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桃を味わい尽くすシンプルレシピ 〈菓子四季録 vol.4〉

菓子四季録では、グラフィックデザイナー  澤田清佳さんと一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら。今回紹介するお菓子は、こぼれ落ちる甘い果汁を味わう「桃とリコッタチーズのデザートプレート」。


いちばん好きな果物は何ですか?

それについて、私はいつも自問自答しています。なんなら、好きな果物ランキングベスト5は誰に聞かれなくともいつでも答える準備は整っているのです。

私がこの世でいちばん好きな果物は桃です。だからこそ、桃を使ったお菓子は私にとってすごく難しいのです。桃はいろんな素材と合います。甘くて、香りがよくジューシーで、適度にかたく、適度にやわらかい。いろんな選択肢が考えられるし、実際に桃を使ったお菓子はこの世の中にたくさん存在しています。

果物で桃がいちばん好きなんです

それは、そのままの桃よりもおいしい?

でも果たして、そのお菓子の中にある桃の味わいが、桃の単体で食べる本来のおいしさを超える存在がいくつあるのでしょうか。桃って、それ自体だけでものすごく完成度が高い気がするのです。もちろん、桃のデザートはおいしいのです。でもそれは他の素材と合わさった複合的な味わいの「おいしい」な気がするのです。桃としての本来のおいしさがそのデザートの中で増しているものってかなり少ないです。

なんか回りくどい話になっていますが、すごくシンプルな話です。まるごとのおいしい桃とその桃を使った何かしらのデザートがあったとします。どっち食べたい?と訊かれたら多くの場合は私は「そのままの桃を食べたい」になってしまうのです。

桃は切ると汁がしたたり落ちます。できれば、その果汁さえも残さずいただきたい。でも多くの場合、桃をデザートにする時にその汁気は拭き取られる。もうその時点でもったいないとなってしまう。

あの緻密な果肉に、あの芳香。まさに桃の美しさ。

たぶん他のフルーツならばこういう思考にはならない。他のフルーツのお菓子はまず、そういう目線では見ません。私が桃が好きすぎて、愛おしすぎて、厳しい目になっているのも重々承知。若干こじらせているのも知っています。好きだからこそ難しい。

渾身の一皿紹介します

そんな中で「これは桃らしさを味わいつつ、桃の底力がアップする」と思っているデザートがあります。今日はそのレシピを紹介します。レシピを書きましたが、覚えられる程度の内容で、決して難しくありません。なんなら目分量でも大丈夫。

麗しの一皿

桃を切って、レモン汁であえて盛り付け、リコッタチーズ、レモンの皮のすりおろし、はちみつ、ミントを添えて出来上がりです。

これはもう組み合わせのマリアージュなんだと思います。リコッタチーズのおいしさとミルキーさに桃が本当によく合うのです。リコッタチーズはミルクの風味と甘みを感じられるやさしい味わいのチーズです。酸味がほとんどなく、ふわっとしていて軽さがあります。桃って、まあるい味わいなのです。尖っていない。ふくよかで芳醇。そこにこのリコッタチーズの特徴がピタッときます。包み込む感じ。

リコッタの代わりに水切りヨーグルト、サワークリーム、クリームチーズ、フロマージュブランでは酸味が少し強い気がします。生クリームを泡立てたものやマスカルポーネチーズはまろやかですが、それらでは重たすぎるのです。桃がいちばんおいしい暑い時期に最後の一口までおいしくて「もう少し食べたい」になるのはリコッタチーズだと思います。(とは言え、個人の好みも大きく関与していると思います。私の場合は、のお話です。)

リコッタチーズも桃と同じくらい好きなんです

「桃とモッツァレラチーズのサラダ」と立ち位置は近いと思います。あのサラダもやっぱり、モッツァレラのミルキーで、軽く柔らかく、酸味がない味わいが桃にぴたっとくる。あれも好きなんですが、桃はやっぱりデザートで食べたい!!

