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お菓子づくりにおける材料の省略と桃のデザート 〈菓子四季録 vol.4〉

菓子四季録では、菓子研究家 福田淳子先生と一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら。今回紹介するお菓子は、こぼれ落ちる甘い果汁を味わう「桃とリコッタチーズのデザートプレート」。

お菓子づくりにおける「材料の調達」というハードル

お菓子づくりのハードルを上げている理由のひとつに「材料の調達」という要素があると思っている。お菓子づくりでは、普段使わないような食材を使用することが少なくない。料理においても材料調達という工程は発生するが、お菓子の材料と比べると、余ったときに別のメニューでの消費が可能な食材が多いように感じる。

今回紹介するお菓子「桃とリコッタチーズのデザートプレート」に使用する材料は、桃、リコッタチーズ、レモン汁、レモンの皮のすりおろし、はちみつ、ミント。登場する材料数は少ないものの、このメニューのためだけに購入しないと家にないであろう食材がいくつか登場する。購入可能単位よりも使用量が少ない食材は、1回メニューを作っただけでは使いきれない。

「レモンは省略できるのか?」という問い

正直に言うと、プレートを初めて食べる前のわたしの頭には「この材料、省略して作れないかな…」という考えがよぎっていた。

その材料とは「レモン汁」と「レモンの皮のすりおろし」。

「桃とリコッタチーズのデザートプレート」なので、桃とリコッタチーズは必須の材料。省略できない。はちみつはデザートらしい甘さの調整に必要だろうし、ミントの緑色は見た目のアクセントになるだろう。レモン汁とレモンのすりおろしはどうか。生のレモンを使用したいが、まるごと1個のレモンを消費しきれない。主な役割は「酸化による桃の変色を抑えること」と「香りづけ」だろうから、簡単に作りたい場合は省略できないだろうか…と考えたのだ。

そんなことを考えながら迎えた試食当日。
実食した瞬間、わたしの仮説は崩れ落ちた

レモンの働きぶりがすごかったのだ。「省略できる?」という考えが頭をよぎっていた過去のわたしにフォークを持って駆け寄り、いますぐ一口食べさせたいくらいの驚きと喜びがあった。

レモン汁は、もはや桃と別々に存在してはいなかった。桃と一体化していた。境界線がわからないくらい桃と一体になった透明のヴェール。境界線は曖昧になってじんわりと桃に染み込んで、それでも桃は桃らしさを失わずに存在する。レモンの酸味が桃を邪魔するのでは、と思うだろうか。それは杞憂だった。むしろこのレモンの膜があるおかげで、桃を噛んだ瞬間に溢れる果汁の甘みが引き立っている。

ああ、レモンは、存在しなくてもプレートが成り立つかもしれないと思ったけれど、桃を最高に飾ってくれていた。このヴェールの素晴らしさを知ってしまったら、レモンがない世界には戻れない。

ヴェールに包まれた桃は、さらにリコッタチーズに包み込まれる。とろりとなめらかなリコッタチーズ。消えてしまうくらいやわらかく、ミルクの香りを放つ。すべてが一体になって、なめらかに舌の上で溶けていく。

桃と組み合わせられることが多い食材として水切りヨーグルトが挙げられるが、このやさしさは、水切りヨーグルトでは代替できない。リコッタチーズには酸味がないからこそ桃と〈一体〉になれるのだ。

今回のメニューを通して、「材料を省略してみたいという気持ちが浮かんだ時でもまずは一度レシピ通りに作ってみることの楽しさ」を体感した。自分好みにアレンジするのは、基本の型を知ってからでも遅くはない(レモンあり、なしで食べ比べてみて、自分の好みを知るのも楽しい)。

ひとつのレシピの味は、そのレシピの唯一無二の味を持っている。レシピ通りに作ることは、新しい世界を拓くことかもしれない。

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桃のお菓子の紹介なのにレモンについて熱く語ってしまいました。でも桃の魅力を最大限に引き出しているメニューなので、ぜひ桃好きの方に試してほしいと思います。じゅわっとこぼれ落ちる桃の果汁を存分に堪能できる一皿です。


桃とリコッタチーズのデザートプレート

夏も後半。桃が甘く香る季節。八百屋さんに並ぶ姿を見ているだけで嬉しくなる。淡いピンクの皮に守られた果実はそのままかぶりつくのも美味しいけれど、美しく盛り付けられた桃の一皿を味わってみませんか?たっぷりの果汁は、ぜひ最後までスプーンで召し上がれ。

材料

作り方

作り方(全文)

詳しい作り方やポイントは
淳子先生の解説をぜひご覧ください

菓子研究家 福田淳子先生のレシピ解説はこちらです。作り方や材料のポイントが掲載されています。
記事のなかで先生は、桃のことを『愛おしい』と表現しました。好きという言葉では伝えきれない気持ち。この桃のデザート、作り方が大変シンプルで、桃はほとんど加工されません。作り方のシンプルさは「そのままのあなたが愛おしい」というラブレターのようでした。
今回の記事はとにかく最初から最後まで桃への愛が語られています。想いが詰まった解説をどうぞご覧くださいね。

桃のデザートの菓子四季録、おしまい。

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