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デンマークで作家やイラストレーター、翻訳者を国が支援するシステムとは

「そろそろ誰がいくらもらったか公開になるから見てみない?」そういって同僚が職場のPCであるウェブページを開くと、そこには「図書館支援金」という表示とともに、国からの支援金を受けた作家やイラストレーター、翻訳者の名前と、かれらが受け取った金額が並んでいた。

聞いたことのある「図書館支援金」制度。少し調べてみたところ、なんとデンマークが世界で初めて70年以上前に導入した制度だという。それは気になる!ということでもう少し深堀りしてみた。

図書館支援金とは
この制度、デンマークでは「図書館支援金」と呼ばれるが、世界35カ国で採用されるもので、英語ではPublic Library Right と呼ばれるものだそうだ。デンマークでは、作家をはじめとする様々なクリエーターらの作品が図書館に登録されると、国がかれらの活動を支援するという目的で、国から支払いを受けられるもの。他の国では、図書館で貸し出されることによって作品の売り上げが制限されることを補填するための制度とも言われている。

どうやって始まった?
初めてこの制度を求めたのは、デンマークの女性作家、Thit Jensen 。1918年のことだそうだ。当時、公共図書館や私設図書館で、それぞれ無料、有料で本の貸出が行われていたが、それによって作家への売り上げが制限されるのは不当だとし、この制度を求めたという。彼女の声に賛同した別の作家、Peter Freuchenは、図書館が彼の作品を所蔵することを拒否。それに反して彼の作品を所蔵した図書館に彼は訴えを起こし、なんと最高裁で勝訴したという。
その後、1941年になってこの制度が初めてデンマークで試用されたが、第二次世界大戦の影響もあり、法律として定められたのは1946年。本格的に実施されるようになったのはその翌年1947年だった。

誰がもらえるのか
2023年には、デンマークで、195.702.245 デンマーク・クローネ、日本円にして約40億円が国の予算として計上されている。

現時点でこの図書館支援金がもらえるのは、作品が公共図書館、大学図書館、学校図書館等に所蔵される作家、イラストレーター、翻訳者、写真家、画家、作曲家、作詞家、歌詞の翻訳者、演奏者、指揮者、オーディオブックを音読する人など。ただし自ら申請しないと受け取ることはできず、また一定額以下は切り捨てとなり受給対象にはなれないのだそうだ。

予算配分は毎年少しずつ変わるそうで、近年はEブックやオーディオブックがよく利用されていることに合わせ、そちらへの配分が少しずつ増えている。作家らが受け取る金額は貸出数に比例するのではなく、図書館の蔵書数、ページ数、シリーズ化された作品の場合はその合計数など、細かな基準があるポイント制とのこと。作家に反して、イラストレーターや翻訳者などはポイントの数え方が少ないなどの違いもあり、イラストレーターの同僚らからは公平ではないという声も聞く。


どのぐらいもらえるのか

データによると、高額受給者はごく一部(表の赤線)。興味深いのは、2023年の高額受給者のトップ12のうち、児童書作家が10人!その理由は、学校図書館での所蔵やカウントの仕方が大きいのではないかと思われる(これはわたしの予想です)。

デンマーク文化省のデータより。
赤線は受給者数、青の棒グラフは受給金額

これ以外にも、教材に使用された文章やイラスト等への著作権料の支払いもある。

デンマークの著作権管理団体Copydanは、ランダムに選んだ国内の学校図書館に対し、教員が授業で使用した教材を細かく報告するように指導している。学校図書館司書はマニュアルにしたがって、その年購入された教材以外に、教員がコピーして使用した教材をすべて把握、登録し、定期的に著作権管理団体へ報告することが求められている。デンマークの学校では、教材として小説を本のまま使用することに加え、ワークブックなどをコピーして使用することもある。そしてそこにイラストなどが描かれていれば、イラストレーターの作品としてカウントされる仕組みだ。

気になる支援金受取額、今年の1位はデンマークの誰もが知る作家、Bjarne Reuter。約1500万円の支援金を受け取っている(ただしここから税金が引かれます)。特捜部Qの原作者、ユッシ・エーズラ・オールスンは14位、約1100万円。

この図書館支援金制度、あるいはPublic Library Rightを採用しているのは、スカンジナビア3国(デンマーク、スウェーデン、ノルウェー)に加え、カナダ、イギリス、ドイツ、オーストリア、ベルギー、オランダ、イスラエル、マルタ、オーストラリア、ニュージーランドなどで、採用国は少しずつ増えているという。日本では採用されていないが、国が税金で作家やイラストレーター、翻訳家、写真家、ミュージシャンを支援する仕組みができれば、制作活動に安定して取り組める大きな支えになるに違いない。

参考資料:https://slks.dk/bibliotekspenge
https://bornelitteratur.lex.dk/Biblioteksafgiften
https://slks.dk/fileadmin/user_upload/SLKS/Tilskud/Bibliotekspengene/Dokumenter/Modtagere_af_bibliotekspenge_for_boeger_i_2023.pdf
https://www.wipo.int/wipo_magazine/en/2018/03/article_0007.html
https://en.wikipedia.org/wiki/Public_Lending_Right


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