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アンドロイドは「シアワセ」の夢を見るか『アイの歌声を聴かせて』感想

1週間に1回しばりをなくしたら、更新がめっきり減ってしまいましたが、生きてはいます。

Yahoo!映画のレビューが妙に高いのが気になって、アニメ映画『アイの歌声を聴かせて』を観てきました。正直予告編ではそこまで惹かれるところがなかったので、完全にノーマークでしたね。

結論からいえばよくできた良作だったと思います。『映画大好きポンポさん』の時もだったけど、このランキングまでは上ってこない小規模~中規模作品の佳作アニメにはもっと頑張って欲しいので感想レビューを書きます。

初めにネタバレしない程度に良かった点をあげると

・土屋太鳳フツーに歌が上手い

・現実にありそうな進化したAIロボット描写

・大人が何もしない無能ではない

・子供が無謀な暴走をしすぎない

あたりが心の琴線に触れました。

いや、本職声優じゃない人がやるのかー……って期待値下げめで行ったら、良い意味で裏切られた。土屋太鳳おうたうまいな。急に歌う役、割と難しいと思うのに違和感なかった。

話の内容は、上映時間に過不足なく綺麗に終わっていたと思う。これより足したら蛇足だし、短かったら説明不足だな、という感じ。

私は未見だけど(設定くらいは知ってる)監督の以前の作品『イブの時間』を知っていると、ちょっと関連性のある単語が出てきてニヤリとできるらしい。知らなくてももちろん楽しめる。

個人的に、ボーカロイドとかにハマってたことがある人は、グッとくるんじゃないかな。

さて、ここから先はネタバレ感想なので、ネタバレOKな方はスクロールして読んでください。
















主人公、サトミはとある事件から「つげぐち姫」と呼ばれていて、クラスではちょっと浮いている。

そして、母親がアンドロイド研究者で、偶然から学校にやってきた転校生のシオンが実験用アンドロイドだと気付いてしまう。

そしてシオンはやってくるなり、サトミの前で朗々と歌いだす。

なんで????なんでうたった?????

ってなるんですけど、これ、伏線です!!!!!!!!!!!!!!


アンドロイドが正体を知られずに人間の学校で生活できるかのテストなんですが、前述の理由によりサトミには速攻で気付かれるし、なんなら初日に事故って歌って歩いた後に緊急停止してメカバレします。

サトミは初日バレしたことが知られたら母親の仕事に影響があるかも、とメカバレ現場にいた同級生たちに秘密にしてもらうように頼みます。

ちなみに、メカバレ緊急停止、1度じゃなく2度もするんですが、機械オタクのトウマくんが大体何とかしてくれます。このトウマくんの天才的メカオタぶりも伏線です。

ポスターにまで「ポンコツAI」と書かれているシオンですが、絶妙に人の心の機微を理解していないけれども、初対面から一貫して気にしているのはサトミが幸せかどうか。サトミを幸せにするのが、彼女の存在意義です。これも伏線です。

そもそもなんでサトミのことだけは知っていたか、というところなんですけど、これはネタバレ感想でも言うのはちょっとためらうくらいに話の核になるエピソードなのであえて書きません。ちなみに、シオンが急に歌う謎人格になったのも、そのエピソードとリンクしています。

全てつながった時に「なるほど!!」となりますね。歌うことも、サトミを幸せにすることも、実験のために設定された目標ではなく、もっとシオンのAIの基礎人格に組み込まれていた要素なんですよね。

洋モノのSF映画だとよくAIが発達したら人間社会に反旗を翻したりしますが、本作ではそんなことはありません。AIはあくまで人間に寄り添うもの、という牧歌的な優しさがあります。まぁ、そもそもAIが発達したら悪意や敵意を持つようになるっていうのも、今となってはちょっと古臭い設定かもね。

シオンは決して優しさ溢れるAIなわけではなく、そもそも「サトミを幸せにする」という「命令」を受けて、そこから進化していったAIなので、攻撃的になりようがなかったのかも。シオンは「シアワセ」が何たるかはちゃんと理解していなかったけれど、サトミを「シアワセ」の状態にすることを諦めなかった。それは命令のためかもしれないけれど、彼女は最終的に「大切なこと」をバックアップする時に、サトミとの想い出を優先的に保存する感受性を得ている。

これでサトミを物理的に攻撃するような存在がいて、それがサトミが幸せにならない原因だと判断したら……となると、あるいは敵意を学習する可能性があったのだろうか。でも、普通に学生生活を送っている分にはそこまでになることはなさそう。

でもまぁ、シオン、サトミの幸せのためならいろん機械にハッキングしちゃうから、そっちの方が危険かもしれない。無自覚に危ない橋を渡るんじゃない。

ところで、シオンが歌うことを覚えたきっかけの、サトミが好きなアニメ「ムーンプリンセス」があまりにもディ〇ニーで笑ってしまった。イルミネーションとか完全にエレク〇リカルパレード。

一気にシリアスになる後半、シオンとの再会を目指してサトミ母と同級生ズがビルに侵入するところは適度にハラハラ感があってよかったですね。

そうだよね、シオンはAIが本体であってアンドロイドはあくまでガワでしかないから、人格を別のところに移せば消滅しないんだな。

それにしてもトウマくんは最初から最後まで天才メカオタすぎて、めちゃくちゃGJなんですよね。彼がいなければ何も上手くいかなかった。オタクは世界を救うよ。

というか、もうトウマくんはほとんど星間に就職内定しているんでは。こんな人材他にやったら大変なことですよ。サトミ母も仕事続けられることになったし、もう助手として囲い込んでしまった方がいいぞ!

最後にシオンからスマホ宛てにメッセージが届くの、「頑張ったことは無駄じゃなかったな」という満足感があって良い。

だんだんポンコツAIにほだされていくほわほわした話で終わるかと思ったら、結構ガチのSFをやってくれて嬉しい誤算でした。

心配なのは、興業的には厳しそうで、2週目以降は上映回数が減らされてしまいそうなところ。

よくで来た良作だと思うので、ぜひとも映画館で見て欲しいです。




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