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【鳥取寺社縁起シリーズ】「因幡堂縁起絵巻」(9)

 【鳥取寺社縁起シリーズ】第二弾として、「因幡堂縁起絵巻」詞書部分の注釈・現代語訳をnoteで連載いたします(月1回予定)。

 〔冒頭の写真は、鳥取県立博物館『はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』の表紙(「因幡堂縁起絵巻」の一場面)です。〕 


 ■寺社縁起本文・注釈・現代語訳

 __________________________________  本文(翻刻)は、『企画展 はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』〔鳥取県立博物館/2008年10月4日〕の巻末「鳥取県関係寺社縁起史料集」のものを使用しています。

  ※「因幡堂縁起絵巻」の概要は第1回をご覧ください。


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 【 第六段(10行目まで) 】
行平卿上洛の後なにとなく年月をふる程に
おむかひをそくやおほしめしけむ御光と御座をは
國にのこしおかせ給て虚空に飛て一条院
の御宇長保五年四月七日夜卯時あくれは八日
なるにみやこへ御影向ありけるに先行平卿の
夢の中に示されていはく我は西天より東土
の衆生を利益させむかたかめに来化す汝に宿縁
あるによてかさねて示と仰ありけれは帰洛の後
いそきむかへ奉るへきよし心中に挿といへとも公私
に妨られいたつらに光陰を送るなんとおもひて…

→行平卿*上洛の後なにとなく年月を経る程に
お迎ひ*遅くやおぼしめしけむ、御光と御座*をば
國に残し置かせ給ひて虚空*に飛びて一条院*
の御宇*、長保*五年四月七日夜卯時、明くれば八日*
なるに都へ御影向*ありけるに先に行平卿の
夢の中に示されていはく「我は西天*より東土
の衆生を利益*させむかたかめ※に来化*す。汝に宿縁*
あるによつて重ねて示す」と仰せありければ帰洛の後
急ぎ迎へ奉るべきよし心中に挿すといへども公私
に妨げられいたづらに光陰*を送るなんど思ひて

※テキストの本文(翻刻)は「させむかたかめ」となっているが、それでは意味が通じない。絵巻本体の写真を確認し、「させむか」の「さ」の文字と「たかめ」の「か」はなく、「せむかため」ではないかと推測した。

〈注釈(語の意味)〉
*卿…大納言・中納言・参議・三位以上の人。大臣を公といい、総称して公卿(くぎょう)という。また、参議および三位以上の人の敬称。
*お迎ひ…「むかひ」は「むかへ」の転。〔角川古語大辞典〕
*御光と御座…薬師如来の光背と台座のことと思われる。
*虚空…大空。空間。〔全訳古語辞典〕
*一条院…平安中期の天皇。円融天皇の第1皇子。名は懐仁(やすひと)。
(在位986~1011)(980~1011)
*御宇(ぎょう)…天子の治め給う御世(みよ)。
*長保…平安中期、一条天皇朝の年号。長徳5年1月13日(999年2月1日)改元、長保6年7月20日(1004年8月8日)寛弘に改元。
*四月七日夜卯時明くれば八日…四月八日は釈迦如来の誕生日であることを暗示しているか。「卯」は今の午前6時ごろ。また、およそ午前5時から7時のあいだの時刻。
*影向(ようごう・ようこう)…神仏が一時姿を現すこと。神仏の来臨。えごう。
*西天(せいてん・さいてん)…西方の土地。特に、仏教でがインドを指していう。
*利益(りやく)…《仏教語》ためになること。法力によって恩恵を与えること。自らを益するのを功徳(くどく)、他を益するのを利益という。
*来化(らいけ)…姿をかえて現れること。または、姿を現して人々を教化すること。〔例文 仏教語大辞典〕
*宿縁…前世からの因縁。宿因。
 ※記載がない場合は『広辞苑』による。
*光陰…(「光」は日、「陰」は月)月日。歳月。移り行く時。

〈現代語訳〉
行平卿は上洛の後に特にどうこういういう理由もなく年月を送るうちに
(薬師如来は)お迎えが遅いとお思いになったのであろうか、光背と台座を
国に残し置きなさって大空を飛んで一条院
の御代、長保五年四月七日の午前六時頃、日が改まると(釈迦の誕生日の)八日
であるその時に都に姿を現したのであるが先に行平卿の
夢の中に示されて言うことには「私は西天〔インド〕より東土〔日本〕
の衆生に対して恩恵を与えるためにやって来た。お前に縁が
あるゆえにくりかえし示す」とおっしゃたので(行平は)帰洛の後に
急ぎ迎へ申し上げる旨が心に起きたといっても公事・私事
に妨げられてむなしく月日を送っているなどと思って…
                   〔「因幡堂縁起絵巻」(9)おわり〕

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