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うまく馴染めなくても仲間がいるってやっぱりいい

スウェーデンのイラストレーターであり絵本作家でもある Maria Nilsson Thore の2020年の作品 "En egen flock"。

タイトルの意味は「自分の 群れ/仲間」。この作品は、内気なダックスフントが、自分とは少しちがうけれど気の合う仲間と出会うまでのストーリーです。

Maria Nilsson Thore "En Egen Flock" 

まわりの犬と同じことができなくて辛いダックスフント

外で遊んでいるたくさんの犬をアパートの窓からぼんやりと眺めながら、主人公のダックスフントは、少し困った表情でこんなことを呟きます。

ほかの犬たちって、良いところもイヤなところもあるんだよなぁ。
良いところは、みんなとっても楽しそうだってこと。一緒に過ごすって楽しいんだろうなぁ!

でもイヤところは、吠えたり、あちこちかまわずおしっこしたり、ピョンピョン跳ねまわったりすること。もっとイヤなのは、おしりをクンクン嗅ぐこと!

でも、きっとぼくがおかしいんだ。
みんなみたいにできないんだもん。

ぼくにそっくりの仲間がいたらなぁ。

Maria Nilsson Thore "En egen flock" 

内気なダックスフントは、性格も趣味も、ほかの犬とは随分ちがいます。

おもしろい帽子と、
クロスワードパズルの難しいやつと、
コーヒーの良い匂い、
それから、かっこいい木の枝!
そんなのが大好きな仲間に出会えたらなぁ。

でも、まったく同じ趣味の仲間を見つけるのは難しい。
ぶつぶつ言いながら、ダックスフントはそれでもやはりみんなのところに出向こうと、気持ちを固めます。

ぼくにできるのは、みんなと同じようにやってみることだけ。
今回は上手くいくと良いな。

ですが実際外へ出てみると、思うようには行きませんでした。

Maria Nilsson Thore "En egen flock" 

まわりの犬に積極的に声をかけたり、みんなと同じように遊んでみるけれど、なぜかうまく馴染めずに空回りしてしまうのです。

「どうして、みんなの中に入るってこんなにむずかしいんだろう?」

ダックスフントは落ち込み、膝を抱えてベンチに座りこみます。
「もう帰ろう。きっとぼくには仲間なんていないんだ」

仲間は突然やってきた

帽子屋さんのショーウィンドウに並ぶ、素敵でおもしろい帽子を眺めながら、ダックスフントは思います。

「ひとりでいるのに慣れちゃえばいいんだよね」

「ぼくのひいひいおじいちゃんだって、いっぴきおおかみだったらしいし。それでもきっと大丈夫だったと思うんだ。」

家に帰ってコーヒーを淹れながらそんなひとりごとを言っていると、ドアをバンバンッとノックする音が。そっと開けると、2本足で立つプードルが楽しそうに話しかけてきました。

ねぇねぇ、君、公園で見かけたよ! ボクに気づかなかった?
2本足で立ってたじゃない、今日、公園でさ。
いいなって思ったんだ!
ん?なんか良い匂いするね? ボクもいただいて良い?

そう言うと、プードルはつかつかと家の中に入ってきます。

その後はコーヒーを美味しそうにがぶ飲みし、壁に飾ってある家族写真を「素敵~!」と褒めちぎり、ダックスフントが大切に集めた木の枝に感動するプードル君。

初めはその勢いにドン引きだったダックスフントですが、次第に心を開き、自分の集めた骨コレクションを見せたり、一緒に帽子をかぶってふざけたり…。気がつくと、2人(2匹)はとっても楽しく遊んでいたのでした。


君は君のままがすてき


クロスワードをしながら、2人(2匹)はある言葉を探します。

「〈君は君のままがすてき〉って言ってくれるもの」を4文字で。
クロスワードをしながら、2人(2匹)は言葉を探します。

なんだろう…。
あ、わかった! 
「と も だ ち」だ

あぁ、こんなに楽しく過ごせるなんて。
やっぱり、仲間がいるって最高だな。
それに、ぼくとまったく同じじゃないところがいい。
でも残念なのは、明日また会えるまでまだまだだってこと。  

繊細な気持ちを細やかなタッチで

鉛筆の優しい線で、主人公のお部屋の素敵な家具から生活感のあるキッチンまで細やかに描かれているこの作品。特に印象的なのは主人公の表情です。外で遊ぶ犬たちを窓からぼんやり眺める表情や、意を決してほかの犬の仲間入りをしようとやってきた公園で「やっぱりだめだぁ」と落ち込む表情は、見ているこちらの心が痛くなるほど生き生きと描かれています。

社交的なグループにすんなり馴染めたら、そこで一緒に盛り上がれたら、どれだけ楽しいだろうなぁと思いながらも、無理をしては空回りし、結局ぐったり疲れてしまう…そんな経験をしたことのある人は多いのではないでしょうか。そして、もういいや、ひとりで楽しく過ごすことだって悪くないもんねと自分に言い聞かせるーもちろんそれだって楽しいし、良い時間は過ごせるけれど、だれかと好きなものの話をしたり、集めているものを見せ合いっこして話が進めば、やっぱり温かくて嬉しい気持ちになりますよね。そんなときはきっと肩のちからも抜けていて、自分らしいというか、無理していない自分でいられるのもまた嬉しいもの。

まわりのひと(犬)たちと趣味も性格も、普段の生活スタイルだってちがうダックスフントも、はじめはまったく同じタイプの仲間がいてくれればなぁなんて思い描いていましたが、実際声をかけてきてくれたプードルは自分とは随分ちがうタイプでした。それでも、凸と凹がうまくかみあったように、2人(2匹)は楽しい時間を過ごすことができた、それはきっととっても嬉しい仲間との出会いだったのでしょう。


デンマークでは積極的で社交的なタイプの方が、学校でも職場でも得をすると言われることが多く、近年は図書館司書でさえ、TikTokやInstagramで踊りながら、変な衣装で本を紹介する姿を見かけることがあります。でももちろん、目立ちはしないけれど、この絵本の主人公のように静かで繊細なタイプの人もいますし、一時期は、内向的・内気な性格について、その良さを掘り下げた本が流行った時期もありました。

この絵本は、イラストもテーマも日本の人に親和性が高いような気がしていて、またわたし自身も大好きな本なので、遠くから訪ねてきてくれた知人や友人についついお勧めしてしまいます。デンマーク語だけでなく、英語やドイツ語訳でも出版されているようなので、もしかすると日本でもこの2人に出会えるかもしれませんね。

Maria Nilsson Thore "En egen flock" 

Maria Nilsson Thore "En egen flock" (2020) Bonnier Carlsen
動画紹介
https://www.youtube.com/watch?v=iFi3KN58KG0



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