食べる直前にレモン汁であえることで、桃自体を少しシャキッとさせ、風味をつける感じです。このレモンで桃の甘さとリコッタのミルキーさが引き立ちます。レモンの皮もミントも飾りではありません。この優しいバランスの上に、ふわっと爽やかな香りがあるのがいいアクセントになります。

ミントが入ると清涼感が加わります

桃は充分、甘いからはちみつはいらないのでは?と思うんですが、これはリコッタのおいしさを引き立てる為です。なのではちみつは気持ち、桃ではなくてチーズめがけてかけてください。出来上がったら、すぐに、本当にすぐにいただきます。時間が経つと色も風味も変わりやすいし、香りも飛んでしまいます。

はちみつはリコッタのミルキーさを引き立てます

ほら、食べてみたくなったでしょう?レシピはこんな感じです。


桃とリコッタチーズのデザートプレート(レシピ)

【材料】(1人分)
白桃 1個
レモン汁 大さじ1〜2
リコッタチーズ 70g
はちみつ 大さじ1〜2
レモンの皮のすりおろし 適量
(お好みで)ミント 適量
分量はすべて目安です。桃の大きさや個人の好みに応じて増やしたり減らしたりしてください。

材料がすでにおいしそう

【作り方】
下準備:食べる2〜3時間前に桃を冷蔵庫に入れて冷やす。
1.桃は皮を剝き、食べやすい大きさに切る(くし切りなど)。ボウルに入れ、レモン汁であえる。

レモン汁をかけます
果肉のやわらかさを考慮すると
手であえるのが最善

2.の桃を皿に盛り、ボウルに残った果汁をかける。リコッタチーズを散らすように上にのせ、はちみつをかけてレモンの皮のすりおろしを散らし、好みでミントを添える。
*色も味わいも風味も変わりやすいので、作ったらすぐにいただきましょう。

ボウルの残った果汁もお皿に
リコッタチーズは箸を使うといい感じに配置できます
レモンの皮もすりたてで
はちみつはリコッタをにかけるイメージで
出来上がりです(美しい)


さらに詳しいコツ

今回に限らず、桃の保存は基本は常温で。桃を冷やしたい場合は作る2〜3時間前に冷蔵庫に入れます。冷やしすぎると、桃の甘さと香りが堪能できません。桃は必ずしも冷やさなくてもいいと思います。常温の桃で作ると、味も香りも強くなります。冷やしたものは上品な雰囲気に。ここはお好みで!でも、くれぐれも冷やしすぎには注意。ずっと冷蔵庫にいれておくと、香りも甘味も閉じてしまう気がします。

レモンは自分で絞ったものを使う方が酸味がやわらかく、香りが良いです。

リコッタチーズはマストです。水切りヨーグルトとか、泡立てたクリームとかサワークリームなどを使っても出来るとは思いますが、それはもう別のデザートなのです。この味わいはリコッタチーズでしか成立しません。

リコッタチーズの入手が今回のレシピの1番のハードルだと思います。
私はいつもタカナシ乳業の「タカナシ北海道リコッタ250g」を使っています。最寄りのスーパーでは取り扱いがなく、いつも少し離れたところにある成城石井で購入しています。

クリーミー、ミルキー、でもさっぱり
タカナシのリコッタチーズをよく使っています

リコッタチーズの本場はイタリアですが、こちらもミルキーで軽やかでおいしいです。リコッタチーズの量は桃の大きさや、好みで増減してください。

今回の最大のポイントは「レシピ通り材料を揃えて、その通りに作る」これに尽きます。「レモンの皮とかいらないでしょう」とかではなくぜひ。レシピそのまんまで作ってみてください。ミントも見た目はもちろん、香りがね、夏にぴったりのプレートに仕上げてくれます。

今回は「幸茜」という品種の桃を使いました。緻密で高い糖度があり、酸味と爽やかな味わいが特徴だそうです。少しかため。真ん中が赤くて、切った時に鮮やかです。

桃は早生、中生、晩生と時期によってお店並ぶ品種が変わります。同じ桃でも品種によって、特徴は様々。早生は瑞々しくジューシーでやわらかく、晩生は実がしまり、しっかりしているものが多いです。味や香り、色味もそれぞれ。いろんな桃で作って食べ比べるのも楽しいですよ。

中が赤くて、とても映えます

桃のおいしさを味わえる、簡単だけど、とってもおいしい一皿です。夏の終わりを捕まえるように、桃が並んでいるうちにぜひ作ってみてください。

はぴにもください

【Photos : Sayaka Sawada】

同じレシピをグラフィックデザイナー  澤田清佳さんが絵で紹介しています。絵のかわいさもさることながら、手順の流れがとってもわかりやすいです。
今回は桃のレシピなのに、桃ではなくてレモン関しての記述がメインというのが非常に興味深い。「桃を語らず、桃を語る」をぜひご堪能ください。別の視点を持つことで、私の桃への偏愛が浮かび上がるのもまた一興(笑)。



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