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【鳥取寺社縁起シリーズ】「因幡堂縁起絵巻」(28)

 【鳥取寺社縁起シリーズ】第二弾として、「因幡堂縁起絵巻」詞書部分の注釈・現代語訳をnoteで連載いたします(月1回予定)。

 〔冒頭の写真は、鳥取県立博物館『はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』の表紙(「因幡堂縁起絵巻」の一場面)です。〕


■寺社縁起本文・注釈・現代語訳

__________________________________  本文(翻刻)は、『企画展 はじまりの物語ー縁起絵巻に描かれた古の鳥取ー』〔鳥取県立博物館/2008年10月4日〕の巻末「鳥取県関係寺社縁起史料集」のものを使用しています。

 ※「因幡堂縁起絵巻」の概要は第1回をご覧ください。

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【 第二十二段 】
永仁元年の春の比摂津國住人藤原氏重
といふものありけり病をうける程に舎兄
にて有ける者祈精のためにとて當寺に
籠侍ける夜の夢に御帳の中よりいとたうと
けなる僧出給て瑠璃の壷より御薬を給はる
を舎兄手にうくると思ておとろきぬたつ
とく忝なくおほえけれは軈下向し侍けりそに
つくまて此手をあらはすして病者にすはす
にそのあちはい橘をすふ心地してめてたし
是は一七日の事なれは次日十八日氏重か病
忽に平癒して身心安楽なりけれは弥信
仰ふかくして種々の立願をはたし申けると
かや

→永仁*元年の春の比、摂津國住人藤原氏重
といふものありけり。病をうける程に舎兄*
にて有りける者祈精*のためにとて當寺に
籠り侍りける夜の夢に御帳の中よりいとたうと
げなる僧出で給ひて瑠璃*の壷より御薬を給はる
を舎兄手に受くると思ひておどろきぬ。たつ
とく忝く*おぼえければ軈て*下向し侍りけり。そ*に
つくまで此の手をあらはずして病者に吸はす
にそのあぢはい橘*を吸ふ心地してめでたし。
是れは一七日のことなれば次日十八日氏重が病
忽ちに平癒して身心安楽なりければ弥々信
仰ふかくして種々の立願*をはたし申りけると
かや。

〈注釈(語の意味)〉
・永仁(えいにん)…鎌倉後期、伏見・後伏見天皇朝の年号。正応6年8月5日(1293年9月6日)改元、永仁7年4月25日(1299年5月25日)正安に改元。
・舎兄(しゃけい)…実の兄(他人の兄にもいう)。家兄。しゃきょう。
・祈精(きせい)…神仏の祈り請うこと。願かけ。祈願。
・瑠璃(るり)…七宝の一つ。青色の宝石でふつうはラピス・ラズリをさす。紺瑠璃。
 ※七宝(しっぽう・しちほう)…《仏教語》7種の宝物。経典により異動がある。㋐金・銀・瑠璃(るり)・玻璃(はり)・硨磲(しゃこ)・珊瑚(さんご)・瑪瑙(めのう)・七珍(しっちん)。
・忝(かたじけな)く…恐れ多く。もったいなく。ありがたく。
・軈(やが)て…そのまますぐに。まもなく。そのうち。すなわち。〔漢字源〕
・そ…それ。そこ。その人。
・橘(たちばな)…植物の名。こうじみかん。常緑樹で、香りの高い白い花をつける。果実はみかんに似て小さく、酸味が強い。〔全訳古語辞典〕
・立願(りつがん・りゅうがん)…神仏に願をかけること。

〈現代語訳〉
永仁元年の春の頃、摂津國の住人・藤原氏重
という者がいた。病の身となったゆえにその兄
である者が祈願のためといって当寺に
参籠しました。夜の夢で御帳の中からとても尊い
様子の僧がおでましになて瑠璃の壺の中から御薬をお与えになったの
を氏重の兄が手に受けると思って目が覚めた。尊くて
恐れ多く思ったのでそのまますぐに帰郷しました。そこに
着くまでこの手を洗わないでいて病の氏重に吸はせ
たところその味わいは橘を吸ふような心持ちで魅力的だった。
これは一七日の出来事であるので次の日の十八日に氏重の病が
たちどころに治って心身の苦痛なく楽になったためにますます信
仰を深めてさまざまの願掛けを果たし申し上げたと
かいうことだ。
                  〔「因幡堂縁起絵巻」(28)おわり〕

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