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【鳥取寺社縁起シリーズ】「因幡堂縁起絵巻」(12)

 【鳥取寺社縁起シリーズ】第二弾として、「因幡堂縁起絵巻」詞書部分の注釈・現代語訳をnoteで連載いたします(月1回予定)。

  〔冒頭の写真は、鳥取県立博物館『はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』の表紙(「因幡堂縁起絵巻」の一場面)です。〕


 ■寺社縁起本文・注釈・現代語訳

 __________________________________  本文(翻刻)は、『企画展 はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』〔鳥取県立博物館/2008年10月4日〕の巻末「鳥取県関係寺社縁起史料集」のものを使用しています。

  ※「因幡堂縁起絵巻」の概要は第1回をご覧ください。


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【 第八段 】
かの如来いく程なくその夜此宿所へ飛かへ
りましましけり、行平卿又ゆめに見奉るやう▢
所は東方浄瑠璃浄土の正門西方極楽世界
の東門なるによて是にて衆生利益あるへし
汝に如我無異と人のうつつに物申承るやうに
あらたに見奉りいちおとろき忝なさなににた
とへむ方なく只随喜の泪をなす斗しかあれ
は此在所は釈迦如来轉法輪の地薬師
常住の浄瑠璃世界たる上は忽宿所を佛閣
となし勅願所と称し三間の鎮守五間の
拝殿十二間の僧房一間四面の阿弥陀堂観
音堂二階の鐘楼経蔵湯屋等を興行し
行平卿の子息一人法師になし寺務に定め
是を光朝禅師と云その外さるへき家々の
子孫達十二人法師になし供僧とし三時の行法
おこたらすといへり

→かの如来いく程なくその夜、此の宿所*へ飛帰
りましまし*けり。行平卿また夢に見奉るやう「▢※1
所は東方浄瑠璃*浄土の正門西方極楽世界
の東門なるによて是にて衆生利益あるべし。
汝に※2如我無異*」と人のうつつに物申し承る*やうに
あらたに見奉りい※3ち驚き忝なさ*何にた
とへむ方なくただ随喜*の泪*をなすばかり。しかあれ
ば此の在所は釈迦如来轉法輪*の地、薬師
常住の浄瑠璃世界たる上は、忽ち宿所を佛閣*
となし勅願所*と称し三間*の鎮守*、五間の
拝殿、十二間の僧房、一間四面*の阿弥陀堂・観
音堂、二階の鐘楼*、経蔵*、湯屋*等を興行*し、
行平卿の子息一人法師になし寺務*に定め
是を光朝禅師と云ふ。その外さるべき家々の
子孫達十二人法師になし供僧*とし、三時の行法*
おこたらずと言へり。

※1 文脈からいうと「此」か?
※2 テキストの本文(翻刻)は「汝に」となっているが、それでは意味が通じない。絵巻本体の写真を確認し、「に」は「ら」であり「汝ら」ではないかと推測した。
※3 テキストの本文(翻刻)は「い」となっているが、それでは意味が通じない。絵巻本体の写真を確認し、「う」ではないかと推測した。

〈注釈(語の意味)〉
*宿所(しゅくしょ)…宿泊する所。住居。すまい。〔全訳古語辞典〕
*まします…(動詞「ます(在)」を重ねたもの)「ます(在)」よりも敬意が強く、中古では、神仏や皇族について用いられることが多い。また、和文体が「おわします」「おわす」を多用するのに対し、これは、漢文訓読体に用いられる傾向がある。
 「ある」「いる」の意の尊敬語。存在、状態の主を敬う。いらっしゃる。おいでになる。〔日本国語大辞典〕
*浄瑠璃…《仏教語》清浄、透明な瑠璃。また 清浄なもののたとえ。〔日本国語大辞典〕
*如我無異…法華経の巻一方便品第二に、釈迦が舎利弗に対して、「我本誓願立 欲令一切衆 如我等無異如我等無異(我本誓願を立てて 一切の衆をして 我が如く等しくして異ることなからしめんと欲しき)」とあるものか。
*申し承る…お話をうかがう。また、おつきあい申しあげる。〔日本国語大辞典〕
*忝(かたじけ)なさ…(過分の恩恵や好意を受けて)身に染みてありがたいこと。もったいないこと。恐れ多いこと。
*随喜…《仏教語》人の善事を見て随順〔=おとなしく従うこと〕・歓喜(かんぎ)すること。転じて、心からありがたく感ずること。
*泪…涙。
*轉法輪=転法輪(てんぼうりん)…仏の説法をいう。仏の説法が煩悩や誤った考えを破砕することを、転輪王が輪宝をもって敵を降伏させるのに喩えて法輪といい、転は説くことをいう。仏が教えを説いて、一切衆生を悟りに導くこと。〔例文 仏教語大辞典〕
*佛閣=仏閣…寺の建物。寺院。仏堂。
*勅願所…天子の命によって、国家安寧・玉体安穏などを祈願する寺や神社。〔例文 仏教語大辞典〕
*鎮守…その地霊を鎮め、国・山・王城・寺院などを守護する神。また、その神の祭ってある神社。〔全訳古語辞典〕
*間(けん)…(撥音を受けるときは「げん」とも)建物の外面、主として正面の柱と柱との間。また、ひろく、四方を柱で囲まれた空間を数えるのにも用いる。〔日本国語大辞典〕
*四面…(「在庇四面」の意が省略されたもの)平安・鎌倉時代に行なわれた建築平面の記法。母屋の四方に庇をつけたものをいう。〔日本国語大辞典〕
*鐘楼…かねつき堂。
*経蔵…《仏教語》大蔵経を納めてある建物。経庫。経楼。経堂。
*湯屋…湯殿。浴室。〔全訳古語辞典〕
*興行(こうぎょう)…おこしたてること。創建。
*寺務…寺院の事務執行代表者。
*供僧(ぐそう)…《仏教語》「供奉僧(ぐぶそう)」の略。本尊に仕える僧。また、神仏の仏事に奉仕する僧。
*三時の行法=三時行法(さんじぎょうぼう)…日々の初夜(午後八時)・後夜(午前四時)・日中(正午)の三時に行う修法、または、諸尊の供養。〔例文 仏教語大辞典〕
 ※特に記載がない場合は『広辞苑』による。

 〈現代語訳〉
例の如来はどれほども経ないうちにその夜、この場所へ飛帰
っていらっしゃいました。行平卿がまた夢に見申し上げるには、「▢
所は東方の浄瑠璃浄土の正門、西方の極楽世界
の東門であるため、ここで衆生を利益しよう。
お前たちには私と同じように仏として悟ってほしい」とまるで(夢とは思えず)現実にお話を伺ったように
新たに(夢を)見申し上げる。すっかり驚いてありがたさにたとえ
ようもなくただ恐れ多く思って涙を流すばかりである。そうであれ
ばこの場所は釈迦如来が教えを説いて一切衆生を悟りに導く地、薬師
常住の浄瑠璃世界であるからには、あっという間にこの場所を寺院
として勅願所と称し、三間の鎮守、五間の
拝殿、十二間の僧房、一間四面の阿弥陀堂・観
音堂、二階の鐘楼、経蔵、湯屋等を創建し、
行平卿の子息の一人を法師にして寺務に定め、
彼を光朝禅師と言う。その他、しかるべき家々の
子や孫達十二人を法師にして供僧となし、諸尊の供養を
おろそかにしないと言った。
                  〔「因幡堂縁起絵巻」(12)おわり〕

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