。
 本源的な相違は、生き物を産み出せないこの身体に依るものだと思う。男性として生を受けてきた事実を、メスを入れてまで捻じ曲げてきた半生を、すべて否定するのがこの痛みだ。
 男性器を模した凶器を、肉体から抜く。
 それは悪魔の肉棒のように蠢いている。
 寧々が訝し気な目でそれを追っている。
 モードを最強にして、深く寧々を貫く。
 電流が走ったようにその身体が応えた。
 さあ、もう一度。
 女の細い首を指を絡めて、指先に力を込めた。
 
 痙攣が暫く続いた。
 それは死の舞踏だ。
 足がばたばたとベッドの上を跳ね回っているが、太腿で挟み込んで抑えた。重なり合った股間に、寧々から熱いものが迸っている。失禁をしているようだった。
 バスルームには全裸の佐伯が転がっている。薬物により昏睡している。その鼻孔に致死性の薬を嗅がせるのは難しくない。手首を切るというのもあるだろうけど、このホテルの後始末を考えると選択したくない。ここも関連会社の持ち物だからだ。
 佐伯と寧々という女とが。
 不倫の末に、極端な選択をした。
 その構図を整えるつもりだった。

 瞳が開き、瞬きをした。
 枕に顔を伏せたまま、その眼がボクの胸を射抜いた。
 バスルームから出てきた瞬間だった。
 佐伯にガスを嗅がせるために、掌から肘までを医療手袋で覆い、顔にはマスクとプロテクタをつけたままだ。
 寧々の眼には力強いものがあった。
 そして違和感もあった。
 まるで、試作段階のアンドロイドのような異質な忌避感。
 人間に近しい表情の奥に潜む、違和感の谷がそこにある。
 愛を交わしたその肉体だからこそ、その谷が切り立った断崖のように感じる。
「寧々・・・」
 下種野郎・・・とその唇が音声を発した。
 それが自分に向けらえた誹謗だと理解できない。
 半身を起こした。重たい乳房がぶらりと揺れた。
 首が変な方向へ傾いている。
 糸に操られている人形のような、非人間的な動作だった。
 脳核チップによる緊急事態への対応、どころではない。もしかすると補助脳を持っていたの。
 θシータのGメンなの?
 いつから暗殺者が追っていたの?
 この身が処分対象になったというのは、いつ?
 肉体は凝固していたが、思考は波状的に重ねていた。
 
 
  

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