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詩のサークルが20年続いている理由(2024)

詩の誌のサークルが20年続いている理由
Saven Satow
Feb. 12, 2024

「人を動かす欲求は二つしかない。一つは性欲。もう一つは偉くなりたいという欲求である」。
ジークムント・フロイト
 トランプで勝者が次のラウンドの親になるゲームがある。ブリッジが一例だ。親は一勝負ごとに結果に応じて交代する。親が同じプレーヤーで続くこともあれば、頻繁に変わることもある。このシステムは英語で "Dealer Rotation" または "Rotating Dealer" と呼ぶ。

 これに似たルールを採用して20年も続いている詩のサークルがあるそうだ。同好会は始まった頃は活気があっても、しばらくすると尻すぼみの状態になり、いつの間にか自然消滅することが少なくない。20年も続くのは異例である。そのルールは次の通りだ。

 このサークルには誰もが入会できる。退会も自由だ。参加するには、発表されているお題の作品を決められた期間内に投稿する必要がある。作品の長さや形式は自由である。

 締め切りを迎えたら一定期間内に、参加者は自分の作品を除いて最も評価するものに投票する。最多得票数を獲得した作品が最優秀賞に選ばれる。複数作品が同数だった場合、投稿が早かった方を優先とする。

 最優秀作品の作者は一定期間内に次回のお題を決めなければならない。課題を発表し、併せて投稿・投票期間も提示する。ホストが期間内にお題を決められなかった場合、次点の作者が繰り上げ当選となり、同様の手続きを勧める。また、課題を発表したものの、ホストがその回に投稿しなくてもかまわない。

 こうしたルールで回を重ね、サークルは20年も続いたというわけだ。

 サークルが長続きしない大きな理由は、往々にして、それを維持運営する事務の負担である。詩人は会に参加して自作を鑑賞・評価されたいと思うが、面倒なので、事務に携わりたくないものだ。しかし、その役回りがないと、会は持続できない。

 ある人物がホストを専門的に担当したとしよう。回を重ねるに連れ、その運営方法に不満を抱く参加者も出るに違いない。強引だ、あるいはやる気がないと内部対立が激化、会が立ち行かなくなる。ホストを固定すると、その人にだけ負担が増えてしまう。交代しても、同じことが繰り返され、結局、誰も引き受け手がなくなる。

 また、入退会が自由なので、ローテーション制やくじ引き性も採用できない。参加人数が不特定だから、順番が定まらない。くじ引きにしても、母集団の変動により公平に選ぶことができない。

 このように、ホスト選出を人から考えるとうまくいかない。作品からシステムを考える発想の転換が必要だ。

 詩人は自作を他の参加者から評価されたいと願っている。そのため、自信作を投稿する。それなら、この承認欲求を利用してホストを決めればよい。自作以外の作品に投票して最優秀作を選び、その作者に次回のホストを担当してもらう。フリーライダーになりたければ、駄作を投稿すればよい。しかし、そんな作品を参加者に読まれるのは屈辱的である。そもそもそれでは何のために投稿するのかわからなくなる。

 これは非常に合理的なシステムである。しかも、汎用性が高い。詩のみならず、短歌や俳句、散文、脚本、絵画、写真、動画、マンガ、書道、音楽など芸術全般に拡張できる。表現者には承認欲求がある。それを利用して参加者の嫌がる事務を担当させて、会を持続させる。

  このシステムの構造はクライアント=サーバ型ではなく、P2P型に近い。開放的な分散型である。不定形で、中心がないが、参加者の民主的な手続きによって便宜的なホストが選出され、タスクが実行される。それが達成されると、同様のプロセスが繰り返される。ITの世界でも新たなモデルとして応用できるように思える。かりに命名するなら「結果に基づくホスト交代システム(Result-Based Host Change System)」とでもなるだろう。

 なお、このシステムの提唱者はすでに退会しているそうだ。その理由は定かではない。
〈了〉


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